(旧版)がん患者に対するアピアランスケアの手引き 2016年版

 
 Ⅱ.日常整容編 CQ38

Ⅱ.日常整容編

CQ38
抗がん剤治療中の患者に対して勧められる紫外線防御方法は何か
  推奨
抗がん剤治療中,外出時には,日傘や帽子・長袖を着用し物理的に紫外線防御を行い,さらに紫外線吸収剤を含まないノンケミカルタイプの日焼け止め製品を使用する。
  推奨グレード
C1a
高いエビデンスはないが,日焼け止め製品を使用することが勧められる。
  推奨グレード
C1a
高いエビデンスはないが,紫外線吸収剤が配合されていない製品(ノンケミカル)を使用することが勧められる。
  推奨グレード
C1a
エビデンスはないが,O/W 型(親水性)製品を使用することが勧められる。
  推奨グレード
C1a
エビデンスはないが,SPFは15から30,PAはPA++からPA+++の日焼け止め製品を使用することが勧められる。
  推奨グレード
C1a
高いエビデンスはないが,季節を問わず太陽光への曝露が考えられる日中(8時から16時前後)に外出する場合には,日焼け止め製品を使用することが勧められる。
  推奨グレード
C1a
エビデンスはないが,2~3時間ごとに塗り直すことが勧められる。

解説

1.日焼け止め製品の使用について

地球表面には,290nm以上の波長の太陽光が到達する。太陽光は,大きく,紫外線,可視光,赤外線の3つに分類され,なかでも紫外線は,生物に対する反応性からUVB(290~320nm),UVA(320~400nm)に分類される。UVBは,ヒト皮膚に照射されると炎症反応を惹起し,光化学反応によるシクロブタン型ピリミジンダイマーや6-4付加体等のDNA損傷を引き起こす1)。そして,UVAは,即時型黒化反応を惹起するとともに,皮膚表面および内部においては,活性酸素の産生を誘導し2),細胞内の酸化状態を高める。この結果,皮膚表面での露光部皮膚では,非露光部皮膚に比較して,角層細胞には活性酸素由来の酸化タンパクが多く観察されることになる3)。また,皮膚内部の細胞では,8-ヒドロキシデオキシグアノシン(8-OH-dG:8-hydroxy-2'-deoxyguanosine)が酸化型DNA損傷を惹き起こす4)。このようなDNA損傷の慢性的な繰り返しは,健常皮膚においても,基底細胞がんや有棘細胞がんなどの皮膚がんの発症原因となる5)。さらに,マウス実験6)ならびにヒト試験7)において,紫外線曝露は表皮内でのランゲルハンス細胞の密度低下を引き起こすことが報告されており,紫外線曝露は皮膚がん発症の一因といえる。

がん治療により皮膚刺激を受けやすい状態になっている患者には,紫外線障害の危険性の増大と回復遅延が考えられ,また,抗がん剤の種類によっては,日光による皮膚障害の惹起の可能性がある。これらを考慮すると,治療中から紫外線を防御することが勧められる。

2.紫外線吸収剤を配合しない日焼け止め製品について

一般に日焼け止め製品は,無機粉体などによる物理的な遮蔽と紫外線吸収剤による遮蔽とを組み合わせて用いている。紫外線吸収剤は,一般的には,紫外線エネルギーを吸収し,熱エネルギーに変換して排出する。しかし,有機系紫外線吸収剤は,太陽光への曝露により光化学反応が起こり,異性化あるいは分解されることが報告されている8)。その結果,経時的に紫外線吸収能の低下を引き起こし,皮膚への紫外線の曝露量を増加させる。また,紫外線吸収剤は,その化学的性質から,極性が中等度であり,健常皮膚においても容易に角層を通過することが報告されており9),紫外線吸収剤による皮膚傷害に関する症例報告もある10)11)

そこで,紫外線防御成分として皮膚内部への浸透性の低い,無機系の紫外線散乱剤である微粒子酸化チタン(TiO2)および微粒子酸化亜鉛(ZnO)を主体とした日焼け止め製品の使用が勧められる。ただし,このような日焼け止め製品は,酸化チタンと酸化亜鉛の含有量が多いため,塗布することによって,肌が不自然に白く見えるという欠点がある。

3.O/W型(親水性)製品について

市場に流通している遮蔽力の強い日焼け止め製品の多くは,レジャー時に使用することを目的としているため,水や汗によっても落ちにくいという,耐水性を付与した配合で設計されている。そして,耐水性を発揮するために,一般的に乳化型はW/O型(疎水性)となり,シリコン樹脂を多めに配合している。このような乳化型の日焼け止めは,洗浄剤の使用によっても洗い流すことが容易でなく,皮膚に残りやすい。そのため,がん治療中の患者には,容易に洗浄できるO/W型(親水性)製品が勧められる。

4.SPF(UV-B防御指数),PA(UV-A防御指数)について

United Kingdom Oncology Nursing Societyは放射線治療中の刺激緩和の一環として,紫外線曝露を避けるため,高いSPF値の日焼け止め製品を推奨している12)。しかし,日本の日常生活においては,SPFが15から30,PAはPA++からPA+++の日焼け止め製品を使用することを勧める。ただし,海水浴など特に強い紫外線にさらされる場合は,ウォータープルーフタイプ(耐水性)の,紫外線吸収剤が配合されている高SPF,高PA値の製品を選び,その安全性を患者ごとに確認したうえで用いても良い。

5.紫外線量の変動について

地上の太陽紫外線量は,太陽高度に比例する。UVAおよびUVBの年間推移では,UVBは8月をピークとし,冬季にはピーク時の1/5程度に放射量が減少するが,UVAは5月から9月をピークとし,冬季においてもピーク時の1/2程度にしか低下しない13)。また,UVBおよびUVAの日内変化をみると,12時をピークとして,UVAは8時から16時まで,UVBは9時から15時まで放射量が強いことが確認されている。このことから,季節を問わず太陽光への曝露が考えられる,日中の8時から16時の時間帯に外出する場合には,日焼け止めが必要となる。

6.塗布方法について

日焼け止め製品は,塗り残しができないよう,鏡をみながら指で均一に伸ばす。重ね塗りをして,紫外線防御が十分に得られるだけの量を塗布する13)(目安2mg/1㎠:顔面には小豆大6個分または手のひらに500円玉大の量)。2~3時間ごとに塗り直す。外出先から戻ったらクレンジングや洗浄料できれいに落とす。

図1 生活シーンに合わせた紫外線防止用化粧品の選び方
(日本化粧品工業連合会編『紫外線防止用化粧品と紫外線防止効果』より一部改変)
検索式・参考にした二次資料

PubMedにて,"neoplasms", "Cancer", "therapy", "sunscreen"等のキーワードを用いて検索した。医中誌Webにて,“癌”,“癌患者”,“紫外線防御”,“サンスクリーン”,“化粧品”等のキーワードを用いて検索した。さらに,保有する文献を参考にした。

参考文献
1)Mullenders LH, Hazekamp-van Dokkum AM, Kalle WH, Vrieling H, Zdzienicka MZ, van Zeeland AA. UV- induced photolesions, their repair and mutations. Mutat Res. 1993; 299(3-4): 271-6.(レベルⅥ)
2)Yasui H, Sakurai H. Chemiluminescent detection and imaging of reactive oxygen species in live mouse skin exposed to UVA. Biochem Biophys Res Commun. 2000; 269(1): 131-6.(レベルⅥ)
3)Fujita H, Hirao T, Takahashi M. A simple and non-invasive visualization for assessment of carbonylated protein in the stratum corneum. Skin Res Technol. 2007; 13(1): 84-90.(レベルⅥ)
4)Zhang X, Rosenstein BS, Wang Y, Lebwohl M, Wei H. Identification of possible reactive oxygen species involved in ultraviolet radiation-induced oxidative DNA damage. Free Radic Biol Med. 1997; 23(7): 980-5.(レベルⅥ)
5)de Gruijl FR. Photocarcinogenesis: UVA vs. UVB radiation. Skin Pharmacol Appl Skin Physiol. 2002; 15(5): 316-20.(レベルⅥ)
6)Kripke ML. Immunological unresponsiveness induced by ultraviolet radiation. Immunol Rev. 1984; 80: 87-102.(レベルⅥ)
7)Kölgen W, Both H, van Weelden H, et al. Epidermal langerhans cell depletion after artificial ultraviolet B irradiation of human skin in vivo: apoptosis versus migration. J Invest Dermatol. 2002; 118(5): 812-7.(レベルⅥ)
8)Hori N, Fujii M, Ikegami K, Momose D, Saito N, Matsumoto M. Effect of UV-absorbing agents on photodegradation of tranilast in oily gels. Chem Pharm Bull (Tokyo). 1999; 47(12): 1713-6.(レベルⅥ)
9)Golmohammadzadeh S, Jaafarixx MR, Khalili N. Evaluation of liposomal and conventional formulations of octyl methoxycinnamate on human percutaneous absorption using the stripping method. J Cosmet Sci.2008; 59(5): 385-98.(レベルⅥ)
10)Schmidt T, Ring J, Abeck D. Photoallergic contact dermatitis due to combined UVB (4-methylbenzylidene camphor/octyl methoxycinnamate) and UVA (benzophenone-3/butyl methoxydibenzoylmethane) absorber sensitization. Dermatology. 1998; 196(3): 354-7.(レベルⅥ)
11)de Groot AC, Roberts DW. Contact and photocontact allergy to octocrylene: a review. Contact Dermatitis. 2014; 70(4): 193-204.(レベルⅥ)
12)Skin care advice for patients undergoing radical external beam megavoltage radiotherapy. Society of Radiographers. 2015. http://www.sor.org/(レベルⅥ)
13)日本化粧品工業連合会 紫外線専門委員会.紫外線防止用化粧品と紫外線防止効果-SPFとPA表示-<2012改訂版>.日本化粧品工業連合会.2012: 5.(レベルⅥ)
 
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