(旧版)関節リウマチ診療ガイドライン 2014
第4章 ガイドライン作成に用いた資料一覧 |
エビデンスのまとめ |
CQ ナンバー | 82 | 担当者 | 遠藤平仁 |
カテゴリー | 合併症・妊娠・授乳1 | ||
CQ | 循環器疾患,冠動脈疾患を合併したRA患者においてcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)やbDMARD(生物学的製剤)の投与は有効かつ安全か? | ||
推奨文 | 合併症を有するRA患者に対するcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)やbDMARD(生物学的製剤)の投与は,リスクとベネフィットを考慮することを推奨する。 | 推奨の強さ | 強い | 同意度 | 4.72 |
解説 | RAは冠動脈疾患の合併が多い。多くの薬剤介入臨床試験は組み入れの際,循環器疾患,特に心不全,冠動脈疾患がある患者は除外されており,合併症を有する患者に対する有効性,安全性に関するエビデンスは乏しい。特にTNF阻害薬は重症心不全を合併したRAには禁忌である。心不全重症度分類(NYHA)ⅢおよびⅣ度のうっ血性心不全患者を対象としたインフリキシマブの海外臨床試験において,心不全症状などの悪化による入院や死亡が10mg/kg投与群で高いことが認められた。以上より,心不全合併RA患者へのTNF阻害薬は禁忌である。また心不全を有するRA患者へは注射金製剤も禁忌である。注射金製剤は高齢者において急激な血圧低下に伴い狭心症発作や心電図検査で心筋虚血が認められたとの報告がある。しかし,症例報告のみで症例対照比較試験はない。欧米からの報告がすべてであり医学中央雑誌から引用できる研究結果はない。コクランレビューに心血管合併を有するRAの報告があるがNSAIDなど疼痛治療に関する検討のみである。他の合併頻度が高い高血圧などについての検討はなく,またTNF阻害薬以外のbDMARD(生物学的製剤)について検討された研究はない。今後,新たな検討とわが国からのエビデンスが必要である。 | ||
Q | 循環器疾患,冠動脈疾患を合併したRA患者においてcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)やbDMARD(生物学的製剤)の投与は有効かつ安全か? | ||
A | 重症心不全合併RA患者にTNF阻害薬は禁忌である。csDAMRD(従来型抗リウマチ薬)やbDMARD(生物学的製剤)は冠動脈疾患の発症の誘因にはならない。しかし合併例の投与に際しエビデンスはなく,循環器専門医との連携のもとに慎重にリスクとベネフィットを考慮する。 |
エビデンスサマリー
エビデンスとして引用可能なコクランレビューはない。
1980~2013年までの検索式から得られた論文数はPubMed122件,医学中央雑誌66件,タイトルとアブストラクトから採用した論文数はPubMed8件,医学中央雑誌0件,構造化抄録を作成した論文数はPubMed8件である。
多くの臨床試験で循環器疾患の合併は組み入れの除外項目になっており, 循環器疾患を合併しているRAのbDMARD(生物学的製剤)の有効性,安全性に関して検討できる報告はない。しかしながらbDMARD(生物学的製剤),注射金製剤を除くcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)に循環器疾患,特に冠動脈疾患を悪化させる報告はない。TNF阻害療法が冠動脈疾患合併や進展を抑制する報告はある。またcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)投与症例と比較しTNF阻害療法症例は3年間の冠動脈疾患のない心不全合併が少ないことが報告されている(0.4 vs 2.2%)(Listing J, et al. Arthritis Rheum. 2008;58:667-677)。しかし,65歳以上の高齢者において心不全のあるRA(1,033例)と心不全のないRA(4,560例)についてTNF阻害薬(インフリキシマブ,エタネルセプト,アダリムマブ)投与群(1,002例)とMTX投与群(5,593例)を比較する後ろ向きコホート研究が行われ,TNF阻害薬群が心不全で入院する率はCox比例ハザードモデルで1.7倍(95%CI1.07~2.69)であり,心不全のない症例と比較し死亡HRは4.19(1.48~11.89)と高率であった。したがって,心不全のある症例に対するTNF阻害療法について,高齢者の心不全合併RAには禁忌である(Setoguchi S, et al. Am Heart J.2008;156:336-341)。心不全の重症度の記載がない後ろ向き研究であり,エビデンスの質は高くない。この報告に加え,重症心不全患者を対象としたインフリキシマブの海外臨床試験において,心不全の悪化のための入院や死亡がTNF阻害薬群で高かった。以上の結果より,少なくとも重症心不全患者にTNF阻害療法は禁忌と判断された。しかし一方,RA(13,171例)とOA(2,568例)を比較するコホート研究において,TNF阻害薬群は心不全合併率が低かった(TNF 阻害薬群3.1%;180/5,832,それ以外の治療群3.8%;281/7,339,p <0.05)(Wolfe F, et al. Am J Med. 2004;116:305-311)。冠動脈疾患,虚血性心疾患はRAにおいて頻度の高い合併症であり,欧米では非RA患者の1.7~1.9倍の頻度であるといわれる。TNF阻害療法は他のcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)と比較して心血管合併症の比率を低下させることが米国後ろ向きコホート研究で次のように報告されている。TNF阻害薬投与11,587例,その他のDMARD投与8,656例のCoxハザードモデルで100人/年:TNF阻害薬投与2.52(95%CI 2.12~2.98),その他のDMARD投与3.05(2.54~3.65)(Solomon DH, et al. Am J Med. 2013;126:730.e9-730.e17,エビデンスレベル:very low)。医学中央雑誌から引用可能な論文はなかった。
以上より,冠動脈疾患を合併したRA治療においてTNF阻害療法は冠動脈疾患を悪化させることはない,また新たな心不全を誘発させることはない,しかし重篤な心不全を合併したRA患者にはbDMARD(生物学的製剤),特にTNF阻害薬の投与は避ける,という結果であった。なお,すべて欧米のRA患者を対象とした観察研究のみであり,RCTなどのエビデンスの質の高い前向き試験はなく,また日本からの報告はない。現状では,循環器疾患,特に心不全,冠動脈疾患合併患者においてはリスクとベネフィットを考慮し慎重に治療をすべきである。
1980~2013年までの検索式から得られた論文数はPubMed122件,医学中央雑誌66件,タイトルとアブストラクトから採用した論文数はPubMed8件,医学中央雑誌0件,構造化抄録を作成した論文数はPubMed8件である。
多くの臨床試験で循環器疾患の合併は組み入れの除外項目になっており, 循環器疾患を合併しているRAのbDMARD(生物学的製剤)の有効性,安全性に関して検討できる報告はない。しかしながらbDMARD(生物学的製剤),注射金製剤を除くcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)に循環器疾患,特に冠動脈疾患を悪化させる報告はない。TNF阻害療法が冠動脈疾患合併や進展を抑制する報告はある。またcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)投与症例と比較しTNF阻害療法症例は3年間の冠動脈疾患のない心不全合併が少ないことが報告されている(0.4 vs 2.2%)(Listing J, et al. Arthritis Rheum. 2008;58:667-677)。しかし,65歳以上の高齢者において心不全のあるRA(1,033例)と心不全のないRA(4,560例)についてTNF阻害薬(インフリキシマブ,エタネルセプト,アダリムマブ)投与群(1,002例)とMTX投与群(5,593例)を比較する後ろ向きコホート研究が行われ,TNF阻害薬群が心不全で入院する率はCox比例ハザードモデルで1.7倍(95%CI1.07~2.69)であり,心不全のない症例と比較し死亡HRは4.19(1.48~11.89)と高率であった。したがって,心不全のある症例に対するTNF阻害療法について,高齢者の心不全合併RAには禁忌である(Setoguchi S, et al. Am Heart J.2008;156:336-341)。心不全の重症度の記載がない後ろ向き研究であり,エビデンスの質は高くない。この報告に加え,重症心不全患者を対象としたインフリキシマブの海外臨床試験において,心不全の悪化のための入院や死亡がTNF阻害薬群で高かった。以上の結果より,少なくとも重症心不全患者にTNF阻害療法は禁忌と判断された。しかし一方,RA(13,171例)とOA(2,568例)を比較するコホート研究において,TNF阻害薬群は心不全合併率が低かった(TNF 阻害薬群3.1%;180/5,832,それ以外の治療群3.8%;281/7,339,p <0.05)(Wolfe F, et al. Am J Med. 2004;116:305-311)。冠動脈疾患,虚血性心疾患はRAにおいて頻度の高い合併症であり,欧米では非RA患者の1.7~1.9倍の頻度であるといわれる。TNF阻害療法は他のcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)と比較して心血管合併症の比率を低下させることが米国後ろ向きコホート研究で次のように報告されている。TNF阻害薬投与11,587例,その他のDMARD投与8,656例のCoxハザードモデルで100人/年:TNF阻害薬投与2.52(95%CI 2.12~2.98),その他のDMARD投与3.05(2.54~3.65)(Solomon DH, et al. Am J Med. 2013;126:730.e9-730.e17,エビデンスレベル:very low)。医学中央雑誌から引用可能な論文はなかった。
以上より,冠動脈疾患を合併したRA治療においてTNF阻害療法は冠動脈疾患を悪化させることはない,また新たな心不全を誘発させることはない,しかし重篤な心不全を合併したRA患者にはbDMARD(生物学的製剤),特にTNF阻害薬の投与は避ける,という結果であった。なお,すべて欧米のRA患者を対象とした観察研究のみであり,RCTなどのエビデンスの質の高い前向き試験はなく,また日本からの報告はない。現状では,循環器疾患,特に心不全,冠動脈疾患合併患者においてはリスクとベネフィットを考慮し慎重に治療をすべきである。
エビデンスの質 (GRADE) |
very low |
該当するコクランレビュー | なし |
書誌情報 | |
DOI |