(旧版)がん患者に対するアピアランスケアの手引き 2016年版

 
 Ⅱ.日常整容編 CQ37

Ⅱ.日常整容編

CQ37
分子標的治療中の患者に対して,安全なひげそり方法および顔そり方法は何か
  推奨
T字カミソリではなく,電気シェーバーを皮膚に対し垂直に軽く当て,滑らさずにひげそりを行うことが勧められる。皮膚を保護するため,ひげそり前の電気シェーバー用プレシェーブローションやひげそり後の保湿クリームなどの使用が勧められる。
  推奨グレード
C1a
エビデンスはないが,T字カミソリより電気シェーバーを使うことが勧められる。
  推奨グレード
C1a
エビデンスはないが,電気シェーバー使用前に電気シェーバー用プレ化粧料を使うことは勧められる。
  推奨グレード
C1a
エビデンスはないが,電気シェーバー使用後に保湿用化粧料を使うことは勧められる。

解説

1.ひげそり器具について

分子標的薬によるざ瘡様皮疹について,ひげをそったほうが改善されるとの印象をもつ医療者は少なくない1)。しかし,そのひげそりの安全な方法については,エビデンスがない。

ひげそりは,一般には,電気シェーバーを用いる方法とカミソリを用いる方法がある。いずれの方法も,刃が直接皮膚に接触し,ひげの切断と同時に皮膚の角層が剝離されるが,クロスオーバー試験などは行われておらず,電気シェーバーとT字カミソリの優劣に関する明確なエビデンスはない。しかし,両用具の構造上,T字カミソリは,刃が皮膚に直接当たるので角層を傷つけやすいのに対し,電気シェーバーは,皮膚に当たる網状の外刃でひげを切るのではなく,回転や往復運動する内部にある刃がひげを切るため,当て方を正しく行えば角層への影響は少ない。使用の際には,シェーバーをもっていないほうの手で皮膚を引っ張り,毛幹を立たせ,シェーバーの面が皮膚に垂直となるように軽く当て,滑らさずにひげそりを行うことが勧められる。また,T字カミソリと電気シェーバーを長期に継続的に使用した場合において,T字カミソリ使用群では,ひげそり部位の頬下部の加齢変化が進行傾向にあるとの報告がある2)~5)。さらに,電気シェーバーは,皮膚の上を滑らさずに,皮膚に軽く当てるだけでひげそりが可能であることも,皮膚ダメージの軽減につながる。

なお,高価格電気シェーバー数種によるひげそり前後の皮膚比較試験6)では,製品間に差が認められ,機種により表皮,真皮に損傷を起こしていることが示された。また,「切れ味」や「深ぞり感」がよいと評価された製品ほど,TEWL(Trans Epidermal Water Loss:経皮水分蒸散量)の増加,出血の多さ,皮膚が赤くなる傾向がみられた。分子標的治療によって,患者の皮膚そのものが脆弱化しているので,健常者より負担を軽くするため,電気シェーバーは強く押し付けすぎないほうがよい。

ひげが伸びて,電気シェーバーの内刃でうまく毛幹が切れない場合は,あらかじめひげに使用するバリカンやハサミを用いて短くカットしておくとよい。さらに,角層への影響を少なくするために,患者が許容するのであれば,バリカンやハサミを用い,5mm程度の長さを残してひげを整える方法もある。

また,うぶ毛そりや眉毛そりに関しては,電動の顔そり専用器がT字やI字のカミソリよりも皮膚への影響が少なく,強く押し当てずに用いれば,皮膚を傷つけずにうぶ毛や眉毛をそることが可能である。

2.プレ化粧料について

ひげそりの際には,電気シェーバー用プレ化粧料(パウダー入りシェーバー用プレシェーブローション)を用いることで,皮膚と電気シェーバー外刃,皮膚とひげとの摩擦抵抗を軽減でき,全体に皮膚への負担が軽減するので勧められる7)。角質に水分を含ませ柔軟にさせる石鹸やローション,クリーム等は,逆に角質を損傷しやすくするため勧められない。

3.保湿用化粧料について

ひげそり前後で皮膚バリア性の指標であるTEWLが大きく変化し,ひげそり後にTEWLが上昇,皮膚バリア機能が低下するという報告がある6)。そこで,ひげそり後に保湿用の化粧料を用いることが勧められる。

検索式・参考にした二次資料

PubMedおよびJ-STAGEにて,"cancer", "beard", "shaving", "skin"のキーワードを用いて検索した。医中誌Webにて,“癌”,“髭剃り”,“髭”,“肌”,“皮膚”のキーワードを用いて検索した。さらに,保有する文献を参考にした。

参考文献
1)市川智里.皮膚症状はとにかくスキンケア!.がんサポート.2013; 126: 32-5.(レベルⅥ)
2)大西一禎,山口あゆみ,栗山健一,辻野義雄,藤原延規.日本人男性の加齢に伴う顔面皮膚の生理的・形態的変化と自己意識について(第1報)―皮膚基本特性の部位差・季節間変動・加齢変化について―:皮膚基本特性の部位差・季節間変動・加齢変化について.粧技誌.2007; 41(2): 94-102.(レベルⅥ)
3)安藤洋司.ドライシェービング剤の現状と課題.フレグランスジャーナル.1991; 19(12): 38-41.(レベルⅥ)
4)久留戸真奈美,塩原みゆき,菅沼薫.20代と50代の男性の肌調査.第71回日本化粧品技術者会研究討論会発表要旨集.2012; 71: 22-3.(レベルⅥ)
5)菅沼 薫,久留戸真奈美,塩原みゆき,大槻マミ太郎.男性顔面皮膚の加齢変化とシェービング行動との関係について.日皮会誌.2014; 124(2): 198.(レベルⅥ)
6)久留戸真奈美,塩原みゆき,菅沼 薫.シェーバーによる男性の肌荒れ計測.粧技誌.2006; 40(3): 211-6.(レベルⅥ)
7)光井武夫編.新化粧品学.第2版.東京:南山堂;2001. p.396.(レベルⅥ)
 
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