(旧版)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン

 
I 骨粗鬆症の定義・疫学および成因

 
C.骨粗鬆症の成因

Research Question
骨粗鬆症発症の要因と病型は

骨粗鬆症による骨折は,骨密度の低下と骨質の劣化が大きく影響する23),24)。退行期における骨密度は,少年期から思春期にかけて獲得される骨密度(いわゆる骨量頂値:peak bone mass)と,成人以降の骨密度の喪失速度によって決定される。骨質の具体的な指標は定まっていないが,骨のサイズ・形,骨内部の構造(海綿骨部における骨梁の微細構造,皮質骨内部の粗鬆化,微小損傷など),骨を構成する有機(I型コラーゲン)および無機成分(ハイドロキシアパタイト結晶)の特性,骨の代謝回転などが関係すると考えられている25)
骨粗鬆症は,多因子疾患であり,遺伝要因と生活習慣(食事,運動,喫煙,アルコールなど)が発症に大きく影響する。原発性あるいは退行期骨粗鬆症は,従来閉経後(I型)と老人性(II型)骨粗鬆症に分類されていたが26),最近は表1に示すように,I型とII型を区別しないで一括して閉経後骨粗鬆症とし,男性の骨粗鬆症を別に扱う案が提唱されている27)。続発性骨粗鬆症,とりわけステロイド性骨粗鬆症には,固有の病態生理メカニズムがある。

表1 骨粗鬆症の臨床病型
  原発性骨粗鬆症(退行期骨粗鬆症)  
 
  閉経後骨粗鬆症
  男性における骨粗鬆症
 
  続発性骨粗鬆症  


Research Question
骨粗鬆症の発症メカニズムは

閉経後骨粗鬆症は,骨改変(リモデリング)サイクルが開始される頻度の増加(いわゆる高代謝回転の状態)と,個々の骨改変部位における骨吸収と骨形成のアンバランスによって起こる。リモデリングは,lining cellで覆われた休止期の骨の表面に,骨質の劣化などを感知して破骨細胞が誘導されることから開始される。骨吸収期が数週間続いた後に,吸収部位に骨芽細胞が誘導され,数ヵ月にわたって骨形成が営まれ,新しい骨によってほぼ欠損部が埋められる。閉経後骨粗鬆症では,エストロゲン欠乏などにより,異常に高まった骨吸収によって失った骨量を,骨形成によって十分に埋めることができず,急速な骨密度の減少を招くとともに,骨梁に深い吸収窩がたくさんできることで,連結性の低下や断裂から力学的強度が弱まり,脆弱性骨折のリスクが高まるものと考えられる。さらに加齢が進むと,性ホルモンの低下に加えて,カルシウム・ビタミンD欠乏や,その結果としての骨に対する副甲状腺ホルモン(PTH)の作用過剰などが関与してくる。男性の骨粗鬆症においても,エストロゲンやアンドロゲンなどの性ホルモンの低下が発症に寄与する24),26)


Research Question
破骨細胞と骨芽細胞の機能とは

破骨細胞は,単球・マクロファージ系の血球細胞から分化して骨においてのみ形成され,生体内で唯一骨吸収活性をもつ細胞である28)図5)。破骨細胞への終末分化には,骨芽細胞や骨髄ストローマ細胞が産生するTNFファミリーのサイトカインであるRANKLが必須である29)。RANKLは,骨粗鬆症をはじめとする骨吸収亢進の病態に関わっており,ヒト型RANKL抗体は治療薬として有望視されている。一方,骨芽細胞は,脂肪や筋肉細胞と同様に間葉系の幹細胞から分化し,I型コラーゲンを主体とする基質タンパク質の合成と細胞外基質へのミネラルの沈着,すなわち石灰化を行う30)。骨芽細胞の機能や分化は,PTHや活性型ビタミンDに代表される全身性のホルモン,局所性のサイトカイン,さらには中枢神経から交感神経を介する支配を受けていることが明らかになりつつある31)図5)。

図5 骨リモデリングの調節因子
図5骨リモデリングの調節因子


Research Question
骨形成と骨吸収の連携とは

骨形成は吸収部位において開始され,常に先行する骨吸収が必要である。ビスフォスフォネート薬によって骨吸収を抑制すると,骨形成も低下する。すなわち,骨吸収と骨形成は互いに独立した過程ではなく,破骨細胞の形成には骨芽細胞が支持的機能を果たし,逆に,破骨細胞による骨吸収が,カップリング反応(因子)を介して骨芽細胞をリクルートする,という具合に互いに緊密な連携関係にある32)
骨芽細胞は自ら合成した細胞外基質に埋没する過程で,骨細胞へと終末分化を遂げる。骨細胞は,細胞突起を介して,骨細胞同士あるいは骨芽細胞や破骨細胞と機能的に連携し,骨吸収や骨形成を統合的に制御していると考えられる。また骨細胞は,骨に加わる機械的刺激を感知する細胞と想定されており,外部からの力学的入力に適応しながら,骨格系の形態や機能を可塑的に調節するうえで重要な役割を担っている(図5)。


まとめ

表2にまとめたように,骨粗鬆症の発症要因は,集団・個人レベルから分子レベルに至るまで多様な階層にあり,多次元からの理解が求められている。

表2 階層レベル別の発症要因
階 層 サイズオーダー 要 因
集団のなかの個人 (∞) 遺伝要因と生活習慣(栄養・運動),加齢に伴う個人差の開き
生体システムにおける骨 m 内分泌・神経・免疫系との相互作用,ほかの加齢疾患との関連
臓器としての骨 cm 力学的環境,骨のサイズ・geometry,付着筋肉との連携,骨髄(造血系)との関わり
組織レベル mm 代謝回転,骨吸収活性,骨形成機能,骨梁(海綿骨)やosteon(皮質骨)の構造,microcrack
細胞レベル µm 破骨細胞,骨芽細胞,骨細胞,骨髄中のほかの(血球・血管・脂肪)細胞との相互作用
分子レベル <mm コラーゲン繊維,ハイドロキシアパタイト結晶,骨の細胞の機能分子


 

 
ページトップへ

ガイドライン解説

close-ico
カテゴリで探す
五十音で探す

診療ガイドライン検索

close-ico
カテゴリで探す
五十音で探す