(旧版)女性下部尿路症状診療ガイドライン

 
2 女性下部尿路症状とは
1 下部尿路症状
下部尿路症状(lower urinary tract symptoms: LUTS)は,国際禁制学会(ICS)による用語基準1)により蓄尿症状(storage symptoms),排尿症状(voiding symptoms),排尿後症状(post micturition symptoms)の3 種類に大別されている(表1)。
蓄尿症状には昼間頻尿,夜間頻尿,尿意切迫感,尿失禁があり,さらに,尿失禁は腹圧性尿失禁,切迫性尿失禁,混合性尿失禁,夜尿症,持続性尿失禁,その他の尿失禁に分けられる。膀胱知覚に関しては,正常,亢進,低下,欠如,非特異的の5 種類に区分される。
膀胱の知覚能は膀胱内圧検査により評価される。尿意は膀胱壁の緊張による求心性刺激が大脳皮質に伝えられて感じる。膀胱内圧検査時に評価する尿意は,初発膀胱伸展感,初発尿意,最大尿意の3 種類に区分される。初発膀胱伸展感は膀胱が充満されていることについてのはじめての感じのことであり,初発尿意は膀胱伸展に対して,はじめて排尿をしたくなる感じのことであり,膀胱容量が150〜250 mL,内圧が15〜20 cmH2O 程度である。最大尿意は尿意をこれ以上我慢できない感じであり,膀胱容量は400〜500 mL 程度である。尿意があるのにトイレが近くにないなどの理由で排尿ができない状況では,上位中枢からの下行性投射が膀胱壁の収縮を抑制し,緊張を緩め,尿道括約筋の収縮を起こし,排尿が起こらないようにしている。なお,膀胱壁が急激に伸展されたり,膀胱炎などで膀胱壁の知覚が敏感になっているとき,寒冷時の反射促進のあるとき,あるいは精神的興奮時には膀胱容量が100 mL 以下でも尿意を催すことがある。
排尿症状は尿勢低下,尿線分割/尿線散乱,尿線途絶,排尿遅延,腹圧排尿,終末滴下に分けられる。排尿後症状は残尿感と排尿後尿滴下とに分けられる。
下部尿路症状は,各個人の主観による。通常は,その個人は患者であるが,患者以外のこともある。症状は患者が申し出たり,問診により聴取されたり,介護者が述べたりもする。なお,下部尿路症状が下部尿路機能障害に特有な症状ではなく,尿路感染症,膀胱腫瘍などの疾患でも生じることに留意が必要である。
尿路感染症や他の明らかな膀胱の病的状態が存在しないのに,尿意切迫感と頻尿が認められれば切迫性尿失禁の有無にかかわらず,過活動膀胱(overactive bladder: OAB)の疾患名として認められており,尿流動態検査で証明される排尿筋過活動の存在を示唆するものである。
以下に各下部尿路症状の定義を示す2)

1)蓄尿症状

蓄尿相にみられる症状である。昼間頻尿,夜間頻尿,尿意切迫感,尿失禁のほか膀胱知覚が含まれる。
昼間頻尿
日中の排尿回数が多すぎるという患者の愁訴である。英語におけるpollakisuria とincreased daytime frequency とは同義である。
夜間頻尿
夜間に排尿のために1 回以上起きなければならないという愁訴である。英語ではnocturia である。Nocturia の回数は,夜間睡眠中に記録された排尿回数であり,その排尿の前後には睡眠していることが必要である。Night time frequency(夜間排尿回数)は,nocturia とは異なっており,寝ようと思って床に入ってから起きようと思って床を離れるまでの間の排尿回数である。すなわち,床に入ってから入眠するまでの排尿や早朝に覚醒した後にまだ眠りたいのにそれを妨げる排尿が含まれる。
尿意切迫感
急に起こる,抑えられないような強い尿意で,我慢することが困難なものである。徐々に強くなってきた結果の「強い尿意」ではなく,予測のできない唐突に起こってくる「急に起こる強い尿意」を意味する。
尿失禁
尿が不随意に漏れるという愁訴である。尿漏れは,汗や分泌物と鑑別が必要なこともある。
腹圧性尿失禁とは,労作時または運動時,もしくはくしゃみまたは咳の際に,不随意に尿が漏れるという愁訴である。
切迫性尿失禁とは,尿意切迫感と同時または尿意切迫感の直後に,不随意に尿が漏れるという愁訴である。
混合性尿失禁とは,尿意切迫感だけではなく,運動・労作・くしゃみ・咳にも関連して,不随意に尿が漏れるという愁訴である。
夜尿症とは,睡眠中に不随意に尿が出ることを意味する。
持続性尿失禁とは,持続的に尿が漏れるという愁訴である。
その他の尿失禁とは,特有の状況で起こるもの,例えば性交中の尿失禁や,笑ったときに起こる尿失禁(哄笑性尿失禁)などがある。
膀胱知覚
病歴聴取により以下の5 つに分類する。
正常(膀胱充満感がわかり,それが次第に増して強い尿意に至るのを感じる。)
亢進(早期から持続的に尿意を感じる。)
低下(膀胱充満感はわかるが,明らかな尿意を感じない。)
欠如(膀胱充満感や尿意がない。)
非特異的(膀胱に特有の知覚ではないが,膀胱充満を腹部膨満感,自律神経症状として感じる。)

2)排尿症状

排尿相にみられる症状である。同様の意味で,「排出症状」または「尿排出症状」が使われることがある。
尿勢低下
尿の勢いが弱いという愁訴であり,通常は,以前の状態あるいは他人 との比較による。
尿線分割・尿線散乱
尿線が排尿中に分割・散乱することがある。
尿線途絶
尿線が排尿中に1 回以上途切れるという愁訴である。
排尿遅延
排尿開始が困難で,排尿準備ができてから排尿開始までに時間がかかるという愁訴である。
腹圧排尿
排尿の開始,尿線の維持または改善のために,力を要するという愁訴である。
終末滴下
排尿の終了が延長し,尿が滴下する程度まで尿流が低下するという愁訴である。

3)排尿後症状

排尿直後にみられる症状である。
残尿感
排尿後に完全に膀胱が空になっていない感じがするという愁訴である。
排尿後尿滴下
排尿直後に不随意的に尿が出てくるという愁訴である。この場合の直後とは,通常は,女性では立ち上がった後のことを意味する(男性では便器から離れた後)。


 

 
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