(旧版)がん患者に対するアピアランスケアの手引き 2016年版

 
 Ⅱ.日常整容編 CQ48

Ⅱ.日常整容編

CQ48
化学療法中の爪の変色に対して,安全なカモフラージュ方法は何か
  推奨グレード
C1a
エビデンスはないが,患者のQOL維持のために,爪の変色のカモフラージュとしてマニキュア(ネイルポリッシュ・ネイルエナメル等)を用いることは勧められる。

解説

化学療法中には,線状出血や色素沈着,爪甲を横走する白線などにより,爪甲部の変色が生じることがある。爪甲の変色は目につきやすく,外出や対人関係などに影響を及ぼすとの報告がある1)。患者により,他者からの視線が気になるほか,就労や就学への影響を懸念することもある。

爪の変色に対するカモフラージュについては,エビデンスレベルの高い先行研究や症例報告は見い出せなかった。

マニキュアは,ニトロセルロースを主成分とした化粧品原料2)であり,一般に広く使用されている。マニキュアについては,国内においてアレルギー性接触性皮膚炎の報告が一例あったが,原因物質については特定されていない3)。「爪に優しい」と謳ったマニキュアも開発・販売されているが,マニキュアに含有される成分や剤型について,がん患者の使用に適しているかの検証はなされていない。したがって,現時点では,特に使用が推奨される成分や剤型の製品はなく,患者は好みで使用する製品を選べばよい。

爪の変色のカモフラージュにマニキュアを使用する場合には,爪甲や爪郭の明度低下に合わせて,中・低明度の色を選択し,同色を数回重ねて塗布したりするとよい。男性や小児の場合は,肌色や爪の色に近い色を塗布した上から,マットな質感に仕上がるトップコートを使用してもよい。マットな質感に仕上がるトップコートは,マニキュアのツヤを消し,自爪に近い印象をつくる。したがって,男性や小児でも抵抗なく使用できる4)

また,マニキュアとリムーバー(除光液)の使用については,爪甲遊離縁の層状剝離の原因になる,との指摘がある5)~7)。また,爪甲遊離片を用いた実験では,有機溶剤により爪甲が層状に分裂する現象や,有機溶剤による爪の水分保持力の変化,脂質成分の有機溶剤中への溶出も確認されている8)。別の実験では,有機溶剤に浸漬した爪は水分含有量が低く(10%以下),硬くてもろくなるため,折れやすくなっていることも判明している9)。そして,爪の水分含有量が適度(13~17%)よりも少ない場合に物理的な刺激で折れやすく,多すぎる場合には物理的な刺激で爪甲の層状分裂が起きることも報告されている10)

このような報告から有機溶剤が用いられているマニキュアやリムーバーを頻繁に爪に用いた場合の影響が懸念されるが,これらの報告で行われている実験条件や方法は,有機溶剤に爪片を長時間浸漬させるなど,実際のマニキュアやリムーバーの使用に合わない過剰な条件となっている。

最近のマニキュアには爪を保護する成分が配合されており11),またリムーバーについても油分を配合し,脱脂・脱水に配慮された製品が販売されている12)。そのため,頻回な利用を避け使用を週に一回程度にとどめ,使用後は爪をよく洗った後にクリームやオイルなどの油分を補給すれば,爪の問題はないと思われる。

マニキュア除去に際し,アセトン含有のリムーバー(除光液)とアセトンを含有しないリムーバー(除光液)の使用による経爪甲的水分喪失量の回復を比較したところ,回復程度に関係がないとの報告13)があり,あえてノンアセトンを謳った除光液を使用する必要もない。

検索式・参考にした二次資料

PubMedにて,"cancer", "gel", "remover", "care", "polish", "cosmetic makeup", "therapy", "cover makeup", "treatment", "makeup", "nail", "nails", "patient", "cosmetic camouflage", "neoplasms", "radiotherapy", "nail color"のキーワードを用いて検索した。医中誌Webにて,“癌”,“メイクアップ”,“爪”,“癌治療”,“ネイルケア”,“ネイルメイク”,“マニキュア”,“除光液”,“ネイル”,“腫瘍”,“化学療法”,“爪色”のキーワードを用いて検索した。さらに,保有する文献を参考にした。

参考文献
1)野澤桂子,和泉秀子.外見変化のケア.看護技術.2010; 50(11): 998-1001.(レベルⅥ)
2)光井武夫編.新化粧品学.第2版.東京:南山堂;2001.p.432-6.(レベルⅥ)
3)東 禹彦.ネイルカラーによるアレルギー性接触皮膚炎.皮膚.1984; 26(4): 898-901.(レベルⅥ)
4)野澤桂子,藤間勝子,武藤裕子.美容に関するケア.がん看護.2014; 19(2): 187-9.(レベルⅣb)
5)東 禹彦.爪の疾患-1-.臨床皮膚科.1974; 28(1): 69-79.(レベルⅥ)
6)安田利顕.nail cosmeticsの問題点.皮病診療.1985; 7(9): 876-9.(レベルⅥ)
7)西山茂夫.爪の異常.現代医療.1988; 20(1): 32-5.(レベルⅥ)
8)松下 篤,山下美香,大越健自.有機溶剤の爪保湿能に及ぼす影響.粧技誌.1994; 28(3): 288-94.(レベルⅥ)
9)菅原 享,川相みずえ,細川 均,鈴木敏幸.爪中の水分と爪の力学的特性.粧技誌.1999; 33(4): 283-9.(レベルⅥ)
10)菅原 享,川相みずえ,鈴木敏幸.爪中の水分と爪の力学的特性(第3報).粧技誌.2000; 34(2): 160-5.(レベルⅥ)
11)金子勝之,山崎亮太,藪 李仁,他.速乾性ネールエナメルの開発.粧技誌.2001; 35(1): 8-13.(レベルⅥ)
12)山崎一徳,田中宗男.新規なW/O乳化型ネイルエナメルの開発.粧技誌.1991; 25(1): 33-50.(レベルⅥ)
13)東 禹彦.経爪甲的水分喪失量に及ぼすマニキュアの影響.皮膚.1990; 32(6): 722-6.(レベルⅥ)
 
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