(旧版)高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第2版

 
 
第1章 高尿酸血症・痛風の最近のトレンドとリスク


3. 高尿酸血症のリスク

1)痛風関節炎・痛風結節

●ステートメント
血清尿酸値が7.0mg/dLを超えると,高くなるに従って痛風関節炎の発症リスクがより高まる。
エビデンス2a推奨度A

高尿酸血症の期間が長く,また高度であるほど,痛風結節はできやすい。
エビデンス3推奨度C

アルコール摂取量は痛風発症リスクを用量依存的に上昇させる。肉類・砂糖入りソフトドリンク・果糖の摂取量が多い集団,BMIの高い集団は痛風になりやすい。
エビデンス2a推奨度B

コーヒー摂取量が多い,ランニング距離が長い,適度な運動を日常的に行う集団は痛風になりにくい。
エビデンス2a推奨度B



高尿酸血症が持続して尿酸塩結晶が沈着した結果として起こる病態として,痛風関節炎・痛風結節がある。しかしながら,高尿酸血症から痛風関節炎や痛風結節の発症を前向きに追跡した研究は少ない。

1 痛風関節炎の発症リスク
米国では,1987年にCampionら1)が2,046人の健常男性を対象に14.9年間の前向きコホート研究を行っている。その結果,血清尿酸値の前値が6.0mg/dL未満では,痛風関節炎の5年間累積発症率は0.5%,6.0〜6.9mg/dLで0.6%,7.0〜7.9mg/dLで2.0%,8.0〜8.9mg/dLで4.1%,9.0〜9.9mg/dLで19.8%,10.0mg/dL以上では30.5%であった(図11)。台湾では2000年にLinら2)が223人の無症候性高尿酸血症男性を対象に5年間の前向きコホート研究を行っている。その結果,血清尿酸値の前値が7.0〜7.9mg/dLでは痛風関節炎の5年間累積発症率は10.8%,8.0〜8.9mg/dLで27.7%,9.0mg/dL以上では61.1%であった(図22)
日本では成人男性における高尿酸血症の頻度は20〜25%,痛風の有病率は約1%と報告されている3)。高尿酸血症の頻度や痛風有病率が近年劇的に変化したとは考えられず,したがって,高尿酸血症で痛風関節炎を発症するのは,そのうちの一部と考えられる。高尿酸血症の集団を実際に追跡調査して痛風関節炎がどの程度生じるかをみた検討は日本においては行われていない。報告によってあるいは人種によって発症頻度に違いが認められるが,血清尿酸値が高くなるに従って痛風関節炎の発症リスクがより高まることは共通している。繰り返す痛風関節炎の頻度は血清尿酸値の高さと持続期間に依存する(図34)。また,痛風の既往のある集団では術後8日以内に痛風関節炎が起こることがあり,しばしば感染と間違われ,入院期間の延長につながるので注意が必要である5)

図1 高尿酸血症から痛風関節炎を発症するリスク(米国)
図1 高尿酸血症から痛風関節炎を発症するリスク(米国)
文献1を元に作成)

図2 高尿酸血症から痛風関節炎を発症するリスク(台湾)
図2 高尿酸血症から痛風関節炎を発症するリスク(台湾)
文献2を元に作成)

図3 血清尿酸値が痛風関節炎発症に与える影響
図3 血清尿酸値が痛風関節炎発症に与える影響
血清尿酸値を低く維持するほど痛風関節炎の発症頻度は低下する。
文献4より引用)

2 痛風結節の発症リスク
高尿酸血症から痛風結節の発症を前向きに追跡した研究はみあたらない。高尿酸血症の期間が長く,また高度であるほど,痛風結節はできやすいと考えられている。したがって,古い時代のデータほど痛風結節の発症頻度は高い傾向がある6)。尿酸降下薬が登場する以前は,50〜70%の痛風患者に,肉眼で痛風結節が確認できた。血清尿酸値が11.0mg/dL以上の痛風患者では約70%に痛風結節がみられ,そのうち約半数に多発性痛風結節がみられた。痛風結節は温度が低く,血流が乏しく,力学的刺激を受けやすい部位にみられることが多い。さまざまな組織や解剖学的部位での存在の報告がある。脳での報告例がない他は体のどこにでもできる可能性があるといっても過言ではない。指腹部の痛風結節は稀なものではなく,慢性結節性痛風患者の実に30.5%にみられるといわれている7)。痛風結節を疑って内容物を採取できれば,顕微鏡で尿酸塩結晶をみつけられることが多い。まず,その患者の軟部腫瘤が痛風結節であることを想起することが大切である。

3 生活習慣と痛風
米国で2004年にChoiら8)は4万7,150人の痛風の既往のない男性を対象に12年間の前向きコホート研究を行った。その結果,730人が痛風を発症したが,肉類摂取量が多い集団は少ない集団より痛風発症リスクが1.4倍高く(P<0.02),魚介類摂取量が多い集団は少ない集団より痛風発症リスクが1.5倍高く(P<0.02),乳製品摂取量が多い集団は少ない集団より痛風発症リスクが0.6倍と低く(P<0.001),プリン体含有量の多い野菜の摂取では関係は認められなかった(図48)。同じコホート研究の解析で,アルコール摂取量が多い集団ほど痛風発症リスクが高く(P<0.0001)(図59),ビールやスピリッツは痛風発症リスクがそれぞれ1.5倍,1.2倍高かったが,ワインでは関係は認められなかった(図69)
同じくChoiら10)は,米国で2007年に4万5,869人の痛風の既往のない男性を対象に12年間の前向きコホート研究を行っている。その結果,757人が痛風を発症したが,コーヒーを飲まない集団に比べてコーヒーの摂取量が1日に1杯未満,1〜3杯,4〜5杯,6杯以上飲む集団は痛風発症リスクがそれぞれ1.0倍,0.9倍,0.6倍,0.4倍と低かった(P<0.009)(図710)。カフェイン抜きコーヒー摂取でも痛風発症リスクは低かったが,総カフェイン量や茶摂取と痛風発症リスクに関連は認められなかった。
Choiら11)は2008年にも米国で4万6,393人の痛風の既往のない男性を対象に12年間の前向きコホート研究を行っている。その結果,755人が痛風を発症したが,砂糖入りソフトドリンクの摂取量が1ヵ月に1回未満の集団に比べて1週間に5〜6回飲む集団,1日に1回飲む集団,1日に2回以上飲む集団は痛風発症リスクがそれぞれ1.3倍,1.5倍,1.9倍高かった(P<0.002)(図811)。ダイエットソフトドリンクと痛風リスクに関連は認められなかった。また,果糖摂取量が多い集団ほど痛風発症リスクが高く(P<0.001),果物ジュースや果糖豊富な果物(リンゴやオレンジ等)などの果糖摂取の主な寄与因子も痛風発症リスク上昇と関連した(P<0.05)。
またWilliams12)は,米国で2008年に2万8,990人の男性を対象に7.7年間の前向きコホート研究を行っている。その結果,アルコール摂取集団,肉類摂取集団,BMIの高い集団は痛風発症リスクがそれぞれ1.2倍,1.5倍,1.2倍高く,果物摂取集団,ランニング距離が長い集団や適度な運動をする集団は痛風発症リスクがそれぞれ0.7倍,0.9倍,0.6倍低かった(図912)

図4 食品と痛風発症の関係
図4 食品と痛風発症の関係
肉類・魚介類の摂取が多いと痛風発症リスクが増える。
文献8を元に作成)

図5 アルコール摂取量と痛風発症の関係
図5 アルコール摂取量と痛風発症の関係
アルコール摂取量が多いほど痛風発症リスクは増える。
文献9を元に作成)

図6 アルコールの種類と痛風発症の関係
図6 アルコールの種類と痛風発症の関係
ビールは痛風発症を最も増やす。
文献9を元に作成)

図7 コーヒー摂取量と痛風発症の関係
図7 コーヒー摂取量と痛風発症の関係
コーヒー摂取量が多いほど痛風発症リスクは減る。
文献10を元に作成)

図8 砂糖入りソフトドリンク摂取量と痛風発症の関係
図8 砂糖入りソフトドリンク摂取量と痛風発症の関係
砂糖入りソフトドリンク摂取量が多いほど痛風発症リスクは増える。
文献11を元に作成)

図9 痛風発症リスクの比較
図9 痛風発症リスクの比較
ランニング距離が長い集団や適度な運動をする集団では痛風発症リスクは減る。
文献12を元に作成)


文献
1) Campion EW, Glynn RJ, DeLabry LO: Asymptomatic hyperuricemia; Risks and consequences in the Normative Aging Study. Am J Med 82 :421-426,1987 エビデンス2[MN追加]
2) Lin KC, Lin HY, Chou P: The interaction between uric acid level and other risk factors on the development of gout among asymptomatic hyperuricemic men in a prospective study. J Rheumatol 27: 1501-1505,2000 エビデンス2 [MN追加]
3) 川崎拓,七川歓次:住民検診による痛風の疫学調査.痛風と核酸代謝30:66,2006 エビデンス3 [MN追加]
4) Shoji A, Yamanaka H, Kamatani N: A retrospective study of the relationship between serum urate level and recurrent attacks of gouty arthritis; Evidence for reduction of recurrent gouty arthritis with antihyperuricemic therapy. Arthritis Rheum 51: 321-325,2004 エビデンス3[MN追加]
5) Kang EH, Lee EY, Lee YJ, et al: Clinical features and risk factors of postsurgical gout. Ann Rheum Dis 67 :1271-1275,2008 エビデンス4
6) Yu T, Yu TF: Milestones in the treatment of gout. Am J Med 56: 676-685,1974 エビデンス4[MN追加]
7) Holland NW, Jost D, Beutler A, et al: Finger pad tophi in gout. J Rheumatol 23: 690-692,1996 エビデンス4 [MN追加]
8) Choi HK, Atkinson K, Karlson EW, et al: Purine-rich foods, dairy and protein intake, and the risk of gout in men. N Engl J Med 350: 1093-1103,2004 エビデンス2[MN追加]
9) Choi HK, Atkinson K, Karlson EW, et al: Alcohol intake and risk of incident gout in men; A prospective study. Lancet 363: 1277-1281,2004 エビデンス2[MN追加]
10) Choi HK, Willett W, Curhan G : Coffee consumption and risk of incident gout in men; A prospective study. Arthritis Rheum 56: 2049-2055,2007 エビデンス2[MN追加]
11) Choi HK, Curhan G: Soft drinks, fructose consumption, and the risk of gout in men; Prospective cohort study. BMJ 336: 309-312,2008 エビデンス2[MN追加]
12) Williams PT: Effects of diet, physical activity and performance, and body weight on incident gout in ostensibly healthy, vigorously active men. Am J Clin Nutr 87: 1480-1487,2008 エビデンス2[MN追加]


 

 
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