(旧版)線維筋痛症診療ガイドライン 2011

 
 
1章 今なぜ線維筋痛症ガイドラインが必要か

4.診療ガイドライン提唱の必要性
arrow 線維筋痛症の診断に際して最も大切なことはその複雑な病態をACR2010の診断予備基準にそって十分に把握し,さらにACR1990の18箇所の圧痛点も参考にし,適格な診断を下すことにある。その場合,線維筋痛症の進行度に応じて,一般的に発病してから1年以内は疼痛が顕在しているがQOLに著しい障害はみられない症例が多い(表3)。この時点の治療はプレガバリンまたはガバペンチンの低用量を中心としてミルナシプラン,塩酸ピロカルピン,さらにはカウンセリングや運動療法などの治療で軽快することが多い。一方,症状が進行してStage III以上になったケースは発病の時期が長く症状も重篤になってくる。したがって,前述のプレガバリンやガバペンチンなどの本症に随伴する神経因性疼痛抑制に加え,抗痙攣薬や疼痛制御のほかに向精神薬や抗てんかん薬などの大量療法を用いないとなかなか症状は改善しない。後述する多彩な重複症例型は線維筋痛症に伴うあらゆる症状が顕在している。また,塩酸ピロカルピンは,本症に必発の乾燥症状やストレートネックの改善等に効果があり,特にかなりの頻度で合併しているシェーグレン症候群に類似したドライアイやドライマウスに顕著な効果を認めている。また,植田らは動物を用いて非臨床試験で唾液腺の分泌に疼痛抑制が先立って起こることを明らかにしている14,15)

表3 臨床症状と重症度分類 
重症度分類試案(厚生労働省特別研究班:第3回GARN国際会議にて発表,Arthritis Research Abstract,2003)

表3

arrow 以上のように,本疾患の病因はかなり不明な点が多く解明にはまだ至っていない部分が多々あるが,今後本邦人を対象とする種々の薬剤のエビデンスの実績をみながら,多彩な病態に対応する適切なガイドラインの作成が急がれる。線維筋痛症という疾患名だけでは保険薬として承認されている薬剤が1つもない現状で,全身の痛みを主訴とする多彩な症状を訴える患者を前にしてどのような治療を選択するかについては,少なくとも現状で一応の有効性が認められている薬剤を患者の症状や病態に対応する治療が必要とされることは言うまでもない。本ガイドラインは実地の臨床家に一定の方向性を示唆したものとしてご理解を頂きたい。
arrow 当然,現在主として米国でいわゆるエビデンスが確立されている慢性疼痛治療薬や抗うつ薬,抗痙攣薬などが本症の治療において本邦でもコアドラッグとなりうるが,保険収載が正式に採用されれば,線維筋痛症の治療は飛躍的に進展するものと思われる。さらに,本邦においては患者ケアに向けた診療体制の確立が急務である。

 

 
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