(旧版)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン
VI 続発性骨粗鬆症 |
B.ステロイド性骨粗鬆症
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ステロイド性骨粗鬆症への対応の重要性が認識されたのは,1996年の米国リウマチ学会の調査が契機となった。全米の骨粗鬆症患者2,000万人のうち,20%(400万人)がステロイドによるものであり,ステロイド長期投与患者の25%が骨折するという惨状が明らかになったからである。2000年にはイギリスでの調査が報告され,成人総人口の0.9%(約41万人)がステロイドを服用中であった。日本での実態は不明であるが,ステロイドの長期投与の対象となる疾患数は40〜100万人と推定される。このような背景のもと,欧米では1996年より管理ガイドラインが発表され486),2002年までにその改訂もなされた449),487),488),489),490)。わが国では日本骨代謝学会の「ステロイド性骨粗鬆症診断基準検討小委員会」(以下,検討小委員会)において,2004年にわが国初の「ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン」が策定された491)。
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治療の開始基準
図26に示すように経口ステロイドを3ヵ月以上使用中または使用予定で,脆弱性骨折,骨密度YAM80%未満,プレドニゾロン換算5mg/日以上,いずれかの場合は治療を開始する。
治療法
ビスフォスフォネート製剤を第1選択薬とし,活性型ビタミンD3製剤,ビタミンK2製剤を第2選択薬とする。
図26 ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン注1) (2004年度版)(文献491 より引用) |
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本ガイドラインは検討小委員会の関連施設にて集計された692例の症例(女性627例,男性65例)の解析結果に,ステロイド投与例220例の2年間の追跡調査の解析結果492)を加えて策定が行われた。わが国で得られたエビデンスに基づいた策定を基本とし,ないものについては海外のものが参考にされた。
対象
本ガイドラインでは対象を18歳以上の男女とした。小児例や静注ステロイドなどについてはエビデンスがないため対象外とされ,エビデンスのある経口ステロイド服用者のみを対象とした。投与期間についてはわが国でのエビデンスはないが,諸外国の最近のガイドライン449),486),487),488)では3ヵ月以上投与される場合を治療の対象としていることや,海外のメタアナリシスにて経口ステロイド使用開始後3〜6ヵ月で新規椎体骨折発生率は最大となり以後プラトーとなるとの報告493)より,ステロイド投与と同時ないし投与ごく初期の治療が重要であると考えて,3ヵ月以上投与予定例が対象とされた。
治療開始の基準
本ガイドラインは,骨折リスクの重みの高い順に三つの基準で薬物療法の開始基準を規定している。

2年間の縦断研究の解析結果492)にて,脆弱性骨折の存在が新規骨折の最大のリスクであることが明らかにされ,その危険率はオッズ比7.92であった。検討小委員会で集積された症例の縦断解析でもオッズ比は5.22と高値を示した。よって,既存脆弱性骨折例と治療中における新規骨折発生例を第一の治療開始基準とした。

骨折がない場合,骨密度を測定し,YAMの80%未満の場合,治療を開始する。検討小委員会で集積された症例の解析により,骨折例と非骨折例を分離できる腰椎骨密度(QDR)のカットオフ値は0.766g/cm2(%YAMで76.8%)であった。縦断解析でも類似の腰椎骨密度のカットオフ値が得られたことにより,骨密度が%YAMで80%未満を第二の治療開始基準とした。原発性骨粗鬆症のカットオフ値(診断基準)の70%に比し,10%高いことになる。ステロイド性骨粗鬆症では原発性骨粗鬆症に比べ高い骨密度で骨折することを示しており121),ステロイドが骨密度を低下させると同時に骨質に影響して骨強度を低下させるためと考えられる。

骨折がなく,骨密度もYAM80%以上の場合,1日の平均ステロイド使用量がプレドニゾロン換算で5mg以上の場合,薬物療法に入る。ステロイド投与量については,わが国にエビデンスがないため,海外のものを参考にした。海外のメタアナリシスにおいて骨折率はステロイドの用量依存的に上昇し,5mg/日以上が骨折リスク増大の閾値と報告された493)。また最近の海外のガイドライン489)でステロイド使用量を示しているものでは5mg/日以上となっている。そこで,プレドニゾロン換算で5mg/日以上が第三の治療開始基準とされた。骨折リスクはステロイド使用量が増えれば当然高くなり,10mg/日以上では骨密度のカットオフ値がYAM90%であること,また高齢者では骨折リスクが高くなることもガイドラインで指摘した。
治療方針

ステロイド性骨粗鬆症においても原発性骨粗鬆症と同様に,生活指導,栄養指導,運動療法が必要であり,原発性骨粗鬆症に準じて指導する494)。

脆弱性骨折もなく,骨密度もYAM80%以上,ステロイド使用量も5mg/日未満の場合は経過観察となるが,ステロイド投与例は非投与例に比べて骨折リスクは高いため,6ヵ月から1年ごとの骨密度測定と胸腰椎エックス線撮影による経過観察が必要である。

ビスフォスフォネート製剤は海外402),412),413),495),496)や国内497),498)のprospective randomized controlled trial(RCT)による臨床試験において,ステロイド性骨粗鬆症による骨折を有意に抑制するエビデンスが報告されており,現時点での第一選択薬として推奨した。活性型ビタミンD3製剤はメタアナリシスでビスフォスフォネートには劣るが骨折予防効果があることが報告499)されており,ビタミンK2製剤は国内での縦断研究の解析から骨折予防効果が示された492)ことから第二選択薬として推奨した。海外のRCTでは1〜2年間のビスフォスフォネート製剤単独投与により約40〜90%の椎体骨折抑制率が認められている402),412),413),495),496)。
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【参照】
「VI 続発性骨粗鬆症 A.総論」