(旧版)ED診療ガイドライン 2012年版
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EDと前立腺癌
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根治的前立腺摘除術後の陰茎リハビリテーション
ファーストラインの陰茎リハビリテーションとして注目されているPDE5阻害薬内服は,これまで基礎研究でその有用性が報告されてきたが,RCT では優位性は認められなかった。
〔推奨グレードC1〕

陰圧式勃起補助具,PGE1 の海綿体注射については限定的なエビデンスがあるのみであり,今後の大規模RCT が待たれる。
〔推奨グレードC1〕

陰茎リハビリテーションは,陰茎海綿体の線維化を予防し術後EDからの早期回復を目的とする。神経温存根治的前立腺摘除術が成功しても,神経線維は牽引などのダメージを受けており,術後に一定期間のEDは起こる。その間にも低酸素環境は陰茎海綿体の線維化を誘発するので,早期からの医療介入が必要である53)。陰茎リハビリテーションとは,根治的前立腺摘除術後の勃起機能を可能な限り回復させるために薬剤やデバイスを用いることと定義され54),わが国では保険適応外だが,欧米では術後ケアとして重要視されている分野である55)。① 陰圧式勃起補助具,②プロスタグランジンE1(PGE1)の陰茎海綿体注射(intracavernous injection: ICI)あるいは尿道注入,③PDE5阻害薬内服が陰茎リハビリテーションの主なツールとして報告されている。なお,PGE1 の尿道注入は日本では使用できないため本項では省略した。
1)陰圧式勃起補助具(8-5参照)
陰圧式勃起補助具は,陰茎周囲の陰圧により勃起状態を誘発し陰茎海綿体を酸素化し,定期的な使用により陰茎海綿体の線維化を予防できると報告されている56)。2006年の前向きRCT で陰圧式勃起補助具の有効性が57),無効例にはPDE5阻害薬との併用による有効性58)が示されている。2)陰茎海綿体注射(ICI)(8-6参照)
PGE1は強力な血管平滑筋弛緩作用をもち,神経温存の有無にかかわらず直接平滑筋に作用して勃起を誘発するので,神経非温存例やPDE5阻害薬無効例にも効果が期待される59)。PGE1 を使用したICI は,1997年にMontorsi ら60)が報告した最初の陰茎リハビリテーションである。その後,PDE5阻害薬補助による勃起機能回復をベースとしたICI によるリハビリテーションの検討が行われているが,18カ月後の勃起機能回復率はICI リハビリテーション群で52% と,非リハビリテーション群(19%)に比べて有意に優れていた61)。3) ホスホジエステラーゼ5阻害薬
〔phosphodiesterase 5(PDE5)阻害薬〕(8-4参照)
PDE5阻害薬は,これまでの動物実験で陰茎海綿体組織の保護作用62,63)や平滑筋細胞のアポトーシス阻害作用64)をもつことがわかっており,ヒトではPDE5阻害薬(シルデナフィル100 mg)連日投与が根治的前立腺摘除術後の陰茎海綿体の平滑筋成分を増加させ線維化を予防したとの報告9)がある(注:日本ではシルデナフィルの100 mg は認可されていない)。これらの基礎研究を受けて,臨床試験では,シルデナフィル65,66),バルデナフィル67,68),タダラフィル69)それぞれのPDE5阻害薬が,術後性機能回復へ有効との報告が順調に蓄積されていた。ところが,2008年にMontorsi ら70)が行ったこれまで最大規模の多施設二重盲検RCT(628名)では,バルデナフィル連日内服群とプラセボ群の間でIIEF の勃起機能ドメインで有意差がなく,陰茎リハビリテーションの効果は証明されなかった。その後,これより大きな臨床試験は行われておらず,文献的に陰茎リハビリテーションツールとしてのPDE5阻害薬の効果は,ヒトでは不明71)との位置付けになっている。この臨床試験に対しては,対象や方法の問題点・欠点が指摘されており55,72-74),今後より厳正な臨床試験による再評価が期待されている73)。それでも,内服という利便性とそれまでの有効性の報告や経験から,その後もPDE5阻害薬は陰茎リハビリテーションのファーストラインとして使用されており73,75),2010年には,PGE1 尿道注入と比較した前向きRCT76)と,40名の前向きRCT77)の2つの論文が陰茎リハビリテーションツールとしてPDE5阻害薬を採択し,その有効性を報告している。泌尿器科医は,根治的前立腺摘除術後の陰茎リハビリテーションが陰茎海綿体の線維化を防ぎ,術後EDからの回復に貢献する重要なプログラムであることに同意するところであるが,その開始時期や期間,薬剤の種類,量,投与方法などにエビデンスのある推奨プログラムは現在のところない。2011年2月にわが国ではプロスタンディン® のED診断に対する保険適応が認められた(「治療.陰茎海綿体注射」の項参照)。リハビリテーションを含めたED治療に対する使用は保険適応がなく自費診療となるが,今後,海綿体注射による陰茎リハビリテーションがわが国でもオプションの1つとして考慮されるかもしれない。