(旧版)がん患者に対するアピアランスケアの手引き 2016年版
Ⅰ.治療編
放射線治療
CQ32 |
放射線治療中に制汗剤などのデオドラントの使用を継続してもよいか | |
推奨グレード B |
放射線療法中に制汗剤などのデオドラントを使用しても皮膚炎は悪化しないという根拠があり,継続してもよい。 |
●背景・目的
これまで放射線療法中は皮膚への刺激を避けるために照射部位に対する制汗剤の使用は控えるように指導されてきた。このことは普段からデオドラント製剤を使用してきた患者にとって大きなストレスになることがある。そこで照射期間中の制汗剤などのデオドラント製剤の使用が放射線皮膚炎に及ぼす影響を検討した。
●解説
制汗剤をはじめとするデオドラント(防臭剤)が放射線皮膚炎に与える影響を検討したランダム化比較試験は乳がんを対象とした4件がこれまでに報告されている。
古くは2000年に英国クラッターブリッジ腫瘍センターから,放射線治療を受ける乳がん患者36人を対象として金属を含まないデオドラントの使用による放射線皮膚炎の評価を行った結果が報告された1)。放射線治療は,45Gyの全乳房±腋窩照射に加えて,97%で電子線による腫瘍床への追加照射を施行した。急性皮膚炎を比較したところ,両群で紅斑,落屑,硬さ,瘙痒感,熱感,疼痛に差はみられなかった。次回の使用の是非を問う質問には65%の患者が使用を希望すると回答した。
2009年には2件の報告があった。英国ブリストルでは,乳がんで乳房または胸壁に放射線治療を受けている190人を対象に,金属を含まないデオドラントが皮膚炎に及ぼす影響をみた2)。デオドラント使用の有無にかかわらず,両群の皮膚炎には差を認めなかった。Grade 0-1が多くを占め,Grade 2,Grade 3は禁止群で各6%,使用群でそれぞれ4%および1%であった。腋窩にも照射した乳がんに限局しても,Grade 2,Grade 3の皮膚炎は禁止群,使用群でそれぞれ20%と6.7%および7%と0%であった。
ケベックからは,84人の乳房照射で,アルミニウムを含まないデオドラントが皮膚炎に与える影響をみた非劣性試験の結果が示された3)。腋窩部におけるGrade 2の皮膚炎はデオドラント禁止群,使用群でそれぞれ23%と30%であり,非劣性の規準を満たしていた(p=0.019)。乳房部の皮膚炎でもそれぞれ30%,34%であり,同様に非劣性の規準を満たした(p=0.049)。自覚症状としての不快感,疼痛,瘙痒感などは変わらず,発汗のみがデオドラント使用群で有意に減少し(p=0.032),18%であったが,禁止群では39%であった。
このように金属,特にアルミニウムを含まないデオドラントについての報告が多いが,最近になりアルミニウムを含む制汗剤についても臨床試験がなされた。カナダ・カルガリーでは,早期乳がんで42.5~50Gyの乳房照射を受ける198人を,照射部位の水洗のみを許可する従来法と制汗剤も使用可能とした試験群に振り分け,アルミニウムを21%含有する制汗剤の影響が検討された4)。
腋窩の皮膚反応の頻度分布をみると両群間に差はなかった。湿性落屑などのGrade 3の皮膚炎もコントロール群4人,試験群が3人であったが,試験群における腋窩の湿性落屑は1例もなかった。FACT-Bを用いたQOL調査でも両群に差はなかった。
以上のように,放射線治療中に制汗剤をはじめとするデオドラントの使用を従来のように禁止する根拠はなく,含まれる化学物質による刺激には留意しながら使用してもよいと考えられる。
検索式・参考にした二次資料
PubMedにて,"radiotherapy", "radiodermatitis", "sweating", "antiperspirants", "astringents", "deodorants"等のキーワードを用いて検索した。医中誌Webにて,“放射線皮膚炎”,“制汗剤”,“脱臭剤”,“収れん剤”等のキーワードを用いて検索した。
参考文献 | |
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1) | Gee A, Moffitt D, Churn M, Errington RD. A randomised controlled trial to test a non-metallic deodorant used during a course of radiotherapy. J Radiother Pract. 2000; 1(4): 205-12.(レベルⅡ) |
2) | Bennett C. An investigation into the use of a non-metallic deodorant during radiotherapy treatment: a randomised controlled trial. J Radiother Pract. 2009; 8(1): 3-9.(レベルⅡ) |
3) | Théberge V, Harel F, Dagnault A. Use of axillary deodorant and effect on acute skin toxicity during radiotherapy for breast cancer: a prospective randomized noninferiority trial. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2009; 75(4): 1048-52.(レベルⅡ) |
4) | Watson LC, Gies D, Thompson E, Thomas B. Randomized control trial: evaluating aluminum-based antiperspirant use, axilla skin toxicity, and reported quality of life in women receiving external beam radiotherapy for treatment of Stage 0, Ⅰ, and Ⅱ breast cancer. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2012; 83(1): e29-34.(レベルⅡ) |