(旧版)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン
V 骨粗鬆症の治療 |
D.骨粗鬆症の薬物治療
b. 各薬剤の特徴とエビデンス
(8)その他:イプリフラボン・蛋白同化ホルモン製剤
【イプリフラボン】
解説
イプリフラボンは,生体内にはない,合成された非ホルモン性のフラボノイド系物質であり,植物性のビタミン様物質とも位置づけられると同時に,女性ホルモン様作用も有するとされている。本剤は,in vitroでは骨形成促進および骨吸収抑制両方の作用があることが報告されている450),451)。雌性ラットを用いた研究451)から,骨吸収抑制作用の一部にカルシトニンの分泌促進によることが示唆されている。ヒト臨床例においても,血清オステオカルシンや尿中ヒドロキシプロリンなどの骨代謝マーカーの抑制が示され452),453),454),本剤の投与により骨代謝回転は低下することが示唆される。
イプリフラボンは,わが国での多施設二重盲検試験455)により,老人性骨粗鬆症において中手骨骨密度減少を抑制することが示され,骨粗鬆症に用いられてきた。またイタリアでの多施設二重盲検試験で,閉経後骨粗鬆症および老人性骨粗鬆症において,カルシウム1g/日との併用が,カルシウム単独群に比し橈骨や腰椎骨密度の増加を認めている452),453),454),456),457)。骨折予防効果に関しても脊椎圧迫骨折を減少させたという報告があるが453),2001年ヨーロッパにて行われた3年間の多施設二重盲検試験では,イプリフラボンは閉経後女性の骨密度減少や椎体骨折に対する予防効果はなく,骨代謝マーカーにも影響しなかったという(表54)458)。
[エビデンステーブル] 表54 イプリフラボンの主な多施設二重盲検試験成績のまとめ |
効果 | 文献 | 例数 (試験薬/対照薬) |
成績 | エビデンス レベル |
骨密度 | 455) | 195/201 | 中手骨骨量増加 | II |
452) | 95/99 | 腰椎骨量増加 | II | |
452) | 80/75 | 前腕骨骨量増加 | II | |
456) | 41/50 | 腰椎骨量増加 | II | |
457) | 66/60 | 前腕骨骨量増加 | II | |
骨密度・ 椎体骨折 |
453) | 41/43 | 前腕骨骨量増加,椎体骨折減少 | II |
458) | 234/240 | 腰椎骨,大腿骨,橈骨の骨量増加効果なし,椎体骨折予防効果なし | II |
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骨密度:骨密度減少の防止効果がある(グレードC)。
椎体骨折:報告がきわめて少ない(グレードC)。
非椎体骨折:報告がきわめて少ない(グレードC)。
2001年の報告以後,本剤の効果に関する報告はいっさいなく,骨折防止効果をエンドポイントとした前向き研究が望まれる。
(総合評価:グレードC)
【蛋白同化ホルモン製剤】
解説
骨粗鬆症では,副腎性アンドロゲン値の低下459),460),461)がみられ,この副腎性アンドロゲン値と骨密度やビタミンD値には正の相関が認められているので462),アンドロゲンには骨粗鬆症治療薬としての可能性があるのではないかと推測されている。アンドロゲンから男性化作用を除いた蛋白同化ステロイドは骨形成を促進する可能性があり463),ビタミンDの活性化を介して小腸からカルシウム吸収を促進する可能性もある464)。さらには筋肉量を増加させ筋力を高めることによって,間接的に骨密度を増加させる作用も考えられ465),臨床応用の可能性が示唆されている。
わが国では報告例はないが,デカン酸ナンドロロン50mgを2〜3週に1回,1年間筋注投与すると,前腕骨塩量の増加を認めると,欧米から報告されている466),467)。その後,本剤の6ヵ月投与にて前腕骨の骨塩量が2%の増加を認めたという報告468)や,ビタミンDとの1年間の二重盲検試験でも,ビタミンDに比べ腰痛の有意な改善や前腕骨塩量の有意な増加を認めたという報告469)がなされている(表55)。
[エビデンステーブル] 表55 蛋白同化ステロイドの主な多施設二重盲検試験成績のまとめ |
効果 | 文献 | 例数(試験薬/対照薬) | 成績 | エビデンスレベル |
骨密度 | 469) | 44(デカン酸ナンドロロン5mg筋注)/44(ビタミンD3) | 前腕骨骨密度増加 | III |
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骨密度:骨密度減少の防止効果がある(グレードC)。
椎体骨折:報告がない(グレードC)。
非椎体骨折:報告がない(グレードC)。
いずれの製剤も1960年代に骨粗鬆症の適応を得ているが,詳細な基礎的・臨床的データに裏づけされたものではない。肝機能には注意が必要である。
(総合評価:グレードC)