(旧版)がん患者に対するアピアランスケアの手引き 2016年版
Ⅱ.日常整容編
CQ45 |
化学療法による眉毛の脱毛に対してアートメイクは有用か | |
推奨グレード C1b |
化学療法による眉毛の脱毛に対して,アートメイクが安全なカモフラージュ方法となるエビデンスはない。重篤な副作用やMRI検査の障害の報告もあるが,高いQOL改善効果が見込まれるなら,主治医と相談のうえ,医師免許をもつ者が注意深く施術する場合には否定しない。 |
●解説
アートメイクは,人の皮膚に針を用いて色素を注入することにより,化粧をしなくても眉,唇などの色合いを美しくみせようとする施術である。アートメイクの他にも,入れ墨メイクや永久メイクなどさまざまな呼び方があるが,特に定まったものはない。アメリカでは,パーマネントメイクやコスメティックタトゥーなどとも呼ばれている1)。
色素を皮膚に入れる行為は,世界的には,その許容度は別にして,身体装飾法の一つとして広く行われており,日本においても医師免許をもたない者が多く施術しているのが現状である。とりわけ,アートメイクは皮膚のごく浅い層に色を入れ,数年経つと消えるため,永久に消えない刺青やタトゥーとは異なると説明し,医師の監督の下,医療従事者が施術を行うことは問題ないと解釈する者がいる。しかし,針先に色素を付けながら,皮膚の表面に墨等の色素を入れる行為は,厚生労働省の通達により,医師が行うのでなければ保健衛生上危害の生じるおそれのある行為であるとされ,医師免許をもたない者が業として行えば医師法違反となる2)。
また,色素には,人について安全性が確認されていない物質も含有されており,その危険性の認知度も低く,アートメイクが安易に行われている。副作用としては,アレルギー性皮膚炎,苔癬様や肉芽腫様の皮膚病変,感染症(局所,全身),悪性腫瘍の発生などが報告され3)4),ドイツ語圏での大規模調査においては,継続する皮膚障害が6%にみられるという報告もある5)。またMRI検査時における影響に関しては,熱傷,灼熱感や紅斑を起こした症例やアーチファクトの発生の報告もあるが6),検査の妨げにはならないとの報告もある7)。
以上より,アートメイクの安全性やカモフラージュとしての有効性の高いエビデンスはないが,アートメイクにより高いQOL改善効果が見込まれるなら,主治医と相談のうえ,医師免許をもつ者が注意深く施術することは否定しない。
検索式・参考にした二次資料
PubMedにて,"tattoo", "eyebrow", "side effect", "adverse reactions", "permanent make", "cosmetic tattoo"のキーワードを用いて検索した。医中誌Webにて,“アートメイク”,“入れ墨メイク”,“永久メイク”,“パーマネントメイク”,“コスメティックタトゥー”,“入れ墨”,“刺青”のキーワードを用いて検索した。
参考文献 | |
---|---|
1) | 独立行政法人国民生活センター.アートメイクの危害.2011. http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20111027_1.html |
2) | 医師免許を有しない者による脱毛行為等の取扱いについて.医政医発第105号,厚生労働省医政局医事課長.2001. https://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.jp/anzen/kyougikai/h15/documents/131109-a.pdf(レベルⅥ) |
3) | Wenzel SM, Rittmann I, Landthaler M, Bäumler W. Adverse reactions after tattooing: review of the literature and comparison to results of a survey. Dermatology. 2013; 226(2): 138-47.(レベルⅥ) |
4) | Kluger N, Koljonen V. Tattoos, inks, and cancer. Lancet Oncol. 2012; 13(4): e161-8.(レベルⅥ) |
5) | Klügl I, Hiller KA, Landthaler M, Bäumler W. Incidence of health problems associated with tattooed skin: a nation-wide survey in German-speaking countries. Dermatology. 2010; 221(1): 43-50.(レベルⅥ) |
6) | Offret H, Offret M, Labetoulle M, Offret O. Permanent cosmetics and magnetic resonance imaging. J Fr Ophtalmol. 2009; 32(2): 131.e1-3.(レベルⅥ) |
7) | Tope WD, Shellock FG. Magnetic resonance imaging and permanent cosmetics (tattoos): survey of complications and adverse events. J Magn Reson Imaging. 2002; 15(2): 180-4.(レベルⅥ) |