(旧版)高血圧治療ガイドライン2009
第12章 二次性高血圧
POINT 12b |
【腎血管性高血圧】
- 腎血管性高血圧(RVHT)は腎動脈の狭窄や閉塞による高血圧で,全高血圧患者の約1%にみられる。中・高年者では粥状動脈硬化が,若年者では線維筋性異形成が主な成因となる。粥状動脈硬化性RVHTは,閉塞性動脈硬化症や虚血性心疾患など他の血管病変を合併することが多い。両側性の腎動脈狭窄・閉塞は,虚血性腎症と呼ばれる進行性の腎不全をきたす。
- RVHTは重症高血圧や治療抵抗性高血圧を示す場合が多い。腹部血管雑音,腎サイズの左右差,腎機能障害,低K血症などが診断の手がかりとなるが,全例にみられるわけではない。レニン・アンジオテンシン(RA)系阻害薬の投与後に腎機能が悪化する場合は,両側性RVHTを疑う。
- RVHTの確定診断には,形態的診断(CTA,MRA,腎動脈造影)と機能的診断(血漿レニン活性,レノグラムなど)が重要である。腎血流ドプラは,両者のスクリーニング検査として有用である。
- RVHTの治療では,経皮的腎動脈形成術(PTRA)が行われるが,適応については吟味を要する。PTRAは降圧には有効であるが,腎保護効果のエビデンスは十分ではない。外科的血行再建術が適応となる場合もある。保存的治療としては,降圧薬による血圧コントロールを行う。RA系阻害薬は,片側性RVHTでは有効であるが,両側性の場合には禁忌となる。
2.腎血管性高血圧
腎血管性高血圧は腎動脈の狭窄あるいは閉塞により発症する高血圧であり,高血圧患者の約1%に認められ,腎灌流圧の低下によるRA系の賦活化が機序として重要である。腎動脈狭窄の原因としては,中・高年に多い粥状動脈硬化が最も多く,若年者に好発する線維筋性異形成がこれに次ぎ,若年女性に多い大動脈炎症候群(高安動脈炎)もしばしばみられる。他に先天性奇形,大動脈解離,腎外からの腎動脈圧迫や血栓・塞栓なども原因となる。片側性狭窄が多いが,両側性狭窄もしばしば認められる。粥状動脈硬化は腎動脈の起始部に,線維筋性異形成は中遠位部に好発する748)。
粥状動脈硬化では全身の動脈硬化が進行しており,閉塞性動脈硬化症や虚血性心疾患などの合併や,腎機能低下や蛋白尿を伴う症例が多い。本邦の報告では,剖検で心筋梗塞や脳卒中を認めた患者のそれぞれ12%749),10%750),心臓カテーテル検査を受けた患者の7%751),重症頸動脈狭窄患者の27%752)に腎動脈狭窄が認められている。線維筋性異形成は,内膜肥厚や中膜肥厚などのサブタイプがあり,他の血管狭窄を伴う場合もある。大動脈炎症候群は,炎症所見や他の大血管の狭窄あるいは拡張性病変を伴い,血圧の左右差,上下差がしばしば認められる。
腎血管性高血圧はIII度高血圧を呈する場合が多く,悪性高血圧の原因となることもある。腎機能は正常なことも少なくないが,両側性狭窄があれば障害され,これによる腎不全は虚血性腎症と呼ばれる。虚血性腎症は末期腎不全の基礎疾患の10%以上を占め753),中・高年者で腎障害が急速に進行する場合や,心機能からは説明しがたい肺水腫をきたす場合は,その可能性を考慮すべきである。
粥状動脈硬化では全身の動脈硬化が進行しており,閉塞性動脈硬化症や虚血性心疾患などの合併や,腎機能低下や蛋白尿を伴う症例が多い。本邦の報告では,剖検で心筋梗塞や脳卒中を認めた患者のそれぞれ12%749),10%750),心臓カテーテル検査を受けた患者の7%751),重症頸動脈狭窄患者の27%752)に腎動脈狭窄が認められている。線維筋性異形成は,内膜肥厚や中膜肥厚などのサブタイプがあり,他の血管狭窄を伴う場合もある。大動脈炎症候群は,炎症所見や他の大血管の狭窄あるいは拡張性病変を伴い,血圧の左右差,上下差がしばしば認められる。
腎血管性高血圧はIII度高血圧を呈する場合が多く,悪性高血圧の原因となることもある。腎機能は正常なことも少なくないが,両側性狭窄があれば障害され,これによる腎不全は虚血性腎症と呼ばれる。虚血性腎症は末期腎不全の基礎疾患の10%以上を占め753),中・高年者で腎障害が急速に進行する場合や,心機能からは説明しがたい肺水腫をきたす場合は,その可能性を考慮すべきである。
1)診断の手がかり
腎血管性高血圧や虚血性腎症を疑わせる病歴,臨床徴候を表12-3に示す。
ただし,これらの病歴や徴候はすべての患者に認められるわけではない。
ただし,これらの病歴や徴候はすべての患者に認められるわけではない。
表12-3.腎血管性高血圧の診断の手がかり |
|
2)確定診断のための検査
腎血管性高血圧の診断には,腎動脈に狭窄があること(形態的診断)と,狭窄によってRA系が亢進し,高血圧の原因になっているのを確認すること(機能的診断)が重要である(図12-1)。
腎血管性高血圧が疑われた場合,機能的診断としてまず血漿レニン活性(PRA)を測定する。PRAは片側性腎動脈狭窄では上昇することが多いが,臨床経過の長い場合や両側性腎動脈狭窄では正常値をとる場合がある。またPRAは降圧薬の影響を受けることに注意を要する。分腎機能,腎血流の左右差の評価には,腎シンチ・スキャン(レノグラム)が有用である。カプトプリルを負荷すれば,狭窄側と非狭窄側との差がより明確になる。カプトプリル投与前後でのPRA測定も有用で,腎血管性高血圧では負荷後PRAが過剰に上昇する。侵襲的ではあるが分腎静脈血採血も行われ,狭窄側のPRAが健側より1.5倍以上高ければ腎動脈狭窄による高血圧と考えられる。
形態的かつ機能的診断のスクリーニングとして有用性が高いのは,非侵襲的な超音波腎血流ドプラ検査である754)。腎動脈起始部ならびに腎内の区域動脈,葉間動脈の血流を検出し,腎動脈狭窄の評価を行う。また,腎内血流パターンから求められる抵抗係数は,経皮的腎動脈形成術(percutaneous transluminal renal angioplasty:PTRA)の効果予測の指標となることが示唆されている755)。造影CT血管撮影(CTA)や磁気共鳴血管造影(MRA)は,有用性が高いことが示されているが756),両検査とも腎機能低下症例では慎重に適応を検討しなければならない。形態的診断の確認検査は,大動脈造影や選択的腎動脈造影検査である。治療,特にPTRAの適応決定のためには形態的・機能的検査を組み合わせて行い,治療効果が期待できる症例にのみ造影検査を施行するのが望ましい。
腎血管性高血圧が疑われた場合,機能的診断としてまず血漿レニン活性(PRA)を測定する。PRAは片側性腎動脈狭窄では上昇することが多いが,臨床経過の長い場合や両側性腎動脈狭窄では正常値をとる場合がある。またPRAは降圧薬の影響を受けることに注意を要する。分腎機能,腎血流の左右差の評価には,腎シンチ・スキャン(レノグラム)が有用である。カプトプリルを負荷すれば,狭窄側と非狭窄側との差がより明確になる。カプトプリル投与前後でのPRA測定も有用で,腎血管性高血圧では負荷後PRAが過剰に上昇する。侵襲的ではあるが分腎静脈血採血も行われ,狭窄側のPRAが健側より1.5倍以上高ければ腎動脈狭窄による高血圧と考えられる。
形態的かつ機能的診断のスクリーニングとして有用性が高いのは,非侵襲的な超音波腎血流ドプラ検査である754)。腎動脈起始部ならびに腎内の区域動脈,葉間動脈の血流を検出し,腎動脈狭窄の評価を行う。また,腎内血流パターンから求められる抵抗係数は,経皮的腎動脈形成術(percutaneous transluminal renal angioplasty:PTRA)の効果予測の指標となることが示唆されている755)。造影CT血管撮影(CTA)や磁気共鳴血管造影(MRA)は,有用性が高いことが示されているが756),両検査とも腎機能低下症例では慎重に適応を検討しなければならない。形態的診断の確認検査は,大動脈造影や選択的腎動脈造影検査である。治療,特にPTRAの適応決定のためには形態的・機能的検査を組み合わせて行い,治療効果が期待できる症例にのみ造影検査を施行するのが望ましい。
図12-1.腎血管性高血圧の確定診断のための検査 |
![]() |
3)治療
(1)血行再建術
腎血管性高血圧,腎動脈狭窄に対して,現在はPTRAが多く施行されている。本法は比較的侵襲が少なく,繰り返し施行できる利点がある。PTRAは線維筋性異形成に対しては初期成功率が高く757),手技的に困難な症例でないかぎり第一選択となろう。線維筋性異形成ではPTRA後の長期予後も比較的良好であるが,再狭窄をきたすことも少なくない758)。一方,粥状動脈硬化性の腎動脈狭窄は,バルーンのみのPTRAでは初期有効率はやや低く,再狭窄率が高く,治療成績は必ずしもよくなかった759)。ステントが使用されるようになって治療成績は向上し,腎機能や血圧の明らかな改善を認めたとの報告がある760)。
しかし,動脈硬化性の腎動脈狭窄に対して薬物治療とPTRAを対比した前向き試験では,PTRAは降圧には有効と考えられるが,腎機能への有効性については明らかではない761)。最近の系統的レビューでは,PTRAの降圧効果が両側性狭窄でのみ薬物治療群に比し良好である762),あるいは降圧効果は大きい傾向にあるが有意でない763),との結果であった。また,PTRA群は薬物治療群より要する降圧薬が少なく,心血管,腎血管の合併症が少なく,腎機能には差がなかった763)。このようにPTRAの有用性について現段階では完全にコンセンサスが得られておらず,現在進行中の大規模臨床試験764),765)の結果がまたれる。海外におけるPTRA,ステント施行のガイドラインでは,降圧と腎臓の救済,虚血性腎症による肺水腫の改善が期待できる症例に対して施行すべきとされている766)。したがってPTRAは適応を十分に吟味して施行すべきである。
PTRAでの血行再建が困難な場合や薬物治療に抵抗性の場合は,バイパス術や自家腎移植などの外科的再建を検討する。外科的血行再建の有効性は,本邦でも高率に得られている767)。また,狭窄側の腎機能が廃絶してレニン分泌は残存している症例には,腎摘出を行うことで降圧が期待できる。
しかし,動脈硬化性の腎動脈狭窄に対して薬物治療とPTRAを対比した前向き試験では,PTRAは降圧には有効と考えられるが,腎機能への有効性については明らかではない761)。最近の系統的レビューでは,PTRAの降圧効果が両側性狭窄でのみ薬物治療群に比し良好である762),あるいは降圧効果は大きい傾向にあるが有意でない763),との結果であった。また,PTRA群は薬物治療群より要する降圧薬が少なく,心血管,腎血管の合併症が少なく,腎機能には差がなかった763)。このようにPTRAの有用性について現段階では完全にコンセンサスが得られておらず,現在進行中の大規模臨床試験764),765)の結果がまたれる。海外におけるPTRA,ステント施行のガイドラインでは,降圧と腎臓の救済,虚血性腎症による肺水腫の改善が期待できる症例に対して施行すべきとされている766)。したがってPTRAは適応を十分に吟味して施行すべきである。
PTRAでの血行再建が困難な場合や薬物治療に抵抗性の場合は,バイパス術や自家腎移植などの外科的再建を検討する。外科的血行再建の有効性は,本邦でも高率に得られている767)。また,狭窄側の腎機能が廃絶してレニン分泌は残存している症例には,腎摘出を行うことで降圧が期待できる。
(2)降圧薬治療
血行再建までの期間や,血行再建が不可能もしくは行わない症例には,降圧薬による治療を行う。RA系を抑制するβ遮断薬,ARBやACE阻害薬が効果的であるが,両側腎動脈狭窄症例の場合にはARBおよびACE阻害薬は原則禁忌である。Ca拮抗薬はRA系への影響が比較的少なく,安全性が高い。Ca拮抗薬とβ遮断薬の併用もよい。利尿薬は,RA系を亢進させるため補助的な使用にとどめるが,腎不全を呈する場合には適応となろう。ARBやACE阻害薬を使用する際には,少量より投与を開始し,過剰な降圧や高K血症,腎機能に注意しながら用量を調整する。腎機能が急速に悪化する場合には,投与を中止し他の降圧薬に変更する。