(旧版)線維筋痛症診療ガイドライン 2011
1章 今なぜ線維筋痛症ガイドラインが必要か
2.発症要因3〜9)
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本症の主症状である疼痛誘因には, 中枢性の広範囲に及ぶ神経因性疼痛(wide-spread neuropathic pain)の成因に関与する分子機序の解明が必須であると考えられる。このような視点から本症をみるとその発症の引き金には,外因性と内因性というエピソードが存在し,双方が混在している場合もあることが判明している。筆者らは,自験例の詳細な解析に基づき,次のような発症仮説を提示している。 |
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すなわち線維筋痛症には,他疾患と同様に遺伝的素因が存在する。実際に筆者らは,一卵性双生児の両者に線維筋痛症が発症した症例や母児発症例も少なからず経験している。 |
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疼痛の発症要因は,外傷,手術,ウイルス感染などの外的要因と離婚・死別・別居・解雇・経済的困窮などの生活環境のストレスに伴う心因性の要因に大別される(図3,4)。これは慢性ストレスとして,神経・内分泌・免疫系の異常により,疼痛シグナル伝達制御のシステムが著しく攪乱し,このため,さらに多様な精神症状,疼痛異常をまねいているという悪循環が生じていると考えられる。また,筋・骨格系疼痛と主症状のほかに副症状として,不眠,うつ病などの精神神経症状,過敏性大腸症候群,膀胱炎,ドライアイ,シェーグレン症候群様の乾燥症状などが認められ,多彩な全身症状を呈する重症型へと進展していく。今回の米国リウマチ学会(ACR)予備診断基準ではこれらがすべて一定の割合で寄与しているようになってきている一方,抜歯などの歯科処置や脊椎外傷や手術,むちうち症など著しい身体障害やパニック障害などが,本症の最初の疼痛の引き金となっている症例もかなりの頻度で存在する(図5)。本症の発症の「引き金」ではあるものの原因としては依然不明確な点が多い。症状が進行してくると,線維筋痛症の旧診断基準として知られている18箇所の圧痛点をはるかに通り越して,四肢から身体全体に激しい疼痛が拡散し腱の付着部炎や,筋膜,関節等に及ぶ。それらの疼痛部位は一定の神経支配領域や解剖学的な視点からでは説明がつきにくい。この場合,線維筋痛症の疼痛発症機序は下行性痛覚制御経路の障害による痛みと考えられるが,痛みの認識システムの過剰な亢進など線維筋痛症でも同様のパターンがあることが多い。最近の多数例の集積による主症状分類を今回のガイドラインで加えた(図6,7)。 |
![]() 図3 ![]() |
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2009日本線維筋痛症学会診療ネットワーク患者調査より(第54回日本リウマチ学会, 第2回日本線維筋痛症学会発表,2010,東京) |
![]() 図4 ![]() |
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2009日本線維筋痛症学会診療ネットワーク患者調査より (第54回日本リウマチ学会,第2回日本線維筋痛症学会発表,2010,東京) |
![]() 図5 ![]() |
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2009日本線維筋痛症学会診療ネットワーク患者調査より(第54回日本リウマチ学会, 第2回日本線維筋痛症学会発表,2010,東京) |
![]() 図6 ![]() |
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2010日本線維筋痛症学会診療ネットワーク患者調査より(平成23年リウマチ月間講演会にて発表,2010,東京)
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![]() 図7 ![]() |
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2010日本線維筋痛症学会診療ネットワーク患者調査より(平成23年リウマチ月間講演会にて発表,2010,東京)
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本疾患は,最初の疼痛が引き金となり次の疼痛をまねくが,注目すべき臨床的症状は,疼痛が徐々に無秩序に解剖学的な神経支配的領域とはまったく関連のない分野へ広範囲に及ぶことである。この疼痛の持続期間は長く,同時に疼痛の程度はしだいに激しくなり,患者のQOLは著しく低下することとなる。 |
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このような本疾患の疼痛は中枢性と末梢性の混合型の疼痛と考えられる場合も多く,脳血管障害などに伴って一定の刺激により線維筋痛症と類似した痛みが誘発されると考えられる。 |
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また,疼痛への感受性が著しく亢進している場合と閾値は正常でも著しく痛みを感じるケースが存在する場合がある。この難治性疼痛の原因は心因性のストレスのほか,外傷または温度や気圧の変化,騒音などの外因性のストレスでも発症する。 |