(旧版)科学的根拠に基づく「快適な妊娠出産のためのガイドライン」
Research Question
RQ8 バルサルバ法でいきみを誘導する事
研究の内容
文献名 | 研究デザイン | 簡単なサマリー | EL |
島田三恵子, 中山香映, 嶋野仁美, 安達久美子, 舛森とも子, 中根直子, 赤山美智代, 村上睦子, 杉本充弘. 分娩時の努責が母児の健康に与える影響. 母性衛生. 2001; 42(1): 68-73. | 観察研究 | 分娩第2期の努責の長さと母児の生理学的指標との関連を検討して、努責が母児の健康に与える影響の有無を検討した。 対象:妊娠経過が正常で正期産で経膣分娩した産婦134名 方法:分娩第2期の努責時間及び母児の生理学的指標を測定し比較した。 その結果、15秒以上努責すると努責時間の長さとSO2(経皮的酸素飽和濃度)とが有意な正の相関があり、分娩第2期での15秒以上の努責は母体に低酸素状態をもたらすことが明らかにされた。胎児への影響は努責時間と遅発性一過性徐脈の発現には関連があった。 |
2+ |
Bloom SL, Casey BM, Schaffer JI, McIntire DD, Leveno KJ. A randomized trial of coached versus uncoached maternal pushing during the second stage of labor. Am J Obstet Gynecol. 2006; 194(1): 10-3. | RCT | 分娩第2期の努責について、コーチングを行う場合と行わない場合について比較を行った。 対象:合併症のない正期産、単胎・頭位の初産婦320名。 方法:子宮口全開大時に介入群と対照群に無作為に割り当てた。努責をコーチされる群の初産婦(n=163)は、標準化された陣痛時に声門を閉じて10秒間努責する方法(バルサルバ法)をコーチされ、間歇時に普通に呼吸するよう勧められた。 結果:コーチングを受けない初産婦(n=157)は、同じグループの努責の指導しない助産師がついた。そして、「自然(自由)にする」ことを勧められた。分娩第2期の持続時間は、明らかにコーチングを受けた群の方がコーチングを受けなかった群より短かった(コーチング群46分、非コーチング群59分、p=0.014)。その他の母体や新生児への状態には差はなかった。 結論:バルサルバ法努責は分娩第2期を短縮させ、10秒以内の努責なら産科的には有害ではないと示唆された。 |
1++ |
Schaffer JI, Bloom SL, Casey BM, McIntire DD, Nihira MA, Leveno KJ. A randomized trial of the effects of coached vs uncoached maternal pushing during the second stage of labor on postpartum pelvic floor structure and function. Am J Obstet Gynecol. 2005; 192(5):1692-6. | RCT | 分娩第2期に努責をコーチすることを控えることによって、骨盤底の構造や機能における産褥期の泌尿器・婦人科的な指標への影響が抑えられることを導いた。 対象:正常経過・単胎頭位・正期産の初産婦128名。 方法:子宮口全開大の時点で無作為化し、コーチング群か非コーチング群に割り当てた。コーチングされる群の初産婦(n=67)は、陣痛時にバルサルバ法で10秒間努責する方法をコーチされ、間歇時に深呼吸するよう勧められた。コーチングを受けない初産婦(n=61)は「自然(自由)にする」ことを勧められた。骨盤底のアセスメントは産褥3か月時点で、泌尿器専門看護師によって盲検法により実施された。 結果:2群には属性、第2期分娩遷延(2時間以上)の割合、会陰切開、第III・IV度会陰裂傷、硬膜外麻酔、鉗子分娩、オキシトシン陣痛促進に、差はなかった。尿流動態検査(尿力学的検査)によって、コーチングを受けた群の方が膀胱の容量が少ないこと(p=0.051)、最初の尿意が減少していたこと(p=0.025)を明らかにした。それ以外の指標に明らかな差はなかった。 結論:10秒間のバルサルバ法は膀胱容量を低下させる影響が示された。分娩遷延や胎児機能不全のような特別の適応に限定すべきである。 |
1++ |
Simpson KR, James DC. Effects of immediate versus delayed pushing during second-stage labor on fetal well-being: a randomized clinical trial. Nurs Res. 2005; 54(3): 149-57. | RCT | 無痛分娩をする正常経過の正期産、単胎頭位の初産婦45名を対象として、子宮口が8cm開大頃から30分おきに内診し子宮口全開大時に、いきむ群22名と遅れていきむ群23名に無作為に割付けた。 <直ぐにいきむ群>全開大から児娩出まで、息を止めて10秒間いきむようコーチし、いきむ時は毎回看護師が少なくとも10秒間いきめるよう数を数えた(バルサルバ法)。 <遅れていきむ群>全開大後いきみたくなるまで、最大2時間、左側臥位にし、産婦がいきみたくなったら、声門を開けたまま、1回6から8秒以内、一回の陣痛に3回までいきむようにコーチした。 背景(妊娠週数、身長、妊娠中の体重増加、分娩第2期までのオキシトシンの投与量)は2群に差はなかった。 胎児の酸素不飽和度は直ぐにいきんだ群の方が高く(p=0.001)、2分以上のFSpO2<30%下降回数(p=0.02)、変動一過性徐脈の回数(p=0.02)、持続性徐脈の回数(p=0.05)が直ぐにいきむ群に有意に多かった。その他の胎児心拍のパターンや臍帯血ガス、アプガースコアには有意な差はなかった。 分娩第2期の所要時間は直ぐにいきんだ群の方が有意に短かった(p=0.01)が、いきんでいる時間はすぐにいきんだ群の方が有意に長かった(p=0.02)。合計分娩所要時間には有意な差はなかった。会陰裂傷(p=0.01)が直ぐにいきむ群に有意に多かった。その他、帝王切開率、機械的分娩、分娩第2期遷延、会陰切開率には有意な差はなかった。 |
1+ |
Roberts CL, Torvaldsen S, Cameron CA, Olive E. Delayed versus early pushing in women with epidural analgesia: a systematic review and meta-analysis. BJOG. 2004; 111(12): 1333-40. | システマティックレビュー、メタ分析 | 正常妊娠経過で且つ分娩第1期から硬膜外麻酔中の産婦における、子宮口全開大後、更に「遅くいきむ事」(第2期において努責を開始する時期)に関する潜在的な利点と問題を、比較すること。2003年10月迄のMEDLINE, EMBASE, CINAHL, Cochrane central register of controlled trialsの中から、第1期から硬膜外麻酔中の産婦におけるdelayed pushingに関するRCT採択基準とした。2人のレビューアーが独立して採択文献を査定し、ITT分析を行った。分娩第2期のいきみ開始時期について厳密にRCTを行っている研究は9つだけであった。 「遅くいきみ始める」方が「早くいきみ始める」方法よりも、回旋鉗子・中位鉗子が有意に少ないが、帝王切開は有意差はない。分娩第2期の所要時間は「遅くいきみ始める」方が約1時間長いが、努責開始後娩出までの時間は短い傾向がある。他の母体指標の検討は不十分。 新生児のアプガースコア、蘇生、臍帯血NICUへの入院、新生児外傷、新生児死亡は有意な差はないが、4文献のみで胎児新生児のアウトカムの検討としては十分とは言えない。 全てバルサルバ法によっていきむ、努責時期の違いによる検証である。 |
1+ |
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