(旧版)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン
IV 骨粗鬆症の予防 |
C.転倒予防(ヒッププロテクターを含む)
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転倒の危険因子に関しては,これまでの国内外の数多くの探索的研究から50個以上の危険因子が抽出されている。それらのうち,数多くの研究で最大公約数的に得られている因子として,



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国内外で報告されている転倒予防の介入方法には,



表27は,最近における高齢者の転倒予防のためのRCTに対するCochrane Reviewを含む主なメタアナリシスの結果である176),177),178),179)(レベルI)
最も直近のChangら(2004)178)が行った,40編のRCTに基づくメタアナリシスから介入効果をみると,過去に転倒を経験した高齢者における26の介入試験では転倒のリスクを0.88(95%CI:0.82〜0.95,p<0.03)と有意に減少させている。また,27の介入試験から得られた月間転倒率の減少効果でも全体的には0.80(95%CI:0.72〜0.88,p<0.01)と,やはり有意な減少効果が確認されている。
また,わが国においても,最近これまでの転倒予防に関するエビデンスに立脚し,RCTを中心とした膨大な論文・報告を収集・整理し,さまざまな条件下における転倒予防プログラムの効果や転倒研究の今後の課題を提示しているレビューも見受けられる180),181),182)。
わが国においても,転倒事象を帰結因子とし,地域在宅高齢者を対象とした運動介入による転倒予防を目的として無作為割付比較対照試験が実施され,その効果が検証されている183)。これは,地域在宅高齢女性(73〜90歳)52名に対して,介入群と対照群に無作為に割り付け,介入群に対しては筋力,バランス能力および歩行能力の改善と強化を目的とした6ヵ月間の転倒予防プログラムを実施し,その後,8ヵ月と20ヵ月後に転倒発生について調査を実施している。その結果,追跡期間中の転倒出現頻度の比較については,介入前では両群に有意差はなかったが,介入後の転倒発生は,8ヵ月後では対照群は40.9%,介入群は13.6%となり,20ヵ月後では対照群は54.5%と増加したのに対し,介入群は13.6%と変わっていなかった(p<0.05)。転倒予防の介入による相対危険度は0.33となり,転倒は有意に抑制される可能性が示唆された(図14)。
[エビデンステーブル] 表27 高齢者に対する転倒予防介入試験の主なメタアナリシス |
文献 | 試験数 | 有効だった介入法 | 転倒減少効果(RR) | 95%CI | |
176) | 3 | 筋力強化とバランス改善によるプログラム | 0.80 | 0.66〜0.98 | |
1 | 太極拳 | 0.51 | 0.36〜0.73 | ||
1 | 家庭環境への介入 | 0.64 | 0.49〜0.84 | ||
1 | 向精神薬中止 | 0.34 | 0.16〜0.74 | ||
3 | リスクの判明していない地域高齢者への包括的介入 | 0.73 | 0.63〜0.86 | ||
2 | リスクの判明している地域高齢者への包括的介入 | 0.79 | 0.67〜0.94 | ||
177) | 4 | 家庭での個別指導による筋力強化とバランス改善 | 0.65# | 0.57〜0.75 | |
178) | 40 | 介入全体 | 0.88## | 0.82〜0.95 | |
包括的介入 | 0.82## | 0.72〜0.95 | |||
運動訓練 | 0.86## | 0.75〜0.99 | |||
物的環境の調整 | NS | 0.77〜1.05 | |||
対象者への教育介入 | NS | 0.95〜1.72 | |||
179) | 19 | 包括的介入 | 0.62### | 0.47〜0.88 |
RR:relative risk ratio,95%CI:95% confidence interval,# :IRR(incidence rate ratio),## :risk ratio,### :odds ratio,NS:有意水準に至らず |
包括的介入:起立性低血圧,視力,バランスと歩行,薬剤,認知機能,I-ADL, 環境危険因子などに対する介入 |
図14 運動介入による転倒抑制効果(文献183より引用) |
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最近になって,骨格筋の萎縮や筋力の低下にかかわるビタミンD(血清25(OH)D3濃度)が不足すると,転倒しやすくなることが報告されてきた。このことは,海外の五つの臨床試験をメタアナリシスした結果,ビタミン投与群では非投与の対照群に比べて転倒発生率が2割減少することを実証したBischoffらの報告184)によっても支持される(レベルI:図15)。
図15 ビタミンD投与群と対照群間の転倒リスクにおける主要研究の感度分析のための幹葉図(文献184より引用改変) |
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ヒッププロテクターを用いた無作為割付比較対照試験は,わが国も含め世界各地で行われているが,それらのメタアナリシスを行ったCochrane Libraryの分析では,施設あるいは病棟などの集団ごと(cluster randomization)の6試験のうち5試験では介入群で有意に骨折を減少させており,95%信頼区間で0.58〜0.97と大腿骨頸部骨折予防に対する有効性を示していた。しかし個人ごとの介入試験(individual randomization)では5試験実施され,そのいずれも有効性は確認されておらず,95%信頼区間も0.54〜1.34と有効性は得られていない(図16)185)。さらに地域在宅高齢者を対象とした三つの介入試験では,そのいずれにおいてもヒッププロテクター介入の有効性は認められていない(95%信頼区間:0.85〜1.59,図17)。このように最近の多くのヒッププロテクターを用いた介入研究からは,以前に期待されたほどの有効性が追認されていないのが実情である(レベルI)。
図16 施設高齢者におけるヒッププロテクターによる大腿骨頸部骨折のリスクに関するメタアナリシス(文献185より引用改変) |
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図17 地域高齢者におけるヒッププロテクターによる大腿骨頸部骨折のリスクに関するメタアナリシス(文献185 より引用改変) |
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高齢者における確実な転倒予防の方策は確立しているとはいえ,問題がないわけではない。最も根本的な問題は,「転倒は抑制したとしても,骨折そのものを減少・抑制しうるか」という点である。先に述べた転倒予防のRCTやメタアナリシスでは転倒予防効果の判定のみで終わっており,転倒による重大外傷や骨折の減少や予防までも含めて,分析されたものがほとんどないのが現状であり,今後の課題である。
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