(旧版)がん患者に対するアピアランスケアの手引き 2016年版
Ⅰ.治療編
分子標的治療
CQ21 |
分子標的治療に伴うざ瘡様皮疹の治療にテトラサイクリン系薬剤の内服は有用か | |
推奨グレード C1b |
分子標的治療に伴うざ瘡様皮疹の治療を目的に,テトラサイクリン系薬剤(ミノサイクリン,ドキシサイクリン)を内服することを考慮してもよい。 |
●背景・目的
ざ瘡様皮疹は患者のQOLを低下させる(→CQ16「背景・目的」参照)。そこで,ざ瘡様皮疹の治療に対するテトラサイクリン系薬剤内服の有用性を検討した。ここでいうテトラサイクリン系薬剤とはミノサイクリン,ドキシサイクリンを指すものとする。
●解説
ざ瘡様皮疹に対する治療的介入において,テトラサイクリン系薬剤は,有用性があると考えられる。しかし,予防的効果の検討とは対照的に,テトラサイクリン系薬剤の治療的効果に関するランダム化比較試験は存在しない1)。したがって,ざ瘡様皮疹へのテトラサイクリン系薬剤の治療的効果のエビデンスレベルは高くない。
テトラサイクリン系薬剤の治療的効果について,システマティック・レビューを行った報告がある1)。テトラサイクリン系薬剤の治療的効果を,主に症例報告に基づいて検討しており,Grade 2以上のざ瘡様皮疹に対して,テトラサイクリン系薬剤の有用性が期待されると結論している。わが国のコンセンサス会議では,ざ瘡様皮疹の治療には,ステロイド外用薬を用いるとともにミノサイクリン内服を行うことが推奨された2)。また,国際がんサポーティブケア学会のガイドラインでは,ざ瘡様皮疹の治療として,ドキシサイクリン(200mg/日,分2)あるいはミノサイクリン(100mg/日)が推奨されている3)。ただし,エビデンスレベルはIVa,推奨度はCであり,予防投与に比べるとエビデンスは劣る。
ざ瘡様皮疹に対するテトラサイクリン系薬剤の治療効果は,症例報告やエキスパートによる総説で検討されている1)4)。エルロチニブは,ざ瘡様皮疹が生じるEGFR阻害薬の一つである。エルロチニブで生じたざ瘡様皮疹に対して,国内ではステロイド外用薬と併用してミノサイクリンを治療に用いる場合が多い5)6)。また,予防的投薬や軽症例に対する治療としてステロイド外用薬が開始され,効果不十分な場合や皮疹が増悪する際にはミノサイクリンを投与することが多い5)~7)。ざ瘡様皮疹に対する治療として,ミノサイクリンをはじめ抗菌薬内服群と比較的弱いステロイド外用薬(ストロングクラスまで)を比較検討した症例報告がある。この結果,抗菌薬(ミノサイクリンあるいはロキシスロマイシン)内服群9例では,すべて治療効果が得られた。一方,ステロイド外用薬群13例では,効果があったのは5例に止まった6)。したがって,ミノサイクリン内服による治療は,ステロイド外用薬と同等あるいはそれ以上の効果が期待される。一方,海外の症例報告では,中等症以上のざ瘡様皮疹に対して,テトラサイクリン系薬剤は,外用剤を併用しつつ第一選択薬として治療的介入に用いられることが多い8)~10)。寛解に至るものではないものの,ドキシサイクリンあるいはミノサイクリン内服は,ざ瘡様皮疹の治療に関して有用であることが示されている。2006年のEGFR阻害薬による皮膚障害に関する米国のコンセンサス会議11)で,Grade 2以上のざ瘡様皮疹に対しては,外用薬を併用するとともにドキシサイクリン(200mg/日,分2)あるいはミノサイクリン(200mg/日,分2)を内服することが推奨されている11)。したがって,テトラサイクリン系薬剤(ミノサイクリンおよびドキシサイクリン)は,ざ瘡様皮疹の治療に対して第一選択薬として使用され,わが国でも,より早期から使用されることが検討されてもよい薬剤であると思われる6)。
ざ瘡様皮疹は,毛包炎として特徴付けられる側面をもつ1)9)。ざ瘡様皮疹に対するテトラサイクリン系薬剤の効果は,抗菌薬としての作用とともに,テトラサイクリン系薬剤がもつ抗炎症作用によるものと考えられている1)12)。ミノサイクリンは重症薬疹を起こす可能性がありEGFR阻害薬とともに,間質性肺炎をはじめとする有害事象を生じる可能性もあり留意する必要がある。なお,テトラサイクリン系薬剤の適応症は皮膚表在性,深在性感染症である。
皮疹があり二次感染が疑われる場合には皮膚表在性感染症として保険適用を考慮してもよい。
検索式・参考にした二次資料
PubMedにて,"Acneiform Eruptions", "Exanthema", "papulopustular", "acne-like", "skin toxicity", "rash", "EGFR", "Anti-Bacterial Agents", "antibiotic"等のキーワードを用いて検索した。医中誌Webにて,“ざ瘡様皮疹”,“EGFR”,“分子標的薬”,“ドキシサイクリン”,“テトラサイクリン”,“アダパレン”,“抗細菌剤”等のキーワードを用いて検索した。加えて,重要文献をハンドサーチで検索した。
参考文献 | |
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1) | Bachet JB, Peuvrel L, Bachmeyer C, et al. Folliculitis induced by EGFR inhibitors, preventive and curative efficacy of tetracyclines in the management and incidence rates according to the type of EGFR inhibitor administered: a systematic literature review. Oncologist. 2012; 17(4): 555-68.(レベルⅠ) |
2) | 川島 眞,清原祥夫,山崎直也,仁科智裕,山本信之.分子標的薬に起因する皮膚障害対策 皮膚科・腫瘍内科有志コンセンサス会議の報告.臨医薬.2014; 30(11): 975-81.(レベルⅥ) |
3) | Lacouture ME, Anadkat MJ, Bensadoun RJ, et al; MASCC Skin Toxicity Study Group. Clinical practice guidelines for the prevention and treatment of EGFR inhibitor-associated dermatologic toxicities. Support Care Cancer. 2011; 19(8): 1079-95.(レベルⅥ) |
4) | Tan EH, Chan A. Evidence-based treatment options for the management of skin toxicities associated with epidermal growth factor receptor inhibitors. Ann Pharmacother. 2009; 43(10): 1658-66.(レベルⅠ) |
5) | 前田七瀬,猿丸朋久,木嶋晶子,他.エルロチニブ(タルセバ)による皮膚障害.日皮会誌.2010; 120(10): 2039-49.(レベルⅤ) |
6) | 白藤宜紀,濱田利久,大野貴司,岩月啓氏.エルロチニブによる皮膚症状とその治療.皮膚臨床.2010; 52(3): 297-302.(レベルⅤ) |
7) | 山崎直也.病気について知りたい! 臨床講座 分子標的治療薬によるがん薬物療法に伴う皮膚障害.PharmaTribune. 2013; 5(5): 59-70.(レベルⅥ) |
8) | Molinari E, De Quatrebarbes J, André T, Aractingi S. Cetuximab-induced acne. Dermatology. 2005; 211(4): 330-3.(レベルⅤ) |
9) | DeWitt CA, Siroy AE, Stone SP. Acneiform eruptions associated with epidermal growth factor receptor-targeted chemotherapy. J Am Acad Dermatol. 2007; 56(3): 500-5.(レベルⅤ) |
10) | Van Doorn R, Kirtschig G, Scheffer E, Stoof TJ, Giaccone G. Follicular and epidermal alterations in patients treated with ZD1839 (Iressa), an inhibitor of the epidermal growth factor receptor. Br J Dermatol. 2002; 147(3): 598-601.(レベルⅤ) |
11) | Lynch TJ Jr, Kim ES, Eaby B, Garey J, West DP, Lacouture ME. Epidermal growth factor receptor inhibitor-associated cutaneous toxicities: an evolving paradigm in clinical management. Oncologist. 2007; 12(5): 610-21.(レベルⅥ) |
12) | Sapadin AN, Fleischmajer R. Tetracyclines: nonantibiotic properties and their clinical implications. J Am Acad Dermatol. 2006; 54(2): 258-65.(レベルⅥ) |