メニエール病・遅発性内リンパ水腫診療ガイドライン2020年版
26.メニエール病の治療のClinical Question 1
26.メニエール病の治療のClinical Question
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●解説● | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
メニエール病に対する抗めまい薬の有効性は,ベタヒスチンに関するRCTのシステマティックレビューがなされている。Cochrane共同研究においてプラセボを対象とした7つのRCTの243例におけるシステマティックレビューが行われた1)。めまいに対する効果は,個々のRCTでは有効であるものが多いものの,それらは診断法,アウトカムおよび研究方法の質が高くないとして,有効性を示すエビデンスはないと結論づけ,さらに質の高い研究の必要性を述べている。聴力や耳鳴については無効である。一方,Nauta, 2014は,12のRCTについてメタアナリシスを行った2)。これは,それぞれの研究における異なった分類尺度で評価されためまいに対する有効性(その判定基準は様々である)を点数化し,検討したものである。1日あたりの投与量は16mgから48mgで,投与期間は14日から3カ月であった。344例のメニエール病については,プラセボに対するベタヒスチンの治療効果の点数のオッズ比は3.37であり,有効であることを報告している。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
比較的近年のRCTでは,81例のメニエール病に対しプラセボを対照とした1日量32mgのベタヒスチンを3カ月投与する研究において,月平均のめまい回数の減少効果があった3)。メニエール病患者52例に,フルナリジンを対照として1日量48mgのベタヒスチンを8週投与し,めまいの苦痛度をDizziness handicap inventory(DHI)を用いて検討した二重盲検試験がある。これによるとベタヒスチン投与したものは,フルナリジン投与のものよりも8週後のDHIスコアが有意に低下したと述べている4)。これらのことから,ベタヒスチンは3カ月程度の期間であれば,メニエール病のめまい発作を抑制し,苦痛度を軽快させる可能性がある。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ベタヒスチンの長期投与についてのRCTもある。112例のメニエール病患者の治療前3カ月と投与1年目直前3カ月の月平均発作回数を指標とすると,ベタヒスチン大量(1日量144mg)投与したものは少量(1日量48~72mg)投与したものにくらべ有意に発作回数を減少させたと述べた5)。しかしながら,221例のメニエール病患者にプラセボを用いた48mg,144mgのRCTでは,投与1年目における月平均めまいの発作回数はいずれもプラセボと比較して差はなかったと述べている6)。ベタヒスチンの1年におよぶ長期投与は無効と思われる。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
メニエール病に対するジフェニドールの有効性に関するシステマティックレビューはない。二木ら, 1972は,メニエール病患者24名に対するプラセボを対照とした各3週間投与とするクロスオーバー試験を行なった。ジフェニドールはプラセボと比べ,めまいの改善と体平衡の改善がみられた7)。ジフェニドールの長期間投与に関する報告はない。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
◆付記 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
メニエール病に対する抗めまい薬の有効性に関するJames, et al., 2001とNauta, 2014の二つのシステマティックレビューでは,まったく異なった結果を示している。James, et al., 2001らは,多くのRCTでの診断の不正確さについて述べているが,メニエール病の診断は,国,組織,時代によって多少相違があり,必ずしも一定の基準でRCTを行うことは困難であろう。またNauta, 2014は,James, et al., 2001らの研究では市販されていない徐放性製剤によるRCTを含めており,疑問を指摘している。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
アメリカ耳鼻咽喉科頭頸部外科学会(AAO-HNS)および日本めまい平衡医学会では,メニエール病のめまいに対する治療効果の判定は月平均のめまい発作回数で評価することを推奨しており,最近の多くのRCTもそれに従っている。この方法は,定量化が可能で,メニエール病の主要な症状のひとつであるめまい評価に優れている。しかし,メニエール病は前庭症状,蝸牛症状のほかに自律神経症状や精神心理的症状など多彩な症状をもつ。Nauta, 2014やArbella, et al., 2003による異なった評価法による検討も必要かもしれない。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
なお,海外で市販されているベタヒスチンはベタヒスチン塩酸塩(分子量 209.12)であるが,本邦で市販されているものはベタヒスチンメシル酸塩(分子量 328.41)である。ベタヒスチン塩酸塩16mgはベタヒスチンメシル酸塩24mgに相当する。海外のRCTで用いられている1日量ベタヒスチン塩酸塩16~48mgは,ベタヒスチンメシル酸塩に換算すると24~72mgとなる。しかし,本邦におけるベタヒスチンメシル酸塩用量は18~36mgと低用量である。本邦における用量の見直しが必要となる可能性がある。また,本邦のベタヒスチンメシル酸塩は1日量36mgで使用すべきであり,1日量18mgでは効果が低い可能性がある。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
◆文献の採用方法 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
文献検索対象期間は2018年3月31日までとした。文献検索には,PubMed,Cochrane Library,医学中央雑誌を用いて実施した。PubMedでは,「Meniere's disease」,「anti-vertigo drug」,「betahistine」をキーワードとして組み合わせて検索した。研究デザインや論文形式による絞り込みは行っていない。Cochrane Libraryでは,「Meniere's disease」をキーワードとしてシステマティックレビューとRCTを検索した。医学中央雑誌では「メニエール病」,「鎮暈剤」,「抗めまい薬」とその類義語をキーワードとして組み合わせて検索した。その結果,英語文献で183編を抽出した。和文文献では,会議録を除く55編を抽出した。それらの中からメタアナリシス2編,RCT4編を抽出した。さらに要旨のレビューを行い,前向きコホート研究2編を追加し,5編を採用した。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
◆推奨度の判定に用いた文献 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
James, 2001(レベル1a),Nauta, 2014(レベル1a),二木ら, 1972(レベル1b),Mira, et al., 2003(レベル1b),Albera, et al., 2003(レベル1b),Strupp, et al., 2008(レベル1b),Adrion, et al., 2016(レベル1b) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
参考文献 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
1) | James AL, Burton MJ: Betahistine for Ménière's disease or syndrome. Cochrane Database Syst Rev: CD001873, 2001. | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
2) | Nauta JJ: Meta-analysis of clinical studies with betahistine in Ménière's disease and vestibular vertigo. Eur Arch Otorhinolaryngol 271: 887-897, 2014. | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
3) | Mira E, Guidetti G, Ghilardi L, Fattori B, Malannino N, Maiolino L, Mora R, Ottoboni S, Pagnini P, Leprini M, Pallestrini E, Passali D, Nuti D, Russolo M, Tirelli G, Simoncelli C, Brizi S, Vicini C, Frasconi P: Betahistine dihydrochloride in the treatment of peripheral vestibular vertigo. Eur Arch Otorhinolaryngol 260: 73-77, 2003. | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
4) | Albera R, Ciuffolotti R, Di Cicco M, De Benedittis G, Grazioli I, Melzi G, Mira E, Pallestrini E, Passali D, Serra A, Vicini C: Double-blind, randomized, multicenter study comparing the effect of betahistine and flunarizine on the dizziness handicap in patients with recurrent vestibular vertigo. Acta Otolaryngol 123: 588-593, 2003. | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
5) | Strupp M, Hupert D, Frenzel C, Wagner J, Hahn A, Jahn K, Zingler VC, Mansmann U, Brandt T: Long-term prophylactic treatment of attacks of vertigo in Ménière's disease: comparison of a high with a low dosage of betahistine in an open trial. Acta Otolaryngol 128: 520-524, 2008. | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
6) | Adrion C, Fischer CS, Wagner J, Gürkov R, Mansmann U, Strupp M: BEMED study group. Efficacy and safety of betahistine treatment in patients with Ménière's disease: primary results of a long term, multicentre, double blind, randomised, placebo controlled, dose defining trial (BEMED trial). BMJ 352: h6816, 2016. | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
7) | 二木隆,北原正章,森本正規:二重盲検法による末梢性眩暈に対する Diphnenidol の薬効検定:交差試験に基づく逐次検定法による推計学的考察と他覚所見の判定に関する諸問題について.耳鼻臨床 65:85-105, 1972. |