(旧版)線維筋痛症診療ガイドライン 2011
8章 添付資料
1.線維筋痛症における傷病手当,身体障害者等級,障害年金の診断書の発行についての基本的な考え方
1.線維筋痛症における傷病手当,身体障害者等級,障害年金の診断書の発行についての基本的な考え方
![]() |
線維筋痛症は,多様な疼痛が主に頸部から肩甲骨周囲や背部に始まり,全身の筋,関節周囲など付着部痛を伴う疾患である。女性に多く,米国リウマチ学会が1990年に発表した診断基準では,3カ月以上持続する全身にわたる痛みがあり,18箇所設定されている圧痛点のうち11箇所以上の圧痛点を確認できるものを線維筋痛症と診断する。診断にはYunusが1981年に提唱した小基準も参考にすべきである。疲労感,易疲労性,睡眠障害,慢性疼痛,痙攣性大腸炎,腫脹感(こわばり感を含む),しびれ感,不安または緊張による症状の影響,天候による症状の影響,肉体活動による症状の影響がみられるなどである。また頭痛,抑うつ,疲労,睡眠障害〔入眠障害,熟睡障害(中途覚醒),早期覚醒,Restless legs syndrome,睡眠時無呼吸症候群〕,過敏性腸症候群,意識消失発作があげられるが,これらの症状は不定愁訴とみなされやすいが随伴する症状として診断の際に参考にされている。しかし,現在多くの研究者により線維筋痛症の病態が研究されているが,現在でも病態が明らかになっていない。脳脊髄液中に発痛物質として知られているサブスタンスPが増加し,下降性疼痛抑制系の中心と考えられているセロトニン前駆体やその代謝物の減少が指摘され, 疼痛に関する情報伝達の異常が線維筋痛症の原因と考えられている。Central sensitizationやWind-up phenomenonが原因と考える説もある。記憶と認知との関連を調査した研究によると線維筋痛症患者では神経認知障害が示唆され,前頭葉と前帯状回の異常が疼痛に関与している可能性が報告されている。最近の脳機能画像の研究からも線維筋痛症患者は健常人なら痛みを感じない刺激でも脳の中で痛みを感じていることが解ってきており,高次脳機能の異常が原因のひとつではないかと考えられている。しかし,このような検査などは通常診療を行なっている病院や診療所で容易に行えるものではなく,診断書発行の際の他覚所見として示すことは不可能である。 |
![]() |
以上のように線維筋痛症の病態は,現時点では研究途上でありはっきりと病態が示されていない。しかし,診断書の発行という行政上,司法上の正確な判断を求められる際に,主な症状が自覚的なもので他覚所見が乏しい状況で医師としては不確定な判断を示すことは適切ではないと考えられる。以下のような考え方において書類を記載すべきと考えられる。 |
傷病手当 | |
![]() |
線維筋痛症は運動療法などが勧められており,就労自体が運動療法の一環でもある症例も多く軽症の傷病手当の申請にて休職することについて十分な裏付けとなる病態の評価が必要であり,安易に診断書を作成することは勧めない。 |
身体障害者等級,障害年金 | |
![]() |
いずれの認定も本人の自覚的な「痛み」のみでは適応されない。永続的な障害の存在の証明には専門医による当該関節周囲のレントゲン上明らかな骨萎縮またはMRI検査や超音波検査による明らかな筋萎縮などの他覚的な証明が必要である。「痛み」だけの障害については専門領域を異にする複数の専門医での合議による判定が必要である。 |
日本線維筋痛症学会 傷病手当,身体障害者等級,障害年金の診断書発行についての委員会 | |
三木健司,松野博明,行岡正雄 |