(旧版)線維筋痛症診療ガイドライン 2011

 
 
4章 鑑別診断
4.線維筋痛症と神経内科的疾患の鑑別

3.多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)
1)概要
arrow 多発性硬化症は,中枢神経白質を侵す炎症性脱髄性疾患で,原因は不明である。中枢神経白質の障害に基づく様々な症状が多発性に出現し(空間的多発),またこれらの症状は再発・寛解を繰り返す(時間的多発)のが特徴である。比較的若い成人(32±13歳)に好発し,男女比は約1:3である。症状は,視力障害,運動麻痺,感覚障害を主徴とし,時に精神症状や膀胱直腸障害を呈する。
視力障害:視神経が侵されることにより,両側または片側の視力低下をきたす。眼球運動時痛や中心視力低下が多くみられる。
運動麻痺:通常は上位ニューロン障害による痙性麻痺であるが,障害部位により片麻痺,四肢麻痺,対麻痺など様々な症状を呈する。時に脊髄根障害により,腱反射低下をきたすこともある。
感覚障害:ジンジン感などの異常感覚,感覚鈍麻が多く,大脳病巣では顔面を含む半身の,脊髄では障害レベルまたはそれ以下の感覚異常を呈する。時に,四肢の一部にしびれ感を伴って,有痛性強直性痙攣を起こしたり,頸の前屈により誘発される背部から下肢への電撃痛(Lhermitte徴候)などがみられる。
arrow 診断は,MSに特徴的な空間的,時間的多発性神経症状の出現と下記の検査所見により診断する。
MRI:病巣部はT2強調画像,プロトン強調画像,FLAIR画像で高信号,T1強調画像で低信号として描出される。
髄液検査:急性期には軽度の細胞増加(主に単核球)や蛋白増加,IgGの増加を認めることが多い。
大脳誘発電位:体性感覚誘発電位,視覚誘発電位,聴性脳幹誘発電位で,伝導遅延を示す。この検査は,特定の神経経路に存在する顕在性または潜在性の病巣検出に役立つ。


2)鑑別のポイント
arrow MS患者は,神経症状が神経解剖学的に説明できる部位に限局して認められる点が大きな違いである。筆者は,MSに続発した線維筋痛症患者を診療しているが,出現した症状がMS由来であるのか,線維筋痛症由来であるのかの判断に慎重さを要するので,そのような症例は,神経内科の主治医との密接な連携が必要である。

 

 
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