(旧版)ED診療ガイドライン 2012年版

 
9 持続勃起症

5 非虚血性持続勃起症(non-ischemic priapism)
海綿体内は酸素化されているため治療に緊急性はない。診断が確定したら保存的に経過観察を行う。必要に応じて血管撮影を行い,塞栓術を考慮する。

1)病態

海綿体動脈の流入をコントロールできないことが原因となり,勃起が持続する状態である。つまり,海綿体動脈またはその分枝が破綻し海綿体洞に開口した状態である。陰茎海綿体内は動脈血が供給されており虚血ではないため,その処置に緊急性はない。

2)疫学

海外では虚血性持続勃起症よりきわめて少ないとされているが,わが国では虚血性持続勃起症より頻度はやや多い。その理由は,海外では鎌状赤血球症が多くみられるために相対的に非虚血性持続勃起症は少ないと考えられる。
多くは会陰部の打撲が先行しており,損傷部位は陰茎海綿体脚部および脚に近い体部である。鈍的外傷が最も一般的である。外傷から時間が経過して発症することが多く,外傷直後に発症するわけではない。

3)診断

視診上,勃起状態は不完全な状態であり,陰茎硬度も完全ではなく,疼痛を伴わない。
会陰部(陰茎海綿体脚部)を圧迫することにより勃起が消退する。いわゆるcompression sign がみられる(図14)。
陰茎海綿体内血液ガス分析では,動脈血に類似した値を示す。
カラードプラ検査では海綿体動脈と海綿体洞の瘻孔が確認できることが多い。画像としてはカラーイメージの乱流としてとらえられる(図15)。損傷部位以外での海綿体動脈の血流速度は正常または増加している。乱流を確認することにより,損傷部位の特定が可能である。なお,通常の超音波検査では海綿体動脈と海綿体洞の瘻孔は低エコー領域として描出されるため,周囲の海綿体組織とは明らかに区別できることが多い。
内陰部動脈撮影は侵襲が大きいため,虚血性持続勃起症との鑑別を目的に行うには不適当である。しかし,診断確定後に塞栓術を施行するためには必須である。造影により,海綿体動脈破綻部位での海綿体洞への造影剤溢流が認められる。両側に病変が存在することがあるため,必ず両側の内陰部動脈を撮影して確認する必要がある。
CT-アンギオグラフィーは損傷部位の特定が可能であり,きわめて低侵襲であることから有用性は高い20)が,放射線被曝の問題や検査の簡便性を考慮すると第一次検査として推奨される検査ではない。
MRI でも海綿体動脈と海綿体洞の瘻孔部位を描出可能である。しかし,カラードプラ検査法や内陰部動脈撮影と比較すると,小さい病変を検出することは困難とされる3)
※ 図14・図15 はこちらから別ウィンドウで開きます

4)治療

AUA ガイドライン1)では,第一選択治療として経過観察が推奨されている。経過観察には会陰部クーリングや会陰部圧迫も含まれる。しかし,観察期間の記載がなく,どの程度観察するかは今後の検討課題である。
海綿体洗浄や脱血は推奨されない。
塞栓術は,血管撮影を行い,陰茎海綿体動脈の破綻部位を確認したところで,塞栓物質を投与する方法で,診断と治療を同時に施行する方法である。塞栓物質には永久的塞栓物質(コイルなど)と一時的塞栓物質(自己血餅,スポンゼルなど)がある。
塞栓術の有効率はきわめて高く,89% 前後と報告されている21-23)。しかし,1回の塞栓術で治癒するのは60〜70% 程度とされる。
塞栓術の合併症はEDである。永久的塞栓物質のほうがEDの頻度が高いと報告されてきたが,近年ではどちらも15〜20% とほぼ同等とされている3,22-24)
外科的結紮術は,塞栓術が不成功の場合や,非虚血性持続勃起状態が長期間にわたり瘻孔周囲に偽被膜が形成された場合に有効との報告がある24)
ホルモン療法:保存的治療の際に,夜間の睡眠時陰茎勃起現象が発現すると治癒が遷延する可能性があり,夜間の勃起を抑制することを目的としてLH-RH アゴニストや抗アンドロゲン薬などのホルモン療法を行う方法も検討されている。

5)合併症としてのED

塞栓術後のED発症は15〜20% とされている3,22,23)。わが国での過去10年間の報告では,塞栓術後にEDを合併した症例は3.8% であった。また,勃起機能が回復した時期は,塞栓術後1カ月以内が32.0%,1〜3カ月が40.0%,3〜6カ月が16.0%,6カ月以上が12.0% であり,その大半は3カ月以内に回復していた25)
 この章の参考文献一覧

 


 
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