(旧版)糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン

 
II.歯周治療と糖尿病


5.歯周外科治療
角1 角2
  CQ13:糖尿病患者では歯周外科治療後の抜糸はいつごろ行うのが適切か?  
角3 角4

  • 推奨:十分な血糖コントロール下で歯周外科治療を行う限りにおいては,抜糸時期は通常通りで特別な配慮は必要としない。しかし,高齢者などでは,感染予防のため術後の消毒や抗菌薬の予防投与を行うことが望ましい(レベル4)。(推奨度 グレードC1)


背景・目的
糖尿病患者は,その臨床的特徴として易感染性や創傷治癒遅延が知られており,糖尿病患者の口腔内疾患の合併症としては,歯周病が挙げられている。そのため,歯周治療には糖尿病の臨床的特徴を考慮した特別な配慮が必要ではないかと考えられる。
糖尿病患者の血糖値のコントロールと歯科治療の予後との関連に関してはいくつかの報告がなされている。すなわち,52名の糖尿病患者に3.0クロミックグート糸を用いた縫合処置を伴うインプラント処置を行い術後経過を調べた研究1)においては,1次または2次手術後に裂開が生じた5名のHbA1cは,3名が7.4〜9.2であったが,他の2名は11.7以上で血糖値のコントロールが不十分な患者であった。また,Yoshiiら2)は,993名の智歯の抜歯を行い,その中の7名の糖尿病患者において,糖尿病のコントロールが良好であれば,術後,顔面領域へ波及した深部感染はみられなかったことを報告している。そして,歯周病の領域においても,糖尿病患者のグリコヘモグロビン(HbA1c)を,前述(CQ710)のように,7.0%以下(日本人では,6.5%)にコントロールしておけば,SPTや歯周外科治療の実施に際しても特別な配慮は必要ないことが示されている。そしてさらにわが国において,糖尿病患者に対する広範囲な歯周外科治療を行うには,術前・術中に血中グルコースレベルを80〜110mg/dLにコントロールしておくことが望ましいとする報告3),4)もなされている。
以上のように,糖尿病患者では血糖値のコントロールの良否が創傷治癒遅延に影響を及ぼし,結果として歯科治療の予後に影響を与えることが推測される。そこでここでは,糖尿病の状態により影響を受けることが危惧される歯周外科治療後の抜糸時期について考察する。

解説
糖尿病患者に対し縫合の是非や抜糸時期について直接言及した報告は,今回の文献検索では抽出されなかった。しかしながら,血糖値がコントロールされている糖尿病患者では健常者と同様の歯周外科治療の予後が期待できること(CQ10参照)から,歯周外科治療の抜糸の時期についても健常者と同一の時期に行うことが可能と推測される。
また,歯科領域以外の研究において,Shindoら5)は,高齢者の消化器の外科手術における術野のポピドンヨードによる消毒の効果を調べ,糖尿病患者では,術前だけでなく縫合後の消毒が有効であることを報告している。一方,Waldmanら6)は,3,490名の全膝関節置換手術を受けた患者に対し,手術部位に対し歯科治療が感染リスクとなるか,後ろ向きコホート研究(レベル4)を行った。その結果,術後6ヶ月以内に生じた感染症62名のうち7名が歯科治療に起因し,その大部分が歯科処置を受けたのちに抗菌薬の投与を受けていない患者であった。すなわち,これらのことは,歯周治療が口腔外の遠隔臓器への感染源になり得ることを示唆しており,とくに高齢者では感染予防のため術後の消毒や抗菌薬の予防投与を行うことが望ましいと考えられる。

文献検索ストラテジー
電子検索データベースとして,Medlineおよび医中誌を検索した。Medlineに用いた検索ストラテジーは,“Diabetes Mellitus”[MeSH Terms] OR “Diabetes Insipidus”[MeSH Terms] OR Diabetes[Text Word]と“Periodontal Diseases”[MeSH Terms] OR “Periodontal”[All Fields] AND “Diseases”[All Fields] OR “Periodontal Diseases”[All Fields] OR “Periodontal”[All Fields] AND “Disease”[All Fields] OR “Periodontal Disease”[All Fields]と“Suture”[MeSH Terms]を掛け合わせると0になるため,“Postoperastive Wound”[MeSH Terms] OR “Postoperative Wound Infection”[MeSH Terms] OR “Postoperative Care”[MeSH Terms]などを掛け合わせたものを追加した。さらに,医中誌より糖尿病/TH or 糖尿病/AL and 術後管理/TH or 術後管理/AL AND PT=原著論文 RD=比較研究で検索した結果,以下の論文を選定した。


seq. terms and strategy hits
#1 “Diabetes Mellitus”[MeSH Terms] OR “Diabetes Insipidus”[MeSH Terms] OR Diabetes[Text Word] 315,038
#2 “Periodontal Diseases”[MeSH Terms] OR “Periodontal”[All Fields] AND “Diseases”[All Fields] OR “Periodontal Diseases”[All Fields] OR “Periodontal”[All Fields] AND “Disease”[All Fields] OR “Periodontal Disease”[All Fields]“Periodontal Disease”[All Fields] 55,892
#3 “Sutures”[MeSH Terms] OR Suture[Text Word] 55,820
#4 “Postoperative Period”[MeSH Terms] OR “Postoperative”[All Fields] AND “Period”[All Fields] OR “Postoperative Period”[All Fields] 84,013
#5 “Surgical Wound Infection”[MeSH Terms] OR “Surgical”[All Fields] AND “Wound”[All Fields] AND “Infection”[All Fields] OR “Surgical Wound Infection”[All Fields] 28,341
#6 #1 and #2 and #3 Limits: Human 0
#7 #1 and #2 and #4 Limits: Human 2
#8 #1 and #2 and #5 Limits: Human 6
最終検索日2008年9月28日

参考文献
1) Kapur KK, Garrett NR, Hamada MO, Roumanas ED, Freymiller E, Han T, Diener RM, Levin S, Ida R. A randomized clinical trial comparing the efficacy of mandibular implant-supported overdentures and conventional dentures in diabetic patients. Part I: Methodology and clinical outcomes. J Prosthet Dent. 1998;79(5):555-69.
2) Yoshii T, Hamamoto Y, Muraoka S, Kohjitani A, Teranobu O, Furudoi S, Komori T. Incidence of deep fascial space infection after surgical removal of the mandibular third molars. J Infect Chemother. 2001;7(1):55-7.
3) 吉見輝也,茂木克俊.代謝性疾患患者の歯科治療─特に糖尿病患者について─歯界展望,別冊 有病者の歯科治療.1981;169-85.
4) 中村喜次,中野清治,中谷速男,五味昭彦,佐藤敦彦,杉本晃一.Off-pump CABGにおける糖尿病の影響.日本心臓血管外科学会雑誌.2006;35(2):66-71.
5) Shindo K, Funai S, Kuroda K, Wakano T, Nishimura K. Clinical study on the antiseptic effect of povidone-iodine solution for the surgical field of digestive tract operations. Dermatology. 2002;204 Suppl 1:47-51.
6) Waldman BJ, Mont MA, Hungerford DS. Total knee arthroplasty infections associated with dental procedures. Clin Orthop Relat Res. 1997;(343):164-72.

関係論文の構造化抄録
2)Yoshii T, Hamamoto Y, Muraoka S, Kohjitani A, Teranobu O, Furudoi S, Komori T.
Incidence of deep fascial space infection after surgical removal of the mandibular third molars.
J Infect Chemother. 2001;7(1):55-7.
智歯抜歯後に顔面領域へ波及した深部感染がどれほど起きるかを調査する。
ザイン 前後比較試験。
日本の兵庫淡路県立病院。
1993年〜1999年に病院に来院した993名(418名女性:575名男性)の智歯抜歯患者。
(1:80,000エピネフリン含有)2%リドカインの局所麻酔下での従来法による抜歯術後3から4日の抗菌薬の投与。
主要評価項目 顔面領域へ波及した深部感染。
8例に感染が認められた。
993名中7名に糖尿病患者が含まれていたが良好にコントロールされていたため感染は認められなかった。
糖尿病患者でも糖尿病がコントロールされ,術後抗菌薬の投与を受けていれば,顔面領域へ波及した深部感染を起こすリスクはない。
(レベル4)

6)Waldman BJ, Mont MA, Hungerford DS.
Total knee arthroplasty infections associated with dental procedures.
Clin Orthop Relat Res. 1997;(343):164-72.
関節置換手術を受けた患者に対し,歯科治療が感染源となっているかを調べる。
ザイン 前後比較試験。
アメリカのJohns Hopkins大学のGood Samaritan病院。
1982年から1993年の間に行われた3,490名の全膝関節置換手術を受けた患者。
全膝関節置換手術。
主要評価項目 手術後6ヶ月以上たった患者における膝関節における感染の有無。
起きた感染症は62名であった。そのうち7名が歯科治療に起因していた。歯科処置を受けたのちに抗菌薬の投与を受けていない患者がほとんどであった。
歯科治療が原因となった感染症が,3,490名中7名に認められ,そのほとんどは,歯科治療(抜歯など)後に抗菌薬の投与が行われていなかったため,歯科における観血処置後に抗菌薬の投与をすることが必要である。
(レベル4)


 
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