(旧版)ED診療ガイドライン 2012年版
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EDと前立腺癌
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放射線治療後のED
放射線外照射後のEDは主に血管性と考えられており,治療後のEDに対してはPDE5阻害薬が有効である。
〔推奨グレードA〕

小線源治療後のEDに対してもPDE5阻害薬が有効である。
〔推奨グレードB〕

経年的に放射線治療による陰茎海綿体の線維化が進むことから,有効性が低下していく可能性に留意する必要がある。
1)放射線外照射後のED
a.前立腺癌に対する放射線外照射後のEDの発症頻度
前向き調査の報告によると,放射線外照射後のEDの発症頻度は30〜70% とされている78-83)。しかし,これらの報告はEDの定義,EDの評価方法,EDの評価時期などが統一されておらず,またTUR-P の既往の有無,外照射前のホルモン療法施行歴,外照射前の勃起機能の有無などが詳細に記されていないものも少なくない。van der Wielen ら83)は,治療前EDを認めていなかった139名のうち,放射線治療1年後には27% が,2年後には36% が,3年後には38% がEDを発症するとして,放射線治療後2年以降,EDの発症頻度は安定すると報告している。b.放射線外照射により性機能障害が起こるメカニズム
十分には解明されていないのが現状である。Zelefsky ら84)は,ドプラ超音波検査により放射線外照射後に海綿体流入血流速度の低下を伴う動脈性障害を約6割に認めたとし,放射線外照射による性機能障害の機序として骨盤内動脈の血管障害説を支持している。Fisch ら85)は陰茎近位部(尿道球部)に照射される放射線線量は治療後のEDの発症頻度と関連するとし,より高線量での照射後にEDの発症頻度が高いと報告している。一方で,陰茎近位部への放射線照射線量はEDと関連はないとする報告も存在する86)。NVB への直接的な放射線組織障害がED発症の病因であるか否かについては明らかではない。しかしながら,放射線外照射後のEDにある程度PDE5阻害薬が有効であるという事実87,88)から,放射線照射によるNVB への組織ダメージがEDの発症の直接的原因であるとは考えにくい。放射線外照射による性機能障害のメカニズムには,これらいくつかの病因が複合的に関連していると推測される。c.放射線外照射後のEDに対する治療
PDE5阻害薬のon demand 使用は,オープンラベルの研究報告によると70〜90%に有効とされている89-92)。二重盲検RCT において,シルデナフィル50〜100 mg の使用により55% の症例で性交が可能となり,プラセボ群(18%)と比較し有意な勃起機能の改善を認めた87)。タダラフィルも二重盲検RCT において,20 mg の使用により48% の症例で性交の成功を認め,プラセボ群(9%)と比較し有意な勃起機能の改善を認めた88)。Beard ら78)は照射方法の違いによりED発症頻度に差を認めたと報告している。放射線外照射1年後に従来法で骨盤全照射を施行した症例の44% が完全EDであったが,三次元治療計画コンピュータで線量分布を参照しながら治療計画を行う三次元原体照射(three-dimensional conformal radiotherapy: 3D-CRT)で治療した症例では20% が完全EDであった。3D-CRT,あるいは照射線量に強弱をつけ,線量分布を最適化した照射法である,強度変調型放射線照射(intensity-modulated radiotherapy:IMRT)により前立腺周辺への放射線線量を抑える工夫がED発症の抑制につながる可能性は示唆されるが,その裏付けとして,NVB,尿道球部,陰茎海綿体の脚部など前立腺周辺への放射線照射障害の影響が直接ED発症と関連するとした事実の検証が必要であろう。
放射線外照射治療後のEDの発症頻度,放射線治療後のEDに対するPDE5阻害薬の有効性などの情報は,前立腺癌治療前より十分にインフォームし,患者の前立腺癌に対する放射線治療の認識をより深める努力が重要である。
2)小線源治療後のED
前立腺癌に対する小線源治療における勃起機能維持率は,これまでのところ他の治療と比較すると良好であるとする報告が多い93-95)。メタアナリシスでは小線源治療の勃起機能維持ハザード比は勃起機能維持を1.0とすると0.76であり,外照射併用0.6,外照射単独0.55,神経温存根治的前立腺摘除術0.34,神経非温存前立腺摘除術0.25,cryotherapy 0.13とされている。しかしながら,小線源治療後2年を超える長期勃起機能予後に関するデータは少ないのが現状である95)。前向き研究の報告では,中央値6.4年のフォローアップで7年後の勃起機能維持率は55.6% と報告されている。さらに,夜間睡眠時勃起が良好な患者ではそうでない患者と比較して有意に良好な結果が得られている(64.9% vs 40.4%)94)。経年とともに回復がみられる根治的前立腺摘除術後の勃起機能と異なり,放射線外照射治療同様,小線源治療においても経年とともに勃起機能の低下が著しい可能性も指摘されているため注意が必要である92)。ED発症のメカニズムは外照射と同様,陰茎海綿体脚部の血流障害が主なメカニズムと考えられており,NVB への影響は少ないと考えられている96,97)。PDE5阻害薬の治療効果は高いことから第一選択薬と考えられ,その反応性は外照射とほぼ同様と報告されている98)。しかしながら,外照射を含め海綿体の線維化は経年により進むため,PDE5阻害薬に対する反応性が落ちることに留意する必要がある98)。
前立腺癌に対する治療は日々進歩しているが,さまざまな局所治療のなかで勃起機能温存に最も優れた治療というものはいまだ存在しない。小線源治療,外照射,神経温存根治的前立腺摘除術では治療開始直後で大きく異なるが,2年後にはほぼ同等となることが指摘されている99)。