(旧版)関節リウマチ診療ガイドライン 2014

 
第2章 関節リウマチ診療ガイドライン2014

手術 10
CQ76 bDMARD(生物学的製剤)投与は,RA患者の整形外科手術において創傷治癒遅延を増やすか?

推奨31 bDMARD(生物学的製剤)投与下における整形外科手術では創傷治癒遅延に注意することを推奨する。
推奨の強さ:弱い 同意度:4.59

解説 CQ76

 創傷治癒のメカニズムの研究から,サイトカインは創傷治癒に重要であることがわかっており,bDMARD(生物学的製剤)の登場以降,bDMARD(生物学的製剤(特にサイトカイン阻害薬))の投与により,創傷治癒遅延が増加するのではないかとの危惧がある。しかし,これまでこの点について報告した論文は少ない。今回の文献渉猟により,bDMARD(生物学的製剤)投与は,RA患者の整形外科手術において,創傷治癒遅延の発生率を増加させるとのエビデンスは得られなかった。しかし,いずれの報告も手術件数自体が少ないため十分なエビデンスがあるとはいえず,また創傷治癒遅延と表層感染との区別に曖昧さがあることから,発生率の扱いには留意が必要である。また対照群のない報告で,日常診療でみられるよりも多いと考えられる創傷治癒遅延発生率を報告している論文があり,創傷治癒遅延の発生には一定の注意を払う必要があると考えられる。

References 1 
▶CQ作成時の基本となったシステマティックレビュー
1) なし
References 2 
▶追加解析に用いた文献など
1) Bibbo C, Goldberg JW. Infectious and healing complications after elective orthopaedic foot and ankle surgery during tumor necrosis factor-alpha inhibition therapy. Foot Ankle Int. 2004 May;25 (5):331-335.
2) den Broeder AA, Creemers MC, Fransen J, de Jong E, de Rooij DJ, Wymenga A, de Waal-Malefijt M, van den Hoogen FH. Risk factors for surgical site infections and other complications in elective surgery in patients with rheumatoid arthritis with special attention for antitumor necrosis factor;A large retrospective study. J Rheumatol. 2007 Apr;34 (4):689-695.
3) Hirao M, Hashimoto J, Tsuboi H, Nampei A, Nakahara H, Yoshio N, Mima T, Yoshikawa H, Nishimoto N. Laboratory and febrile features after joint surgery in patients with rheumatoid arthritis treated with tocilizumab. Ann Rheum Dis. 2009 May;68 (5):654-657.
4) Hirano Y, Kojima T, Kanayama Y, Shioura T, Hayashi M, Kida D, Kaneko A, Eto Y, Ishiguro N. Influences of anti-tumour necrosis factor agents on postoperative recovery in patients with rheumatoid arthritis. Clin Rheumatol. 2010 May;29 (5):495-500.
5) Kubota A, Nakamura T, Miyazaki Y, Sekiguchi M, Suguro T. Perioperative complications in elective surgery in patients with rheumatoid arthritis treated with biologics. Mod Rheumatol. 2012 Nov;22 (6):844-848.
6) Momohara S, Hashimoto J, Tsuboi H, Miyahara H, Nakagawa N, Kaneko A, Kondo N, Matsuno H, Wada T, Nonaka T, Kanbe K, Takagi H, Murasawa A, Matsubara T, Suguro T. Analysis of perioperative clinical features and complications after orthopaedic surgery in rheumatoid arthritis patients treated with tocilizumab in a real-world setting;Results from the multicentre TOcilizumab in Perioperative Period (TOPP) study. Mod Rheumatol. 2013 May;23 (3):440-449.

  整形外科的治療において残された課題
本ガイドラインは,わが国ではじめてGRADEシステムを用いて作成を行った。そのため,透明性,公平性,多面性をもったガイドラインを作成することができた。特にbDMARD(生物学的製剤)の登場以来大きな課題であった,bDMARD(生物学的製剤)投与患者において外科的治療の合併症は増えるのかというCQに対し,一定の見解を提示することができた。しかし,これについても最終的な結論が出たとはいえず,それぞれのCQに記載したように,提言の取り扱いには十分な理解と注意を要する。
   一方,RAにおける整形外科的治療の効果についても,人工関節全置換術を中心にエビデンスをまとめる努力を最大限行い,一定の提言を得た。しかしエビデンスの多寡,RA治療全体からみた治療数の多寡や重要性から,それぞれの治療法の重要性に疑問の余地はないにもかかわらず,本ガイドラインでは触れることができなかったCQがある。特に整形外科的治療法は,RCTなどの研究手法からみたエビデンスに乏しく,また治療法が非常に多岐・広範にわたっているため,すべての治療法には触れることができていない。以下にその代表的な整形外科的治療法を列挙し,現状を概括する。
   関節滑膜切除術は,これまで長期にわたってその有効性と効果が示されてきた治療法である。しかし,薬物療法の進歩によってその手術数は激減している。限られた患者ないし病状に対して行われている現状において,どのような症例にいつ手術をするとその効果が最大化されるのか,新たなエビデンス作りが求められる。
   足趾形成術は,特にわが国において,歴史的に多く行われてきた切除関節形成術から,関節温存手術への移行が積極的に行われている。一方,切除関節形成術の有効性と確実性は歴史が示している。また第1中足趾節(metatarsophalangeal;MTP)関節に対しては人工関節全置換術や関節固定術も行われている。いずれの手術をどのような患者に対して行うべきかについて,明確に示したエビデンスはほとんどない。全身的な機能や健康状態への影響を含めて,今後の報告を待ちたい。
   頸椎はRAにおいて変形,障害が頻発する解剖学的部位であることに異論はない。また,脊髄障害によって,日常生活機能や,場合によって生命にも重大な危険が及ぶことは十分知られている。一方,近年の薬物療法の進歩によって,罹患率や変形の進行速度が減じたとの報告も散見されるようになり,また近年インプラントの進歩によって確実性・安全性が高まり,手術法にも大きな変化がみられる。そのような現状から,今回はガイドラインへの収載を見送ることとなった。しかしその重要性は十分な合意が得られており,またリウマチ専門医が常に注意を払うべきとの啓発の意味もこめて,次回の改訂ではガイドラインへの収載を期待したい。
   手関節,手指の手術は,同部位の変形が頻発し,また機能障害や整容面に対する影響が大きいことから,その重要性は高い。代表的な手術法として,①人工指関節,②手関節形成術88(各種部分固定術を含む),③手指断裂腱再建術,④手指関節(特に母指interphalangeal(IP)関節)固定術がある。いずも,その効果が顕著で手術件数も比較的多いものであるが,たくさんの関節部位を同時に扱うことが多いことから手術適応が明確とはいえず,手術法が多種多様で一律に論じるのに難があること,また特に全身機能や疾患活動性などに対するエビデンスが乏しく,RA治療全体のガイドラインに収載するには現時点では適切ではないと判断したことにより,今回は収載を見送った。しかしその重要性に異論はなく,今後発展していくであろうし,大きく発展すべき治療分野と考えられる。
   今回収載できたCQであっても,エビデンスの量や質の問題から,検討内容が十分とはいえないものもある。また薬物療法の進歩で適応に変化がみられたり,手術法やインプラントの進歩によって,結果(長期成績や合併症)に変化がみられつつある手術もある。人工膝関節全置換術を除けば,手術件数はいずれも多くなく,有用なエビデンスを供出するために,今後さらにレジストリデータや多施設共同研究の重要性が高まると思われる。パラダイムシフトと呼ばれる薬物療法の目覚ましい発展を経験し,その評価が定まりつつある現在においても,整形外科的治療の重要性は,決して減ずることはない。患者視点や医療経済学的観点からの治療評価なども次々と取り入れられつつある現在のRA医療において,現在の治療体系,医療環境に応じた整形外科手術のあり方,位置付けに対して,まだわれわれがなすべきことは山積している。わが国のリウマチ専門医から,今後も精力的情報発信が行われることを大きく期待したい。


 
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