(旧版)糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン
II.歯周治療と糖尿病
4.サポーティブペリオドンタルセラピー
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CQ8:糖尿病患者は歯周治療後,歯周病が再発しやすいか? | ||
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背景・目的
糖尿病患者では,多形核白血球の機能低下や,コラゲナーゼ活性の上昇,コラーゲン産生能の低下などが報告されており,糖尿病のコントロールの不良な患者では,糖尿病のコントロールが良好な患者に比べ歯周病における骨吸収やアタッチメントロスが高頻度で発症することが報告されている。
このように,糖尿病患者では歯周病が重症化しやすいことが報告されているが,歯周治療においてもSPT,メインテナンス中での再発が多いとされてきた。再発の基準として,抜歯を基準としたもの,レントゲン上の骨吸収を指標にしたもの,アタッチメントロスを基準としたものなどが報告されているが,糖尿病患者と非糖尿病患者の歯周治療の予後を直接比較した研究は数少ない。また,糖尿病の程度もしくは血糖コントロールによる層別化をして比較したものも認められるが,数的に十分とはいえない。
このように,糖尿病患者では歯周病が重症化しやすいことが報告されているが,歯周治療においてもSPT,メインテナンス中での再発が多いとされてきた。再発の基準として,抜歯を基準としたもの,レントゲン上の骨吸収を指標にしたもの,アタッチメントロスを基準としたものなどが報告されているが,糖尿病患者と非糖尿病患者の歯周治療の予後を直接比較した研究は数少ない。また,糖尿病の程度もしくは血糖コントロールによる層別化をして比較したものも認められるが,数的に十分とはいえない。
解説
これまでの歯周病と糖尿病の関連を調べた研究から,糖尿病は,歯周病のリスク因子であることは明らかである。さらに,何らかの歯周治療を行うことで,非糖尿病歯周病患者と同様,病状が改善するとする報告は多い。これに対し,糖尿病患者は,メインテナンスもしくはSPT中に非糖尿病患者に比べ再発しやすいかどうかを検索した研究は数少ない。
Faggionら1)は,6名の糖尿病患者を含む198名の患者について平均11.8年SPTを続け,被験者でベースライン時,抜歯のリスク因子として統計学的に有意であると同定されたものは糖尿病(オッズ比:4.17),歯槽骨吸収(同:1.04),動揺度III度(同:5.52(動揺度0との比較)),複根歯(同:1.82),そして失活歯髄歯(同:2.24)であり,糖尿病や動揺などが抜歯の予知因子となることが示された。
Tervonenら2)は,1型糖尿病患者を糖尿病の程度を基準に平均30歳の患者を3つのグループに分けた。非糖尿病歯周病患者のコントロール群(10例),D1:糖尿病のコントロールのよい群で合併症なし(13名),D2:糖尿病のコントロールが不十分で網膜症ありとなし群(15例),D3:コントロール不良群で合併症あり群(8例)の3群で,非外科的歯周治療が終了し歯周組織が安定した状態になったことを確認後,12ヶ月までメインテナンスを行った。結果,4mm以上のプロービングポケットデプスの割合がD3群以外では,差は認められなかった。しかし,D3群では,有意なプロービングポケットデプスの悪化が認められた。
Tervonenら2)の研究が外科処置を伴わない,いわば歯周基本治療後の1年間での観察であるのに対し,Westfeltら3)は,46~65歳の1型,2型糖尿病患者で中等度の歯周炎患者20名と同年代の非糖尿病歯周病患者20名に対して歯周外科治療を含めた動的治療を行った後のSPT中の再発を調べた。すなわち,歯周基本治療後プロービング時の出血(+)で,5mm以上のポケットがある部位に対してフラップ手術を行い(手術対象:コントロール群20名中10名の28歯で,そのうち抜歯に至ったのは1歯/糖尿病群20名中9名の26部位で,そのうち抜歯に至ったのは3歯),3ヶ月ごとのSPTを継続し,5年後の結果をまとめた。5年後のプロービングポケットデプス,アタッチメントレベルなど臨床評価で両群に差が認められなかった。
以上のことから,メインテナンスを行うにあたり,糖尿病に対するコントロールが不十分な患者では再発を起こしやすいといえる。糖尿病のコントロールを十分行い,適切なSPTを行うことが重要である。
Faggionら1)は,6名の糖尿病患者を含む198名の患者について平均11.8年SPTを続け,被験者でベースライン時,抜歯のリスク因子として統計学的に有意であると同定されたものは糖尿病(オッズ比:4.17),歯槽骨吸収(同:1.04),動揺度III度(同:5.52(動揺度0との比較)),複根歯(同:1.82),そして失活歯髄歯(同:2.24)であり,糖尿病や動揺などが抜歯の予知因子となることが示された。
Tervonenら2)は,1型糖尿病患者を糖尿病の程度を基準に平均30歳の患者を3つのグループに分けた。非糖尿病歯周病患者のコントロール群(10例),D1:糖尿病のコントロールのよい群で合併症なし(13名),D2:糖尿病のコントロールが不十分で網膜症ありとなし群(15例),D3:コントロール不良群で合併症あり群(8例)の3群で,非外科的歯周治療が終了し歯周組織が安定した状態になったことを確認後,12ヶ月までメインテナンスを行った。結果,4mm以上のプロービングポケットデプスの割合がD3群以外では,差は認められなかった。しかし,D3群では,有意なプロービングポケットデプスの悪化が認められた。
Tervonenら2)の研究が外科処置を伴わない,いわば歯周基本治療後の1年間での観察であるのに対し,Westfeltら3)は,46~65歳の1型,2型糖尿病患者で中等度の歯周炎患者20名と同年代の非糖尿病歯周病患者20名に対して歯周外科治療を含めた動的治療を行った後のSPT中の再発を調べた。すなわち,歯周基本治療後プロービング時の出血(+)で,5mm以上のポケットがある部位に対してフラップ手術を行い(手術対象:コントロール群20名中10名の28歯で,そのうち抜歯に至ったのは1歯/糖尿病群20名中9名の26部位で,そのうち抜歯に至ったのは3歯),3ヶ月ごとのSPTを継続し,5年後の結果をまとめた。5年後のプロービングポケットデプス,アタッチメントレベルなど臨床評価で両群に差が認められなかった。
以上のことから,メインテナンスを行うにあたり,糖尿病に対するコントロールが不十分な患者では再発を起こしやすいといえる。糖尿病のコントロールを十分行い,適切なSPTを行うことが重要である。
文献検索ストラテジー
電子検索データベースとして,Medlineおよび医中誌を検索した。Medlineに用いた検索ストラテジーは,“Diabetes Mellitus”[MeSH Terms] OR “Diabetes”[All Fields] AND “Mellitus”[All Fields] OR “Diabetes Mellitus”[All Fields] OR “Diabetes”[All Fields] OR “Diabetes Insipidus”[MeSH Terms] OR “Diabetes”[All Fields] AND “Insipidus”[All Fields] OR “Diabetes Insipidus”[All Fields]と“Periodontal Diseases”[MeSH Terms] OR “Periodontal”[All Fields] AND “Diseases”[All Fields] OR “Periodontal Diseases”[All Fields] OR “Periodontal”[All Fields] AND “Disease”[All Fields] OR “Periodontal Disease”[All Fields] AND “Therapy”[Subheading] OR “Therapy”[All Fields] OR “Therapeutics”[MeSH Terms] OR “Therapeutics”[All Fields]と“Prognosis”[MeSH Terms] OR “Prognosis”[All Fields]もしくは,“Recurrence”[MeSH Terms] OR “Recurrence”[All Fields]で,関連のある論文を抽出した後,その論文の参考文献リストについても内容を検討した。主要な情報として,糖尿病患者を非糖尿病患者と比較して,歯周基本治療後に歯周病が再発しやすいかどうかを検討した比較研究を収集対象とした。
seq. | terms and strategy | hits |
#1 | “Diabetes Mellitus”[MeSH Terms] OR “Diabetes”[All Fields] AND “Mellitus”[All Fields] OR “Diabetes Mellitus”[All Fields] OR “Diabetes”[All Fields] OR “Diabetes Insipidus”[MeSH Terms] OR “Diabetes”[All Fields] AND “Insipidus”[All Fields] OR “Diabetes Insipidus”[All Fields] | 315,098 |
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#3 | “Prognosis”[MeSH Terms] OR “Prognosis”[All Fields] | 705,797 |
#4 | “Recurrence”[MeSH Terms] OR “Recurrence”[All Fields] | 252,722 |
#5 | #1 and #2 and #3 Limits: Humans | 53 |
#6 | #1 and #2 and #4 Limits: Humans | 12 |
最終検索日2008年9月28日
参考文献
1) | Faggion CM Jr, Petersilka G, Lange DE, Gerss J, Flemmig TF. Prognostic model for tooth survival in patients treated for periodontitis. J Clin Periodontol. 2007;34(3):226-31. Epub 2007 Jan 25. |
2) | Tervonen T, Karjalainen K. Periodontal disease related to diabetic status. A pilot study of the response to periodontal therapy in type 1 diabetes. J Clin Periodontol. 1997;24(7):505-10. |
3) | Westfelt E, Rylander H, Blohmé G, Jonasson P, Lindhe J. The effect of periodontal therapy in diabetics. Results after 5 years. J Clin Periodontol. 1996;23(2):92-100. |
関係論文の構造化抄録
1)Faggion CM Jr, Petersilka G, Lange DE, Gerss J, Flemmig TF. Prognostic model for tooth survival in patients treated for periodontitis. J Clin Periodontol. 2007;34(3):226-31. Epub 2007 Jan 25. | |
目的 | 歯周病患者の歯の残存率を評価する予後の判定モデルをつくる。 |
研究デザイン | 前後比較研究。 |
研究施設 | ドイツのミュンスター大学歯周病科。 |
対象患者 | 上記大学に通院中の歯周病患者でSPTに入った患者394名の4,559本の歯。このうち動的治療および少なくとも5年以内のSPT中に中断したもの213名,その後のアンケート診査依頼に応じ,SPTに継続して参加した患者198名を統計処理した。 |
暴露要因 | 動的治療として,口腔清掃指導,歯肉縁上縁下のデブライドメント,136名はフラップ手術を受けた。SPTでは,口腔清掃の再動機付け,縁上のスケーリングとフッ化物塗布(SPTの継続年数平均11.8年)。 |
主要評価項目 | 全期間を通じた喪失歯数,SPT中に喪失した歯数,糖尿病罹患患者のロジスティック解析。 |
結果 | 喪失歯の全体は,461本(10.24%),SPT中に喪失したのは249本(5.46%)。6名の糖尿病患者において,糖尿病であることは歯の喪失に関する有意なリスク因子(0.05)(OR=4.17,95%CI=1.51-11.57)。 |
結論 | SPT中における糖尿病因子は,有意に歯周病の再発に寄与している。口腔清掃の再動機付け,縁上のスケーリングとフッ化物塗布だけでは,再発を防ぐことは十分ではない。糖尿病の程度や糖尿病のコントロールについてデータがないため詳細な評価ができない。 |
(レベル4) |
2)Tervonen T, Karjalainen K. Periodontal disease related to diabetic status. A pilot study of the response to periodontal therapy in type 1 diabetes. J Clin Periodontol. 1997;24(7):505-10. | |
目的 | 1型糖尿病が歯周基本治療の効果に影響するかを評価する。 |
研究デザイン | コントロールを伴うコホート研究。 |
研究施設 | フィンランドの糖尿病専門病院と大学病院。 |
対象患者 | 1型糖尿病患者を有する歯周炎患者36名と糖尿病を有しない歯周炎患者10名。 糖尿病群はその重症度によって3群に分けられた。 D1群(13名):糖尿病の合併症がなく,HbA1cが8.5%以下にコントロールされている群。 D2群(15名):糖尿病のコントロールが不十分で網膜症ありとなし群。 D3群(8名):コントロール不良群で合併症あり群。 |
暴露要因 | 口腔衛生指導,スケーリング・ルートプレーニング。 |
主要評価項目 | 治療前および治療後(1ヶ月,6ヶ月,12ヶ月)のプロービングポケットデプス,アタッチメントレベル。 |
結果 | 各評価時において両群間でプロービングポケットデプス≧4mm,アタッチメントレベル≧2mmの部位の割合に有意差はなかった。糖尿病の重症度の違いで比較した場合,D3群ではD1群およびD2群に比較して12ヶ月後のプロービングポケットデプス≧4mmの割合が有意に高かった。 |
結論 | 1型糖尿病は,歯周基本治療によるプロービングポケットデプスとアタッチメントレベルの変化に有意には影響を与えない。しかし糖尿病の重症度が高い場合においてのみ,治療12ヶ月後のプロービングポケットデプスが増加する。 |
(レベル3) |
3)Westfelt E, Rylander H, Blohmé G, Jonasson P, Lindhe J. The effect of periodontal therapy in diabetics. Results after 5 years. J Clin Periodontol. 1996;23(2):92-100. | |
目的 | 糖尿病患者と非糖尿病患者で5年間の間の観察期間中で歯周病の再発があるかを検討する。 |
研究デザイン | コントロールを伴うコホート研究。 |
研究施設 | スウェーデンの糖尿病外来(Sahlgrenska大学病院内科)。 |
対象患者 | 46~65歳の1型,2型糖尿病患者で中等度の歯周炎患者20名と同等の非糖尿病歯周病患者それぞれ20名。 |
暴露要因 | 歯周基本治療後6ヶ月目の再評価で,プロービングポケットデプス5mm以上でプロービング時の出血(+)の部位に歯周外科を行う。20名中9名の糖尿病群が歯周外科を受け,20名のコントロール群中10名が外科処置を受けた。 |
主要評価項目 | 5年間の観察期間におけるプロービングポケットデプスおよびアタッチメントレベル。 |
結果 | 5年間の観察期間において,両群間の歯周病の再発は認められなかった。 |
結論 | 糖尿病患者は,ほとんどがHbA1c 8.0~9.9%であり,10%以上は2名しかいなかった。よって糖尿病のコントロールがよければ,歯周病再発に有意な差は認められない。 |
(レベル3) |