(旧版)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン
V 骨粗鬆症の治療 |
B.治療効果の評価と管理
a.骨量
骨量は骨粗鬆症の診断に限らず,治療効果の評価にも広く用いられている。一方,骨量測定法には測定の部位と方法にいくつかの種類があり,治療効果の判定においては,各測定法の特徴に留意して測定結果を評価する必要がある。
なお,「II 骨粗鬆症の診断 A.総論 用語解説」に記載されているように,骨量,骨塩量および骨密度はそれぞれ別の概念を示す用語であるが,本項では同じ意味として用いた。
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骨量の経時的変化は,骨量測定の再現性(coefficient of variation:CV)と実際の変化量を用いて,その有意性が評価される。すなわち,CVに一定の値を掛けた値(最小有意変化:least significant change〔LSC〕)が,経過観察による骨量変化の検出限界と考えられる。
CV(%)は標準偏差(SD)を平均値で除した値を100倍すると求まり,LSCとCVの関係は以下の式で表される。

ここで,Z'は統計学的信頼水準によって決まる定数で,95%(80%)の信頼水準の場合は1.96(1.28)となる。すなわち,CVの2.8(1.8)倍以上の変化をもって有意と判定される。
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表32に主な骨量測定法のCVを示す。ただし,CVは装置や術者によって異なるため,各医療施設で独自に求めることが望ましい。CVは何人かの症例を複数回測定し,個々の症例のCVまたはSDのRMS(root mean square)を計算して求める。たとえば,15人の症例を3回ずつ,あるいは30人の症例を2回ずつ測定する88)。
CVは被検者側の要因,あるいは測定上の問題により増大する(表33)。
表32 骨量測定法とCV(文献201,202より引用) |
部位 | 測定方法 | 測定精度(%) |
腰椎正面 | DXA | 1〜2 |
大腿骨近位部 | DXA | 1〜3 |
橈骨遠位1/3 | DXA | 〜1 |
全身骨 | DXA | 〜1 |
第二中手骨 | CXD,DIP | 1〜2 |
踵骨 | QUS(SOS) | 0.1 〜1 |
踵骨 | QUS(BUA) | 2〜5 |
表33 CVを増大させる要因 |
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装置の精度管理の不良 | ||
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測定時,解析時のミス | ||
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被検者側の要因 | ||
椎体変形,側弯,動脈の石灰化,低骨密度など |
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経過観察のための骨量測定法としては,変化率が高くCVの低い方法が適している。表34に骨粗鬆症治療薬の大規模臨床試験で得られた骨密度変化率を示す。一般に,治療による骨密度変化の検出感度は,腰椎正面DXAが高い。大腿骨BMDでは近位部全域(total)の感度が高く,Ward三角は感度が低い。橈骨遠位1/3部のDXAや踵骨超音波法は,CVは低いものの治療による変化率も小さいため,治療後の経過観察には不適である。ただし,橈骨遠位の海綿骨が豊富な部位をSXA/DXAやpQCTにより測定すると,腰椎DXAと同様の検出感度が得られたとする報告もみられ197),198),今後の検討結果によっては,これらの方法も治療効果の判定に利用しうる。
高度の退行性変化や測定領域内の圧迫骨折などで,腰椎DXAによる評価が不適当と考えられる場合は,大腿骨DXAなど他部位の値を参考にする。
副甲状腺機能亢進症では,皮質骨主体の部位で骨密度変化がみられ,橈骨遠位1/3部のDXAなども経過観察の参考となる。
表34 DXA測定部位による治療後骨密度変化率の相違# |
腰椎正面 | 大腿骨近位部 | 前腕骨 | |
アレンドロネート | 7.48%/2〜3年 | 5.60%/3〜4年 | 2.08%/2〜4年 |
リセドロネート | 4.54%/1.5〜3年 | 2.75%/1.5〜3年 | |
ラロキシフェン | 2.51%/2〜3年 | 2.11%/2〜3年 | 2.05%/2年 |
ホルモン補充療法 | 6.76%/2年 | 4.12%/2年 | 4.53%/2年 |
カルシトニン | 3.74%/1〜5年 | 3.80%*/1〜5年 | 3.02%/1〜5年 |
副甲状腺ホルモン | 8.6%/21ヵ月 | 3.5 〜3.7%/21 ヵ月 | -0.8〜1.5%*/21 ヵ月 |
PTHは文献98での20µg投与群の結果,その他はいくつかの臨床試験のメタアナリシスの結果(文献203)を示す。 #プラセボとの差(平均値)。*プラセボとの間に有意差なし。 |
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経過観察のタイミングは,予想される骨密度変化率とLSCを参考にして決定できる。ビスフォスフォネートなどの骨吸収抑制剤による骨密度変化率は,治療開始の半年や1年後のほうが,それ以降より大きい。一方,ビタミンDやビタミンK製剤では治療による骨密度増加率は小さい。
経過観察の測定時には,前回と同じ機種・測定モード・解析方法を使用し,椎体誤認や関心領域の設定誤差に注意する。
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治療後の骨量測定で,治療前と比べ有意な増加がみられれば,治療効果ありと判定できる。ただし,骨密度変化率には,無治療の状態での減少率と治療による骨密度増加効果が影響する。さらに,骨吸収抑制剤による骨量増加率と骨折抑制効果には,必ずしも強い関連がみられないことも明らかにされている(図18)199),200)。したがって,有意な骨密度減少がみられる場合以外は,治療効果を不良とする判断基準にはなりがたく,骨代謝マーカーなども含めた総合的な判定が望まれる。
図18 治療による骨密度増加と骨折リスク低下の関係(文献199より引用) |
骨吸収抑制剤による腰椎骨密度の増加率(プラセボとの差)と椎体骨折発生の相対リスクの関係を示す。丸の大きさは各臨床試験の症例数に対応する。骨密度増加率が0でも25%の骨折抑制効果がみられる。 |
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