(旧版)関節リウマチ診療ガイドライン 2014

 
第4章 ガイドライン作成に用いた資料一覧
エビデンスのまとめ

CQ ナンバー 45-51 担当者 岸本暢将
カテゴリー bDMARD(生物学的製剤) 5
CQ セルトリズマブはRA治療において有効かつ安全か?
推奨文 疾患活動性を有するRA患者に対してセルトリズマブ投与を推奨する。ただし個々の患者のリスクとベネフィットを勘案して適応を決めるべきである。
推奨の強さ 強い 同意度 4.79
解説  セルトリズマブはわが国で5番目に発売されたTNF阻害薬であり,基本的には先行薬剤と同様のプロファイルを有すると考えられる。他のTNF阻害薬と異なりFc部分がなくペグ化されているため長期作用に加え,中和抗体や注射部位反応などの副反応の軽減作用が期待されている。bDMARD(生物学的製剤)のなかでの製剤選択および症例選択はいまだ検討中の課題であり,また安全性に関するエビデンスレベルは有効性に関するエビデンスと比べいまだ十分とはいえず,個々の患者のリスクとベネフィットを勘案して適応を慎重に決定するべきであることを強調したい。
Q ①セルトリズマブはRAの疾患活動性制御に有効か?
②セルトリズマブはRAの関節破壊制御に有効か?
③セルトリズマブはRAの機能障害制御に有効か?
④セルトリズマブはRA患者に使用した際,有害事象による薬剤中止を増加させるか?
⑤セルトリズマブはRA患者に使用した際,重篤な有害事象を増加させるか?
⑥セルトリズマブはRA患者に使用した際,感染症を増加させるか?
⑦セルトリズマブはRA患者に使用した際,死亡を増加させるか?
A ①有効である。
②有効である。
③有効である。
④増加させた。しかし薬剤中止総数はその効果により低下した。
⑤増加させた。しかし日和見感染症や悪性腫瘍,死亡の増加はなく今後の長期試験,市販後調査の結果を確認したい。
⑥コクランレビューの結果では増加させたが,国内臨床試験では他の製剤に比べ同等あるいは低下傾向が示されている。コクランレビューの解析に使用された4つのRCTのうち2つのRCTでプラセボ群の重篤感染症発症が0例であり,メタ解析に影響している可能性がある。
⑦増加させるとはいえない。 


  エビデンスサマリー
コクランレビューにおいては,セルトリズマブ(CTZ)に関するRCTは全部で5つ選ばれ,3つがCTZ/MTX併用とMTX療法の比較,2つがCTZ単剤療法とプラセボとの比較の合計2,394名のRA患者が対象(安全性評価では2,094名が対象)とされた。Risk of biasの評価では,5つのRCTすべてがlow risk of biasと判断された。

 疾患活動性制御については,このうちMTX抵抗性RAに対してCTZ/MTX併用療法をプラセボ/MTX療法と比較した2つのRCT合計965名にて承認用量であるCTZ200mg 2週ごとの治療開始24週後のACR50改善率をみてみると,CTZ群34.9%,プラセボ群5.8%で,CTZ群で有意に高く(RR(M-H,Fixed,95% CI)6.01(3.84~ 9 .40)),CTZ治療によりACR50改善を達成するNNTBは4であった。同様に,24週後における寛解(DAS28<2.6)達成率( 2 試験 957名で評価)も10.7 vs 1.3% で,CTZ群で有意に高く(Peto OR(Peto,Fixed,95% CI)3.88(2.33~6.45)),CTZ治療により寛解(DAS28<2.6)を達成するNNTBは4であり,CTZ治療による疾患活動性の有意な改善を認めた。

   関節破壊制御については,上記5つのRCTのなかで,MTX抵抗性RAに対してCTZ/MTX併用療法をプラセボ/ MTX療法と比較した2つのRCT(RAPID 1,2試験)合計859名にて承認用量であるCTZ 200mg 2週ごとの関節破壊進行抑制効果について検討が行われている。結果,CTZ群(CTZ+MTX)はプラセボ群(MTX)に比して24週時点において関節破壊進行を有意に抑制した(mTSSのベースラインからの変化のMD(IV,Fixed,95% CI)-1.06(-1.58~-0.55),erosion score のベースラインからの変化のMD(IV,Fixed,95%CI)-0.67(-0.96~-0.38))。同様に,52週時点(RAPID 1試験,合計545名)においてもCTZ群で有意な関節破壊進行抑制効果が示されている(mTSSのベースラインからの変化のMD(IV,Fixed,95% CI)-2.4(-3.68~-1.12),erosion scoreのベースラインからの変化のMD(IV,Fixed,95%CI)-1.4(-2.08~-0.72))。

   機能障害制御については,上記コクランレビューのうち,MTX抵抗性RAに対してCTZ/MTX併用療法をプラセボ/MTX療法と比較した2つのRCT(RAPID 1,2試験)合計965名にて承認用量であるCTZ 200mg 2週ごとの身体機能障害改善効果について検討が行われている。結果,CTZ群(CTZ+MTX)はプラセボ群(MTX)に比して24週時点において身体機能障害を有意に改善した(平均HAQ-DIのベースラインからの変化のMD(IV,Fixed,95% CI)-0.39(-0.45~-0.32))。同様に,52週時点(RAPID1試験,合計493名)においてもCTZ群で身体機能障害の有意な改善が示されている(平均HAQ-DI のベースラインからの変化のMD(IV,Fixed,95% CI)-0.42(-0.54~-0.30))。

   有害事象による薬剤中止については,上記コクランレビューにてすべての用量・期間をあわせて検討すると,副作用による薬剤中止(4つのRCT合計2,071名で検討)はCTZ群で高かったが(RR(M-H,Fixed,95%CI)2.17(1.15~4.10)),薬剤中止総数(5つのRCT合計2,107名で検討)はCTZ群がプラセボ群と比較して有意に低かった(RR(M-H,Fixed,95%CI)0.39(0.36~0.43))。これは効果不十分による薬剤中止(4つのRCT合計2,071名で検討)が有意にCTZ群で低かった(RR(M-H,Fixed,95% CI)0.29(0.26~0.33))ことによるものと考えられ,CTZの有効性が示されている。

   全有害事象および重篤な有害事象については,上記コクランレビューのうち,MTX抵抗性RAに対してCTZ/MTX併用療法をプラセボ/MTX 療法と比較した2つのRCT(RAPID 1,2試験)合計964名にて承認用量であるCTZ200mg 2週ごとの有害事象の総数について検討が行われている。結果,CTZ群(CTZ+MTX)ではプラセボ群(MTX)に比して有意に有害事象の総数が増加した(RR(M-H,Fixed,95% CI)1.21(1.08~1.35))。個々の副作用をみると,上気道炎(Peto OR(Peto,Fixed,95% CI)2.21(1.15~4.25)),鼻咽頭炎(2.71(1.30~5.66)),高血圧(2.81(1.38~5.75)),背部痛(2.91(1.11~7.65)),注射部位反応(4.59(1.38~15.32))などの副作用はCTZ群に有意に増加が認められた。また,重篤な有害事象についても,CTZ群(CTZ+MTX)ではプラセボ群(MTX)に比して有意に重篤な有害事象が増加した(Peto OR(Peto,Fixed, 95% CI)2.02(1.24~3.30))。個々の副作用では,重篤な感染症の増加(Peto OR(Peto,Fixed,95% CI)3.30(1.45~ 7.51))を認めるが,結核(4.53(0.71~29.11)),悪性リンパ腫を含む悪性腫瘍(1.85(0.50~6.93))の増加は認められ ず,死亡(1.85(0.29~11.86))の増加もみられなかった。
   また,2012年に発表されたbDMARD(生物学的製剤)の副作用について検討したコクランレビューでは, 6つの研究(合計2,421名の患者)を検討し,プラセボ群と比較してCTZ群の重篤な有害事象のORは1.57(95%CI 1.06~2.32)とリスク増加を認めた。

   感染症については,上記CTZのコクランレビューにて,MTX抵抗性RAに対してCTZ/MTX併用療法をプラセボ/MTX療法と比較した2つのRCT(RAPID 1,2試験)合計947名にて承認用量であるCTZ 200mg 2週ごとの全感染症について検討が行われている。結果,CTZ群(CTZ+ MTX)ではプラセボ群(MTX)に比して全感染症が増加した(RR(M-H,Fixed,95% CI)1.37(1.10~1.69))。同様に,重篤な感染症に関しては2つのRCT(RAPID 1,2試験)合計964名にて,プラセボ群と比較してCTZ 群で重篤な感染症の増加(Peto OR(Peto,Fixed,95% CI)3.30 (1.45~7.51))が認められた。個々の副作用では,上気道炎(Peto OR(Peto,Fixed,95% CI)2.21(1.15~4.25)),鼻咽頭炎(2.71(1.30~5.66))のリスク増加がみられたが,尿路感染症,下気道(肺を含む)感染症,ヘルペスウイルス感染症,結核感染,日和見感染症,死亡の増加は認められなかった。
   また,2012年に発表されたbDMARD(生物学的製剤)の副作用について検討したコクランレビューでは,4つの研究(合計1,683名の患者)を検討し,プラセボ群と比較してCTZ群の重篤な感染症のリスク増加(OR 4.75(95%CI 1.52~18.45))が認められた。
   以上より,コクランレビューでは,CTZ群がプラセボ群と比較して重篤な感染症が増加したが,これらコクランレビューの解析に用いられたCTZ臨床試験4試験中2試験(FAST 4 WARD,RAPID 2試験)でプラセボ群の重篤な感染症の発現が0例であり,メタ解析結果に非常に大きな影響を与えた。さらに,CTZの重篤な感染症の発現率は国内臨床試験で4.1%(20/493例),海外臨床試験で8.9%(211/2,367例)と他のTNF阻害薬と比較して同等あるいは低い傾向にあることを考えあわせると,今後の市販後調査の結果や長期試験の結果を確認する必要がある。

   死亡については,上記コクランレビューのMTX抵抗性RAに対してCTZ/MTX併用療法をプラセボ/MTX療法と比較した2 つのRCT(RAPID 1,2 試験)合計964名にて承認用量であるCTZ 200mg 2週ごとの死亡について検討が行われている。結果,CTZ群(CTZ+MTX)ではプラセボ群(MTX)に比して死亡の増加は認めなかった(Peto OR(Peto,Fixed,95% CI)1.85(0.29~11.86))。承認用量ではないが,CTZ 400mg 2週ごとの使用において4つのRCT合計1,422名の検討でもCTZ群の死亡増加は認められていない(Peto OR(Peto,Fixed,95% CI)2.16(0.40~11.79))。

   以上より,コクランレビューにおいて,CTZはMTX併用療法において,プラセボ群と比較し疾患活動性制御,関節破壊制御,機能障害制御のいずれに対しても明らかに良好な効果をもたらすことが示され,安全性においては有害事象による薬剤中止,全有害事象および重篤な有害事象,感染症が増加していたが,尿路感染症,下気道(肺を含む)感染症,ヘルペスウイルス感染症,結核感染,日和見感染症や悪性腫瘍,死亡のいずれも明らかに増加させるとはいえないことが示唆された。

   さらに,コクランレビューで選定された期間2010年1月以降に発表された文献についてもPubMedおよび医学中央雑誌を検索しそれぞれ8,21の研究がヒットした。いずれもコクランレビューで選択された文献のサブ解析または同様の結果を示す研究であり,上記結論は不変であった。
エビデンスの質
(GRADE)
high
該当するコクランレビュー あり
書誌情報1 Ruiz Garcia V,Jobanputra P,Burls A,Cabello JB,Galvez Munoz JG,Saiz Cuenca ESC,Fry-Smith A. Certolizumab pegol( CDP870) for rheumatoid arthritis in adults. Cochrane Database of Systematic Reviews 2011,Issue 2 .
DOI 10.1002/14651858.CD007649. pub 2
書誌情報2 Singh JA,Wells GA,Christensen R,Tanjong Ghogomu E,Maxwell L,MacDonald JK,Filippini G,Skoetz N,Francis DK,Lopes LC,Guyatt GH,Schmitt J,La Mantia L,Weberschock T,Roos JF,Siebert H,Hershan S,Cameron C,Lunn MPT,Tugwell P,Buchbinder R. Adverse effects of biologics:a network metaanalysis and Cochrane overview. Cochrane Database of Systematic Reviews 2011,Issue 2 .
DOI 10.1002/14651858.CD008794. pub 2

 
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