有効性評価に基づく前立腺がん検診ガイドライン
III.方法
6. 検診方法別の評価
がん検診の死亡率減少効果については、検診方法別の直接的証拠及び間接的証拠を統合し、その結果に基づき証拠のレベルを判定した。ただし、間接的証拠は、原則として証拠のレベル判定に影響を与えることはなく、直接的証拠のある検診方法との比較検討が可能な場合のみ、証拠のレベル判定への影響を検討した。
証拠のレベルは、研究方法及び研究の質から、8段階に分類される(表2)。がん検診による死亡率減少効果の直接的証拠となる研究方法としては、無作為化比較対照試験が最も信頼性が高く、コホート研究や症例対照研究は次善の方法となる。その他の研究としては、横断的研究や発見率・生存率などの研究が該当するが、これらの研究は、重要な情報であっても、単独では有効性評価の根拠とはならない。
がん検診の不利益は、一般に、偽陰性、偽陽性、過剰診断、精密検査の偶発症、手術後の合併症、受診者の心理的・身体的負担などが該当する。これらの不利益のうち、前立腺がん検診で問題となるのは、過剰診断、精密検査(生検)の偶発症、治療による合併症である。これらについて可能な限り、わが国における報告の数値を採用するが、適切な報告のない場合には諸外国の報告を代替とする。また、過剰診断は直接的な測定は困難であることから、モデルによる推定値を採用する。
表2 証拠のレベル
証拠レベル | 主たる研究方法 | 内容 |
1++ | 無作為化比較対照試験 | 死亡率減少効果について一致性を認める、質の高い無作為化比較対照試験が複数行われている |
系統的総括 | 死亡率減少効果の有無を示す、質の高いメタ・アナリシス等の系統的総括が行われている | |
1+ | 無作為化比較対照試験 | 死亡率減少効果について一致性を認める、中等度の質の無作為化比較対照試験が複数行われている |
系統的総括 | 死亡率減少効果の有無を示す、中等度の質のメタ・アナリシス等の系統的総括が行われている | |
AF組み合わせ | Analytic Frameworkの重要な段階において無作為化比較対照試験が行われており、2++以上の症例対照研究・コホート研究が行われ、死亡率減少効果が示唆される | |
1- | 無作為化比較対照試験 | 死亡率減少効果に関する質の低い無作為化比較対照試験が行われている |
系統的総括 | 死亡率減少効果の有無を示す、質の低いメタ・アナリシス等の系統的総括が行われている | |
2++ | 症例対照研究/コホート研究 | 死亡率減少効果について一致性を認める、質の高い症例対照研究・コホート研究が複数行われている |
2+ | 症例対照研究/コホート研究 | 死亡率減少効果について一致性を認める、中等度の質の症例対照研究・コホート研究が複数行われている |
地域相関研究/時系列研究 | 死亡率減少効果について一致性を認める、質の高い地域相関研究・時系列研究が複数行われている | |
AF組み合わせ | 死亡率減少効果の有無を示す直接的な証拠はないが、Analytic Frameworkの重要な段階において無作為化比較対照試験が行われており、一連の研究の組み合わせにより死亡率減少効果が示唆される | |
2- | 症例対照研究/コホート研究 | 死亡率減少効果の有無を示す、質の低い症例対照研究・コホート研究が行われている |
地域相関研究/時系列研究 | 死亡率減少効果について同様の結果を示す、中等度の質以下の地域相関研究・時系列研究が行われている | |
AF組み合わせ | 死亡率減少効果の有無を示す直接的な証拠はないが、Analytic Frameworkを構成する複数の研究がある | |
3 | その他の研究 | 横断的な研究、発見率の報告、症例報告など、散発的な報告のみでAnalytic Frameworkを構成する評価が不可能である |
4 | 専門家の意見 | 専門家の意見 |
AF:Analytic Framework | |
注1) | 研究の質については、以下のように定義する。 質の高い研究:バイアスや交絡因子の制御が十分配慮されている研究。 中等度の質の研究:バイアスや交絡因子の制御が相応に配慮されている研究。 質の低い研究:バイアスや交絡因子の制御が不十分である研究。 |
注2) | 系統的総括について、質の高い研究とされるものは無作為化比較対照試験のみを対象とした研究に限定される。 無作為化比較対照試験以外の研究(症例対照研究など)を含んだ系統的総括の研究の質は、中等度以下と判定する。 |
注3) | 各検診方法を評価するための研究において、死亡率減少効果について一致性を認められない場合には、証拠のレベルを下げることを考慮する。 |
【参照】
「VI.考察 3.推奨決定に至る論点」