(旧版)糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン

 
II.歯周治療と糖尿病


4.サポーティブペリオドンタルセラピー
角1 角2
 
  • CQ7:糖尿病患者だとグリコヘモグロビン(HbA1c)値がいくら以下だと良好にサポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)が行えるか?
 
角3 角4

  • 推奨:血管合併症を予防するうえで,HbA1c7%未満(日本人では6.5%未満)が有効であるとされている。大血管障害を予防するにはさらに他のリスクをコントロールすることが推奨されていることから,歯周治療においても最低HbA1c7%未満(日本人では6.5%未満)でSPTを行うことが推奨される(レベル1)。(推奨度 グレードB)


背景・目的
CQ6において糖尿病患者ではSPTの間隔を短くすることが推奨された。しかるに歯周炎に対する再発リスクが高いとされる糖尿病者では,良好なSPTを行ううえで血糖コントロールの目標値を設定することが望まれる。

解説
SPTではこのCQに対応する文献が皆無であったため,まずHbA1c値が抜歯の可否を決定するうえでのdecision makingの基準となるかどうかについて検討した。しかしながらHbA1cを指標として抜歯基準を明確に示した文献は見出せなかった。一般に糖尿病治療の基本目標は疾患の進行防止と合併症の予防にある。そこで糖尿病の合併症を防ぐうえでHbA1cの目標値がどのように設定されているかについて検討した。その結果,欧米人においてはHbA1cが7%未満,日本人においては6.5%未満で細小血管合併症の発症が有意に抑制されることが示されている。このことから,歯周病も糖尿病の合併症と捉えるならばHbA1c7.0%未満(日本人の場合6.5%未満)であれば,それ以上の群に比べ良好にSPTを行える可能性がある。しかしながら,参考とした大規模疫学研究はすべて細小血管合併症をエンドポイントとしていることから,たとえば歯周病を糖尿病に固有の細小血管合併症と類似の病態を示す合併症であると仮定すればその結果を歯周病に当てはめて考えることが可能である(レベル1)。しかしながら歯周病がむしろ大血管合併症類似の病態であり,糖尿病に固有の合併症ではなく慢性高血糖(HbA1c:6%以上)以外の多因子がリスク因子となると仮定すると,血糖を厳格にコントロールすることのみによる効果は小血管合併症の予防効果に比べ劣ることとなる(レベル1)。以上から,SPT期においてHbA1cが7%未満(日本人の場合6.5%未満)であることは推奨されるべきレベルではあるものの,血糖以外の要因をも念頭に置いた厳格な管理が推奨される。

文献検索ストラテジー
Medlineを“Diabetes”[Mesh Term] AND “Tooth Extraction”[Mesh Term] AND “Contraindication”[Mesh Term]で検索した。その結果,論文が1件のみ抽出されたが,糖尿病はう蝕による歯冠崩壊歯の抜歯の禁忌とはならないとする総説であり,抜歯を行ううえでHbA1cを指標としたクライテリアそのものは抽出されなかった。この結果は,“Contraindication”を“Glucose Metabolis”[Mesh Term]や“Hyperglycemia”[Mesh Term]に変えて検索しても,あるいは“Contraindication”を“HemoglobinA1c”[Mesh Term]に変更しても同様であった。


seq. terms and strategy hits
#1 “Diabetes”[Mesh Term] 315,038
#2 “Diabetes”[Mesh Term] AND “Tooth Extraction”[Mesh Term] 110
#3 “Diabetes”[Mesh Term] AND “Tooth Extraction”[Mesh Term] AND “Contraindication[Mesh Term]” 1
最終検索日2008年9月26日


以上からHbA1c値がいくら以下だと抜歯が可能(あるいはいくら以上だと禁忌となる)等々の明確な基準を論じた研究は見出せなかった。そこで医科ガイドラインでは糖尿病の合併症を予防するうえでHbA1cの治療目標値をどこに設定しているかについて検討した。

以下,国際糖尿病連合(International Diabetes Federation)と国際腎臓学会(International Society of Nephrology)により編集・発行された『Diabetes and Kidney Disease: Time to Act』の日本語訳から抜粋する。


「第5章 血糖コントロール
血糖コントロールは糖尿病性腎症の発症を遅らせることが,複数の臨床試験で示されています。これらの試験について,以下に説明します。
The Diabetes Control and Complication Trial(DCCT)は,1,411名の1型糖尿病患者を対象に10年間にわたり行われました。この試験期間中,一方の群の患者は綿密な患者教育,医療従事者と頻回の接触,血糖値の自己測定,インスリンの複数回注射といった,厳格な治療を受けました。この患者群では,平均血糖値は8.3mmol/L(150mg/dL)前後,HbA1cは7.0%に維持されました。他の群の患者は,ある程度の患者教育を受け,医療従事者との接触が頻繁ではなく,血糖値の測定を頻回に行わず,1日のインスリン注射が1〜2回といった,その当時の標準的な治療を受けました。この群の平均HbA1cは9.0%前後でした。10年後,試験開始時に尿中アルブミン排泄量が正常だった患者の腎機能が評価されました。厳格な治療を受けた群では標準的な治療を受けた群と比べ,糖尿病性腎症の発症は50%少ない結果となりましたが,試験開始時にすでにアルブミン尿がみられた患者では,集中的な血糖コントロールによるメリットはみられませんでした。
The United Kingdom Prospective Diabetes Study(UKPDS)は,2型糖尿病患者を対象に行われました。この試験の結果では,経口血糖降下薬またはインスリンによる厳格な血糖コントロールにより,糖尿病性腎症および糖尿病の他の細小血管合併症のリスクは低下しましたが,大血管合併症のリスクは低下しなかったことが示されました。UKPDSに参加した肥満(理想体重の120%を超える場合)の患者における経口血糖降下薬メトホルミンによる腎不全リスク削減効果は他の経口血糖降下薬と同様でした。しかし,メトホルミンにより,心臓発作(心筋梗塞)のリスクは有意に低下しました。
2型糖尿病患者を対象とした日本の試験では,1日3回以上のインスリン注射による厳格な血糖コントロールを行った患者で,6年間にみられた腎症の発症あるいは進行(7.7%)は,標準的な治療を受けた患者(28%)と比べて少なかったことが報告されています。
これらの試験では血糖コントロールのための基準値が示されていませんでしたが,HbA1cが低いほど腎症のリスクも低いことがわかっています。しかし,これは低血糖のリスクと比較して考えなければいけません。このため,現在の臨床ガイドラインでは,低血糖がない場合のHbA1cのターゲット値は7.0%未満とされています。
*:日本では,HbA1c値6.5%未満を血糖コントロール良好と判定している。」


以上の結果は腎症のみならず,網膜症や神経症といった細小血管障害に由来する合併症をエンドポイントとした場合でも同様の傾向にあった。
*ここで言う日本人におけるHbA1cの治療目標値はランダム化比較試験(Kumamoto Study)に基づいて設定された1),2)。すなわち,血糖を厳格にコントロールした群(HbA1c 6.5%)において優位に小血管障害の発症と進行が抑制されたとしたものである(レベル2)。これを受け,日本糖尿病学会では現在HbA1c 6.4%以下をコントロール良としている。

一方,欧米におけるHbA1cの目標値(7.0%)は主として2つのランダム化比較試験(1型糖尿病患者を対象としたものと2型糖尿病患者を対象としたもの)の結果から導き出されたものであった3),4)(レベル1)。


糖尿病コントロール目標(日本糖尿病学会2004年版)
評価 不可
不十分 不良
HbA1c 5.8未満 5.8〜6.4 6.5〜6.9 7.0〜7.9 8.0以上
空腹時血糖値 110未満 110〜129 130〜159 160以上
食後2時間血糖値 140未満 140〜179 180〜219 220以上

参考文献
1) Shichiri M, Kishikawa H, Ohkubo Y, Wake N. Long-term results of the Kumamoto Study on optimal diabetes control in type 2 diabetic patients. Diabetes Care. 2000;23(Suppl 2):B21-9.
2) Ohkubo Y, Kishikawa H, Araki E, Miyata T, Isami S, Motoyoshi S, Kojima Y, Furuyoshi N, Shichiri M. Intensive insulin therapy prevents the progression of diabetic microvascular complications in Japanese patients with non-insulin-dependent diabetes mellitus: a randomized prospective 6-year study. Diabetes Res Clin Pract. 1995;28(2):103-17.
3) The effect of intensive treatment of diabetes on the development and progression of long-term complications in insulin-dependent diabetes mellitus. The Diabetes Control and Complications Trial Research Group. N Engl J Med. 1993;329(14):977-86.
4) Intensive blood-glucose control with sulphonylureas or insulin compared with conventional treatment and risk of complications in patients with type 2 diabetes (UKPDS 33). UK Prospective Diabetes Study (UKPDS) Group. Lancet. 1998;352(9131):837-53.

関係論文の構造化抄録
1)Shichiri M, Kishikawa H, Ohkubo Y, Wake N.
Long-term results of the Kumamoto Study on optimal diabetes control in type 2 diabetic patients.
Diabetes Care. 2000;23(Suppl 2):B21-9.
小血管障害を予防するうえで有効な血糖コントロール目標を設定する。
ザイン 400例未満のランダム化比較研究。
熊本県内のコミュニティ。
2型糖尿病患者52名。
厳格コントロール(インスリン3回以上/日)群と通常コントロール(インスリン1〜2回/日)群。
主要評価項目 小血管障害の発症と進行。
厳格に血糖コントロールすれば小血管合併症は有意に予防できる。
HbA1cの治療目標を6.5%未満とする。
(レベル2)

2)Ohkubo Y, Kishikawa H, Araki E, Miyata T, Isami S, Motoyoshi S, Kojima Y, Furuyoshi N, Shichiri M.
Intensive insulin therapy prevents the progression of diabetic microvascular complications in Japanese patients with non-insulin-dependent diabetes mellitus: a randomized prospective 6-year study.
Diabetes Res Clin Pract. 1995;28(2):103-17.
小血管障害を予防するうえで有効な血糖コントロール目標を設定する。
ザイン 400例未満のランダム化比較研究。
熊本県内のコミュニティ。
2型糖尿病患者52名。
厳格コントロール(インスリン3回以上/日)群と通常コントロール(インスリン1〜2回/日)群。
主要評価項目 小血管障害の発症と進行。
厳格に血糖コントロールすれば小血管合併症は有意に予防できる。
HbA1cの治療目標を6.5%未満とする。
(レベル2)

3)The effect of intensive treatment of diabetes on the development and progression of long-term complications in insulin-dependent diabetes mellitus. The Diabetes Control and Complications Trial Research Group.
N Engl J Med. 1993;329(14):977-86.
小血管障害を予防するうえで有効な血糖コントロール目標を設定する。
ザイン 400例以上のランダム化比較研究。
アメリカ。
1型糖尿病患者711名。
厳格コントロール(インスリン3回以上/日)群と通常コントロール(インスリン1〜2回/日)群。
主要評価項目 小血管障害の発症と進行。
厳格に血糖コントロールすれば小血管合併症は有意に予防できる。
HbA1cの治療目標を7.0%未満とする。
(レベル1)

4)Intensive blood-glucose control with sulphonylureas or insulin compared with conventional treatment and risk of complications in patients with type 2 diabetes (UKPDS 33). UK Prospective Diabetes Study (UKPDS) Group.
Lancet. 1998;352(9131):837-53.
糖尿病合併症を予防するうえで有効な血糖コントロール目標を設定する。
ザイン 400例以上のランダム化比較研究。
イギリス。
2型糖尿病患者3,867名。
厳格コントロール(インスリンもしくはSU剤)群と従来法治療(食事療法のみ)群。
主要評価項目 小血管障害および大血管合併症の発症と進行。
厳格に血糖コントロールすれば小血管合併症は有意に予防できるものの大血管合併症の予防は血糖コントロールのみでは困難。
小血管合併症を予防するうえでHbA1cの治療目標を7.0%未満とする。大血管合併症は他のリスクも考慮する。
(レベル1)


 
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