(旧版)関節リウマチ診療ガイドライン 2014
第2章 関節リウマチ診療ガイドライン2014 |
合併症・妊娠・授乳 2
CQ87 | 妊娠中のRA患者においてcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)やbDMARD(生物学的製剤)の投与は有効かつ安全か? | |
CQ88 | 授乳中のRA患者においてcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)やbDMARD(生物学的製剤)の投与は有効かつ安全か? | |
推奨37 | 妊娠・授乳中のRA患者に対するcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)やbDMARD(生物学的製剤)の投与は,リスクとベネフィットを考慮することを推奨する。 | |
推奨の強さ:強い 同意度:4.78 |
解説 CQ87
妊娠期間中にRAの疾患活動性が低下する例があるが,疾患活動性が上昇する症例では治療を考慮する必要がある。妊娠中のRA患者に対するbDMARD(生物学的製剤)の投与は少数例を対象とした臨床研究があるのみであり,十分なエビデンスがない。妊娠中のRA患者の薬剤投与の胎児への障害について,米国食品医薬品局(FDA)およびオーストラリア保健省薬品・医薬品行政局(TGA)の分類があるが,わが国の公式な基準はない。両国の分類で事実上禁忌となっている薬剤はMTXおよびレフルノミドである。ともに動物実験にて大量投与を行い催奇形性を認めている。特にMTXはヒトで催奇形性が確認されている。他のcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)も動物実験において胎盤通過性が確認されているが,そのなかでサラゾスルファピリジンは動物実験で催奇形性がなく,疫学研究でも胎児毒性は認められていない。bDMARD(生物学的製剤)のうち抗体製剤は胎盤通過性がある。エタネルセプト,セルトリズマブペゴルは胎児への移行がきわめて少ないことが動物実験および症例報告において示されているが,妊娠中の母体を対象とした大規模な介入試験は存在せず,有効性も妊娠中・非妊娠中での比較試験はない。したがってリスクとベネフィットを理解し治療方針を決定すべきである。なお,多くのエビデンスは欧米からのものであり日本人のリスク,ベネフィットに関する公式な記録・報告は存在せず,わが国の治療の根拠となる研究が望まれる。
解説 CQ88
出産後にRAの疾患活動性が増強し,治療を開始する必要がある場合には授乳に関して新生児への影響が懸念される。添付文書が示すように,わが国のbDMARD(生物学的製剤),csDMARD(従来型抗リウマチ薬)の有効性,安全性は確立していない。したがって授乳期のbDMARD(生物学的製剤)の投与は回避するのが望ましい。現状のエビデンスに基づき,患者の同意を得て,リスクと母乳栄養のメリットなどのベネフィットを勘案し治療を進めるべきである。
References 1
▶CQ作成時の基本となったシステマテックレビュー
1) | なし |
References 2
▶追加解析に用いた文献など
合併症・妊娠・授乳において残された課題
RAは合併症の多い疾患である。呼吸器疾患(間質性肺炎),循環器疾患(心不全,冠動脈疾患),腎機能障害,肝機能障害,内分泌代謝疾患(糖尿病),自己免疫疾患の6合併症のあるRA患者にcsDMARD(従来型抗リウマチ薬),bDMARD(生物学的製剤)の投与の有効性かつ安全性について文献検索を行い,現状におけるRA診療のエビデンスを示した。また妊娠・授乳に関する薬物療法についても有効性かつ安全性に関するエビデンスを検索した。しかし,合併症・周産期に関する薬物療法はRCTなどエビデンスレベルの高い介入研究はほとんどなく,大部分は観察研究のみである。またわが国からの報告はほとんどない。近年COMORA(COMOrbidities in Rheumatoid Arthritis)試験によるRA患者の合併症頻度に関する世界的な調査結果が報告されたが,合併症には人種差,地域差が多く,欧米からの報告をわが国に適応できない場合も存在する。したがって,今後わが国からの合併症を有するRA治療に関するエビデンスの構築が望まれる。
以上より,推奨文として「合併症を有するRA患者に対するcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)やbDMARD(生物学的製剤)の投与は,リスクとベネフィットを考慮することを推奨する」とした。合併症については精神疾患,感染症,骨粗鬆症,悪性腫瘍などにつき検索の必要があるが,エビデンスが十分ではなくCQとして提示しなかった。将来,悪性腫瘍の既往,感染症の合併あるいは予防接種,骨粗鬆症を有するRAなどについても治療の有効性,安全性のエビデンスについて検討される必要がある。
以上より,推奨文として「合併症を有するRA患者に対するcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)やbDMARD(生物学的製剤)の投与は,リスクとベネフィットを考慮することを推奨する」とした。合併症については精神疾患,感染症,骨粗鬆症,悪性腫瘍などにつき検索の必要があるが,エビデンスが十分ではなくCQとして提示しなかった。将来,悪性腫瘍の既往,感染症の合併あるいは予防接種,骨粗鬆症を有するRAなどについても治療の有効性,安全性のエビデンスについて検討される必要がある。
References