(旧版)不整脈の非薬物治療ガイドライン(2006年改訂版)
V.植込み型除細動器 |
(4)特定疾患
先天性QT延長症候群
Class I:
- 心停止蘇生例,または心室細動が臨床的に確認されている場合
- β遮断薬などの治療法が無効な再発性の失神を有し,かつtorsades de pointesが確認されるか,または突然死の家族歴を有する場合
- β遮断薬などの治療法が無効な再発性の失神を有する場合
QT延長症候群では,torsades de pointesがコントロールされれば長期予後は良好である.その治療法としては,β遮断薬,恒久的ぺ一シング,左側頸胸交感神経節切除が有効であることが多い310).QT延長症候群の登録調査によると,死亡率は0.9〜2.6%/年である310,311,312).これらの登録調査では突然死はQT延長が著しく,若年者で,β遮断薬を服用していない者に多いと報告されている.しかし,β遮断薬を服用していても9%に突然死がある310,312).また,QT延長症候群の25%はβ遮断薬服用中にも失神が出現しており,β遮断薬投与中にも失神のみられる症例は突然死のハイリスク患者である.このハイリスク患者に対する左側頸胸交感神経節切除,ペーシングは突然死を減少させる.
現在のところ,QT延長症候群に対する植込み型除細動器植込みの長期観察データは極めて少ない.1994年の報告では,植込み型除細動器患者200例中ハイリスクのQT延長症候群に対する植込みは2例(1%)に過ぎず249),1993年のSilkaら313)の報告では125例の小児に対する植込み型除細動器のうち14例(11%)であり,8例(57%)に作動がみられている.1996年Grohら314)は35例の分析を行っているが,適応はtorsades de pointesが記録されている失神例,QT延長症候群の家族歴を有する初回発作が突然死であったハイリスク患者である.31ヶ月の観察で作動は60%にみられ,突然死はみられなかった.
QT延長症候群に対する植込み型除細動器は,β遮断薬などの治療に抵抗性の再発性の失神や突然死蘇生例が適応となる314,315,316).特に,蘇生された心臓突然死がQT延長症候群の最初の発症である場合,心臓突然死の家族歴がある場合,あるいは薬剤服用の遵守または薬剤不耐性が問題となる場合などには一次療法としての植込み型除細動器の使用を考慮すべきである314).しかし,植込み型除細動器は対症療法に過ぎず,植込み後の頻回作動により精神障害を来すこともあり,特に小児ではその適応は慎重にすべきである316).近年,植込み型除細動器のサイズの縮小により小児のQT延長症候群に対しても使用可能となり,また,植込み型除細動器のアルゴリズムの進歩により,失神を来さない一過性のtorsades de pointesに対して植込み型除細動器を作動させないようにな設定が可能となり,今後,QT延長症候群に対する植込み型除細動器の適応は拡大すると考えられる.しかし,QT延長症候群における突然死の頻度はそれ程高くないこと,遺伝子診断による重症度評価はまだ確立されていないことより,現段階では症状のないQT延長症候群に対する植込み型除細動器の予防的植込みを妥当とするデータはない307).