(旧版)がん患者に対するアピアランスケアの手引き 2016年版

 
 Ⅰ.治療編 分子標的治療 CQ14

Ⅰ.治療編

分子標的治療

CQ14
分子標的治療に伴う手足症候群に対して副腎皮質ステロイド外用薬は有用か
  推奨グレード
C1a
分子標的薬,特にマルチキナーゼ阻害薬およびフッ化ピリミジン系薬剤による手足症候群の悪化予防および治療を目的に,副腎皮質ステロイド外用薬を用いることは勧められる。ただし,有用性を示すエビデンスに乏しい。

背景・目的

手足症候群(HFS)は知覚過敏などの異常知覚や疼痛を伴い,QOLを大きく低下させ,治療中止の要因にもなるので重要な症状である1)2)。HFSにはフッ化ピリミジン系薬剤で(数カ月以上にわたり)緩徐に生じるものと,分子標的薬のPDGFR,VEGFR,KITなどのチロシンキナーゼをはじめ複数の経路のリン酸化酵素の阻害薬剤により短期的(2~3週間)で急激に生じるものがある。どちらも先行する紅斑や異常知覚ののち,慢性期には角化が強くなり,しばしば過角化の状態から胼胝,鶏眼を生じる。加えて強い乾燥と外力により深い亀裂を生じると強い疼痛を覚えるようになる3)。これらの症状の治療や緩和,予防法として副腎皮質ステロイド外用薬(以下,ステロイド外用薬)が有効か否かを検証した。

解説

フッ化ピリミジン系薬剤で生じるHFSは当初,手掌足蹠・指(趾)腹・足踵にび漫性の炎症を伴う浮腫性紅斑を生じ,表皮の萎縮(有棘層と角層が菲薄化)による指紋の消失や乾燥の亢進のため手足の掌蹠側全体に亀裂や鱗屑を生じると強い疼痛を伴う。この慢性炎症は持続し,これらの症状は数カ月以上の時間をかけて緩徐に悪化・進行していく傾向がある。経過とともに手足の辺縁部や指趾関節部に炎症後色素沈着が目立つようになる4)

分子標的薬のPDGFR,VEGFR,KITなど複数のキナーゼを阻害するマルチキナーゼ阻害薬(アキシチニブ,イマチニブ,スニチニブ,ソラフェニブ,パゾパニブ,レゴラフェニブなど)では,投与開始2~3週間程度という早期に浮腫性紅斑が出現し,数日後には急激に進行し,Grade 2の時期がほとんど存在しないことが多い。一方,発症後も休薬にて,2週間程度で急速に回復し,減量して再開するとHFSが生じにくくなることから,用量依存性に生じるものと思われる。薬剤により真皮上層の血管を中心に内皮障害をきたし,次いで表皮の障害をきたすとされている。以上の特徴から,病期初期に生じる浮腫性紅斑期から炎症を抑制する目的で強力なステロイド外用薬を用いる。重症な場合はミノサイクリンなどテトラサイクリン系薬剤の内服やステロイド内服薬も併用する。

検索の範囲で,HFSに対する標準治療において高いエビデンスレベルの文献は少ない。また,薬剤とHFSの因果関係を示す論文やHFSの発症と臨床効果との相関を示唆する論文1)は散見されるが,HFSの予防および治療を目的にしたステロイド外用薬の有用性についてのエビデンスレベルの高い文献は少ない。

①肝細胞がん患者におけるソラフェニブのHFSの対処にステロイド外用薬の塗布を指導している報告2)3),②ソラフェニブ,スニチニブのGrade 2のHFSへのストロンゲストステロイド外用薬4)~7),③ソラフェニブによるHFSに対しGrade別にステロイド外用薬を用いた報告8)9)がある。

他方,分子標的薬以外のHFSに対するステロイド外用薬のエビデンスは乏しいが有効との報告もなされている10)

以上より,HFSにおいてステロイド外用薬の使用は治療法としても,予防法としても考慮してよいものと考える。ただし,有用性を示すエビデンスは乏しく,ステロイド外用薬の種類や強さ,介入の時期,用法・用量などについては確立されていない。エキスパートオピニオンレベルの域である。

なお,効能・効果にHFSを明記するステロイド外用薬はないが,ステロイド外用薬の多くが手足症候群に対応する湿疹・皮膚炎群(進行性指掌角皮症などを含む),薬疹,皮膚瘙痒症等の適応病名をもつ。

検索式・参考にした二次資料

PubMedにて,"Hand Foot Syndrome", "Hand Foot Skin Reaction", "Adrenal Cortex Hormones", "Steroids"等のキーワードを用いて検索した。医中誌Webにて,“手足症候群”,“手足皮膚反応”,“副腎皮質ホルモン”,“ステロイド”等のキーワードを用いて検索した。さらに"Chemotherapy", "Multikinase Inhibitor", "Dermatologic Symptom", "Sorafenib", "Sunitinib", "Regorafenib", "Pazopanib", "Imatinib", "Axitinib",“化学療法”,“マルチキナーゼ阻害薬”,“ソラフェニブ”,“スニチニブ”,“レゴラフェニブ”,“パゾパニブ”,“イマチニブ”,“アキシチニブ”のキーワードで広く収集した。

参考文献
1)Nakano K, Komatsu K, Kubo T, et al. Hand-foot skin reaction is associated with the clinical outcome in patients with metastatic renal cell carcinoma treated with sorafenib. Jpn J Clin Oncol. 2013; 43(10): 1023-9.(レベルⅣb)
2)Miller KK, Gorcey L, McLellan BN. Chemotherapy-induced hand-foot syndrome and nail changes: a review of clinical presentation, etiology, pathogenesis, and management. J Am Acad Dermatol. 2014; 71(4): 787-94.(レベルⅥ)
3)松村由美.手足症候群 チーム医療のなかの皮膚科医の役割.医のあゆみ.2012; 241(8): 563-6.(レベルⅥ)
4)清原祥夫.分子標的治療薬と皮膚障害.癌と化療.2012; 39(11): 1597-602.(レベルⅥ)
5)Lacouture ME, Reilly LM, Gerami P, Guitart J. Hand foot skin reaction in cancer patients treated with the multikinase inhibitors sorafenib and sunitinib. Ann Oncol. 2008; 19(11): 1955-61.(レベルⅤ)
6)Robert C, Mateus C, Spatz A, Wechsler J, Escudier B. Dermatologic symptoms associated with the multikinase inhibitor sorafenib. J Am Acad Dermatol. 2009; 60(2): 299-305.(レベルⅥ)
7)Cuesta L, Betlloch I, Toledo F, Latorre N, Monteagudo A. Severe sorafenib-induced hand-foot skin reaction. Dermatol Online J. 2011; 17(5): 14.(レベルⅤ)
8)池田公史.ソラフェニブの副作用対策(手足症候群・下痢・高血圧など) チーム医療の有用性.医のあゆみ.2011; 236(7): 711-5.(レベルⅥ)
9)山崎直也,末木博彦,木村 剛,古瀬純司,飯島正文.ソラフェニブによる手足症候群 予防法と対処法.皮病診療.2010; 32(8): 836-40.(レベルⅥ)
10)Lassere Y, Hoff P. Management of hand-foot syndrome in patients treated with capecitabine (Xeloda). Eur J Oncol Nurs. 2004; 8 Suppl 1: S31-40.(レベルⅥ)
 
ページトップへ

ガイドライン解説

close-ico
カテゴリで探す
五十音で探す

診療ガイドライン検索

close-ico
カテゴリで探す
五十音で探す