(旧版)腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン 2011
前文
2 疾患概念
2 疾患概念
腰部脊柱管狭窄症は腰椎の椎間板と椎間関節の変性を基盤として神経の通路である脊柱管や椎間孔が狭小化することで,特有の症状を呈する症候群である.症候群とは,複数の症候の組み合わせによって診断される診断名あるいは疾患を意味し,複数の疾患が共通した一群の症候を呈する場合(パーキンソン症候群など)や,単一疾患が一群の症候を呈する場合(ターナー症候群など)に用いられる.腰部脊柱管狭窄症は,同一の原因によると考えられるが,現在のところ明確な病態が不明であり,原因が明確になれば将来再分類される可能性がある.以上の観点から,「変性脊椎すべり症」と「腰部脊柱管狭窄症」とを同一レベルにて論ずるのは不適切であり,「変性脊椎すべり症による(を伴う)腰部脊柱管狭窄症と脊椎症による(を伴う)腰部脊柱管狭窄症」,あるいは「変性脊椎すべり症と脊椎症」などの表現が妥当である.
高齢社会を迎えた現在,本症の診療機会は非常に多くなっている.疾患の認識は歴史的にはVerbiestが1949年に仏語で3例,そして1954年に英語で7例を報告したことに始まるとされている6,7).わが国では若松が1970年にはじめて本症の13例を考察し報告した8).やがて1976年にArnoldiらが国際的な会議を経て国際分類を著した頃から,急速に疾患認識が高まったといえる1).疾患の理解のためには定義が必須となるが,現在のところ定義に関する統一見解は存在しない(次章参照).
本ガイドラインは腰部脊柱管狭窄症の国際分類に記載された個々の疾患にこだわることなく,加齢に伴う変性を基盤とする腰部脊柱管狭窄症を対象として作成した.すなわち椎間板ヘルニアを合併するものや,腰椎分離すべり症,しばしば若年でも発症する発育性狭窄症は除外している.
診断基準は,基本的に科学的根拠に基づいて設定されるべきであるが,現在のところ本症に関して統一した見解は得られていない.しかし,日常診療においてはある程度の共通した基準が必要であり,本ガイドライン利用のためにも不可欠である.そこで本症の診療ガイドライン策定委員会は以下の診断基準を提唱し,これを一時的な診断基準として掲載する(表1).腰部脊柱管狭窄症に間欠跛行が多くみられるのは周知の事実である.しかしながら,本症患者のなかには歩行ができない者,立位にて症状が出現する者,下肢症状があるものの歩き続けることができる者もあり,間欠跛行を診断の必須項目とはしなかった.
これは本委員会において議論を重ねたうえで作成したものであるが,信頼性,妥当性の検証は今後の課題である.
表1 腰部脊柱管狭窄症の診断基準(案)
