(旧版)糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン

 
I.糖尿病患者における歯周病の病態


角1 角2
  Q2:糖尿病は歯周病を悪化させるか?  
角3 角4

A:糖尿病は歯周病を悪化させる。(レベル2+)


背景・目的
糖尿病は,慢性の高血糖と,糖代謝,脂質代謝,タンパク代謝の障害を生じるひとつの症候群で,網膜症,腎症,神経障害を併発することがある。高血糖状態の持続に起因する好中球の機能不全,コラーゲン合成阻害,歯根膜線維芽細胞の機能異常,advanced glycation endproductsによる炎症性組織破壊,微小循環障害,過剰な免疫応答などが歯周組織に影響を与え,歯周病を増悪させる可能性が考えられる。

解説
糖尿病患者の歯周病の状態を調査した研究の中から,糖尿病の罹患期間と歯周病の関係,血糖コントロールの状態と歯周病の関係に注目して検索した。
糖尿病の罹患期間と歯周病の関係を調べた横断観察研究では,1型,2型糖尿病の罹患期間が5年を超えるとアタッチメントロスが大きく,歯周病が悪化することが示された1),2)。また,Porphyromonas gingivalisに対する血清IgG抗体価と1型糖尿病罹患期間が,歯周炎の進行度と強い相関があることがわかった3)。縦断研究でも,1型糖尿病患者は,非糖尿病患者と比較し,5年後のアタッチメントロスが大きいこと4),2型糖尿病は,非糖尿病患者と比較し,2年後の歯槽骨吸収が高いこと5)が明らかとなった。
血糖コントロールの状態と歯周病の関係を調べたものでは,血糖コントロールが不良な2型糖尿病患者は,非糖尿病患者や血糖コントロールの良好な2型糖尿病患者と比較して歯槽骨吸収のリスクはより高いことが示されている6)。他にも,血糖コントロールが不良な2型糖尿病患者は,非糖尿病患者に比べて歯周炎のリスクは2.9倍であるが,血糖コントロールの良好な2型糖尿病患者は,非糖尿病患者と比較しても歯周炎のリスクに有意な差はないとの報告がある7)。1型糖尿病の血糖コントロールに関しても,血糖コントロールの悪い糖尿病患者は,血糖コントロールの良い患者に比べ,骨吸収度がより大きかったことを示している8),9)。また,炎症性サイトカインであるinterleukin-1β(IL-1β)の歯肉溝滲出液中のレベルを測定したところ,2型糖尿病の血糖コントロール不良患者は血糖コントロール良好な患者の約2倍高い値を示していた10)
また,糖尿病は歯周病に対する危険因子であることは,メタアナリシスでサポートされたエビデンスがある11)
以上のことから,糖尿病は歯周病の進行に関与し,歯周病を悪化させると判断される。

文献検索ストラテジー
電子検索データベースとして,Medlineを検索した。Medlineに用いた検索ストラテジーは,“Diabetes Mellitus”[MeSH Terms] AND “Periodontal Disease”[MeSH Terms] AND “Disease Progression”[MeSH Terms]で,関連のある論文を抽出した後,その論文の参考文献リストについても内容の検討を行った。主要な情報として,糖尿病の状態や罹患期間と歯周病の進行を比較した研究を採取した。

seq. terms and strategy hits
#1 “Diabetes Mellitus”[MeSH Terms] 224,993
#2 “Periodontal Disease”[MeSH Terms] 52,203
#3 “Disease Progression”[MeSH Terms] 53,580
#4 #1 AND #2 AND #3 Limits: Humans 37
最終検索日2008年7月9日

参考文献
1) Al-Shammari KF, Al-Ansari JM, Moussa NM, Ben-Nakhi A, Al-Arouj M, Wang HL. Association of periodontal disease severity with diabetes duration and diabetic complications in patients with type 1 diabetes mellitus. J Int Acad Periodontol. 2006;8(4):109-14.
2) Cerda J, Vázquez de la Torre C, Malacara JM, Nava LE. Periodontal disease in non-insulin dependent diabetes mellitus (NIDDM). The effect of age and time since diagnosis. J Periodontol. 1994;65(11):991-5.
3) Takahashi K, Nishimura F, Kurihara M, Iwamoto Y, Takashiba S, Miyata T, Murayama Y. Subgingival microflora and antibody responses against periodontal bacteria of young Japanese patients with type 1 diabetes mellitus. J Int Acad Periodontol. 2001;3(4):104-11.
4) Firatli E. The relationship between clinical periodontal status and insulin-dependent diabetes mellitus. Results after 5 years. J Periodontol. 1997;68(2):136-40.
5) Taylor GW, Burt BA, Becker MP, Genco RJ, Shlossman M, Knowler WC, Pettitt DJ. Non-insulin dependent diabetes mellitus and alveolar bone loss progression over 2 years. J Periodontol. 1998;69(1):76-83.
6) Taylor GW, Burt BA, Becker MP, Genco RJ, Shlossman M. Glycemic control and alveolar bone loss progression in type 2 diabetes. Ann Periodontol. 1998;3(1):30-9.
7) Tsai C, Hayes C, Taylor GW. Glycemic control of type 2 diabetes and severe periodontal disease in the US adult population. Community Dent Oral Epidemiol. 2002;30(3):182-92.
8) Tervonen T, Karjalainen K, Knuuttila M, Huumonen S. Alveolar bone loss in type 1 diabetic subjects. J Clin Periodontol. 2000;27(8):567-71.
9) Seppälä B, Seppälä M, Ainamo J. A longitudinal study on insulin-dependent diabetes mellitus and periodontal disease. J Clin Periodontol. 1993;20(3):161-5.
10) Engebretson SP, Hey-Hadavi J, Ehrhardt FJ, Hsu D, Celenti RS, Grbic JT, Lamster IB. Gingival crevicular fluid levels of interleukin-1beta and glycemic control in patients with chronic periodontitis and type 2 diabetes. J Periodontol. 2004;75(9):1203-8.
11) Khader YS, Dauod AS, El-Qaderi SS, Alkafajei A, Batayha WQ. Periodontal status of diabetics compared with nondiabetics: a meta-analysis. J Diabetes Complications. 2006;20(1):59-68.

関係論文の構造化抄録
4)Firatli E.
The relationship between clinical periodontal status and insulin-dependent diabetes mellitus. Results after 5 years.
J Periodontol. 1997;68(2):136-40.
1型糖尿病が歯周病進行のリスクファクターになるかを検討する。
ザイン 症例対照研究。
トルコの大学病院。
1型糖尿病患者44名,非糖尿病患者20名。
糖尿病。
主要評価項目 プロービングポケットデプス,アタッチメントレベル,歯肉炎指数,プラーク指数。
1型糖尿病患者は健常者と比較し5年後のアタッチメントロスが大きい。
1型糖尿病はアッタチメントロスを促進する。
(レベル4)

5)Taylor GW, Burt BA, Becker MP, Genco RJ, Shlossman M, Knowler WC, Pettitt DJ.
Non-insulin dependent diabetes mellitus and alveolar bone loss progression over 2 years.
J Periodontol. 1998;69(1):76-83.
2型糖尿病が歯槽骨吸収のリスクファクターになるかを検討する。
ザイン 症例対照研究。
アメリカの大学病院。
ピマインディアン362名。
2型糖尿病患者24名。
非糖尿病患者338名。
糖尿病罹患期間。
主要評価項目 骨吸収率。
2型糖尿病患者は健常者と比較し,2年後の歯槽骨吸収率が高かった。
2型糖尿病は歯槽骨吸収を促進する。
(レベル4)

6)Taylor GW, Burt BA, Becker MP, Genco RJ, Shlossman M.
Glycemic control and alveolar bone loss progression in type 2 diabetes.
Ann Periodontol. 1998;3(1):30-9.
糖尿病患者における血糖コントロールが歯周病に与える影響を調べる。
ザイン 症例対照研究。
アメリカの大学病院。
ピマインディアン359名。
血糖コントロールが悪い2型糖尿病患者7名。
血糖コントロールが良い2型糖尿病患者14名。
非糖尿病患者338名。
血糖コントロール。
主要評価項目 骨吸収。
血糖コントロールが悪い患者は,コントロールが良い患者や非糖尿病患者と比較して骨吸収が進行した。
血糖コントロールが悪い患者は,コントロールが良い患者や非糖尿病患者と比較して骨吸収のリスクが高い。
(レベル4)

7)Tsai C, Hayes C, Taylor GW.
Glycemic control of type 2 diabetes and severe periodontal disease in the US adult population.
Community Dent Oral Epidemiol. 2002;30(3):182-92.
2型糖尿病患者の血糖コントロールの状態と歯周病の重症度を比較する。
ザイン 症例対照研究。
アメリカの大学病院。
血糖コントロール不良2型糖尿病患者170名。
血糖コントロール良好2型糖尿病患者260名。
健常者3,841名。
血糖コントロール。
主要評価項目 アタッチメントロス,プロービングポケットデプス。
血糖コントロール不良の2型糖尿病患者は非糖尿病患者と比較して歯周病の重症度は有意に高い。
2型糖尿病の血糖コントロール不良は歯周病の重症度と関連がある。
(レベル4)

8)Tervonen T, Karjalainen K, Knuuttila M, Huumonen S.
Alveolar bone loss in type 1 diabetic subjects.
J Clin Periodontol. 2000;27(8):567-71.
1型糖尿病患者の血糖コントロールの状態と歯槽骨吸収の程度を比較する。
ザイン 症例対照研究。
フィンランドの大学病院。
24〜36歳の1型糖尿病患者35名,健常者10名。
血糖コントロール。
主要評価項目 臼歯部の骨吸収の割合。
血糖コントロールが悪い患者ほど歯槽骨吸収度が著明である。
1型糖尿病の血糖コントロール不良は歯槽骨吸収を進める。
(レベル4)

9)Seppälä B, Seppälä M, Ainamo J.
A longitudinal study on insulin-dependent diabetes mellitus and periodontal disease.
J Clin Periodontol. 1993;20(3):161-5.
1型糖尿病患者の血糖コントロールの状態と歯槽骨吸収の程度を比較する。
ザイン 症例対照研究。
フィンランドの大学病院。
35〜56歳の1型糖尿病患者38名。
血糖コントロール。
主要評価項目 プラーク指数,歯肉炎指数,プロービングポケットデプス,アタッチメントレベル,プロービング時の出血,歯肉退縮,骨吸収の割合。
血糖コントロールが悪い患者は良好な患者と比較し,アタッチメントロス,骨吸収度が大きい。
1型糖尿病の血糖コントロールは歯周病の状態に影響を与える。
(レベル4)

11)Khader YS, Dauod AS, El-Qaderi SS, Alkafajei A, Batayha WQ.
Periodontal status of diabetics compared with nondiabetics: a meta-analysis.
J Diabetes Complications. 2006;20(1):59-68.
糖尿病と歯周病の関連を調べる。
Medline。
歯周病の臨床パラメーターを糖尿病患者と非糖尿病患者で比較した研究。
データ抽出と質の評価 プロービングポケットデプスとアタッチメントレベルをはじめとする歯周病のあらゆる臨床パラメーターおよび血糖コントロールの指標としてグリコヘモグロビン(HbA1c)値を抽出し,複数人で評価した。
糖尿病患者と非糖尿病患者は同程度に歯周病に罹患しているものの,糖尿病患者ではプラークコントロール,歯肉の炎症,プロービングポケットデプス,アタッチメントレベルなどの臨床パラメーターにおいて,有意に重症化している。
糖尿病は歯周病を悪化する因子である。
(レベル2+)


 
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