(旧版)線維筋痛症診療ガイドライン 2011
4章 鑑別診断
4.線維筋痛症と神経内科的疾患の鑑別
4.線維筋痛症と神経内科的疾患の鑑別
4.重症筋無力症(myasthenia gravis:MG)
1)概要 | |
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重症筋無力症は骨格筋の脱力を主徴とする疾患で,特に易疲労性と休息による改善という特徴を有する。その病態は,骨格筋の神経筋接合部の後シナプス膜のアセチルコリン受容体に対する抗体が産生され,神経筋伝達が障害される自己免疫疾患である。20~40歳代の女性に好発し,男性は50歳以上に多い。症状は,骨格筋,特に外眼筋,球筋,四肢近位筋の脱力が主徴である。脱力は日内変動を伴い,特に夕方~夜にかけて増悪し,休息で改善するのが特徴的である。初発症状として易疲労感を訴える症例が非常に多く注意が必要であり,その他,眼瞼下垂や複視,嚥下困難を呈することが多い。診断は,自覚症状が1つ以上,理学所見が1つ以上に加えて,以下の3つの検査のうち1つ以上が陽性であることが必要である。①テンシロン(エドロホニウム)テスト:コリンエステラーゼ阻害薬であるエドロホニウムを静注することにより,筋脱力の一過性の改善がみられるかを調べる検査で,改善があれば陽性である。②誘発筋電図:顔面筋や四肢筋の支配神経を反復刺激すると,MG患者ではCMAP振幅が10%以上減衰するwaning現象を認める。③抗アセチルコリン受容体(AChR)抗体:AChR抗体は阻害抗体と結合抗体の2種類にわかれており,アセチルコリンがAChRに結合するのを阻止し,後者はAChRの崩壊促進に関与するとされている。MG患者では結合抗体のほうが検出率が高いが,その抗体価とMGの重症度は相関しない。MGは高率に胸腺異常(胸腺腫,胸腺過形成)を合併しており,胸部X線検査や胸部CT検査で発見される。 |
2)鑑別のポイント | |
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易疲労性を主訴とする場合に,鑑別が重要である。MG患者は基本的に全身性の慢性疼痛を訴えるケースはきわめて少ないが,決定的な違いは,MGの場合症状に日内変動がある点である。朝よりも夕方に症状が悪化するか,運動後に症状が悪化するか,などの問診が重要になる。眼瞼下垂や複視の症状も特徴的であり,複視を認める症例では,眼球運動障害の有無について診察すると判断しやすい。 |