有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン

 
VI.考察

 
3. 他のガイドライン等との比較

諸外国におけるがん検診ガイドラインの各検診方法について、表18に示した。
US Preventive Service Task Forceでは、胸部単純X線、喀痰細胞診、低線量CTを併せて推奨Iとしている。これはかつての推奨D(公的施策として用いるべきでない)に比べれば、評価は向上している12)。特に女性については、日本の症例対照研究の成績が統計学的有意差を示していることに着目しているが、症例対照研究のみでは結論をくだすべきではないとしている。
一方カナダのCTFPHC(Canadian Task Force on Preventive Health Care)では、同じ研究を評価していながらも、胸部単純X線は推奨D、胸部CTは推奨Iとしている104)。ここでの日本の症例対照研究の評価は、症例の選択法のあいまいさ、組織型不明例の多さ(8-27%)の他、日本から肺がん検診無効という論文が出ていないのは出版バイアスによるものではないかという推定をして、“fair quality”という評価をしている。しかし本ガイドラインでの文献検索、および国内での学会発表や班研究等の履歴を見ても、国内からは肺がん検診無効を示す症例対照研究等は行われた形跡が認められず、出版バイアスはあくまで憶測にすぎないと言わざるを得ない。
米国NCIのPDQは、胸部単純X線と喀痰細胞診に関しては、無作為化比較対照試験のみを評価しているため、本ガイドラインとは異なる結果となった。胸部CTに関しては、ほぼ同じ文献を評価しており、本ガイドラインと大差ない11)
また、CochraneReviewにおいては、7つのランダム化比較試験と1つの非ランダム化比較試験をメタ・アナリシスの手法を用いて分析している。胸部X線検査高頻度受診群の肺がん死亡リスクが低頻度受診群に比べて11%の増加を示し(RR=1.11,95%CI=1.00-1.23)、胸部X線検査に喀痰細胞診を併用した群は、胸部X線単独に比べて12%の死亡リスクの減少傾向を認めたが有意性は示されなかった(RR=0.88,95%CI=0.74-1.03)92),105)ことから、頻回の胸部X線検査は有害かもしれないと結論している。しかし、胸部X線検査の頻度別の解析に用いられた4報の研究のうち2報は、本ガイドラインの検討対象に含めなかったカイザー財団の研究と、北ロンドンの研究によるものである。これらは気管支ファイバースコープなどの診断手法が開発される前の60年代に行われた研究であり、診療技術の差を考慮されておらず、この成績を現状の国内の検診に応用することには無理があると言わざるを得ない。
久道班報告書第3版では、胸部単純X線と高危険群への喀痰細胞診検査を国内と国外に分けて評価し、国内を相応の根拠があるとし、国外を相応の根拠がないとしている。また低線量CTによる肺がん検診に関しては、判定保留としている8)
基本健康診査及び保健事業の有効性について評価した福井班報告書では、「いかなる肺がんスクリーニングのための検査の有効性を支持する研究はなし」としている106)。また日本肺癌学会が編集した肺癌診療ガイドラインでは、胸部X線写真と喀痰細胞診を用いた肺癌集団検診および、ヘリカルCTを用いた肺癌検診の双方において、「肺癌死亡率低下における有用性は現時点では証明されておらず、行うよう勧めるだけの根拠が明確でない」としている107)。福井班報告書・肺癌診療ガイドラインいずれも文献採択の方法として比較試験に限定しているため、症例対照研究は採択されていない。
今回の本ガイドラインにおいては、久道班と異なり国内と国外を分けることなく、検診の方法論によって区分し、評価した。低線量CTに関しては、他のガイドラインと同様に、証拠が十分でないため推奨Iに留めた。胸部単純X線と高危険群に対する喀痰細胞診の評価が、諸外国のガイドライン等と分かれるところであるが、これは前述したように、70年代の検診を評価し方法論的な諸問題を抱えた無作為化比較対照試験よりも、90年代の検診を評価した国内の複数の症例対照研究の結果を重視したためである。ただし諸外国から現在の医療水準と同様の方法を評価した研究成績が報告されていないため、本ガイドラインの推奨が、諸外国においても応用できるものではない。

表18 諸外国ガイドラインにおける肺がん検診の推奨の比較
検診方法 祖父江班 USPSTF ACCP CTFPHC
日本 米国 米国 カナダ
公表年 2006 2004 2003 2003
対象 がん検診実施機関(地域・職域・検診機関など) プライマリ・ケア 専門医 プライマリ・ケア
非高危険群に対する胸部X線検査、及び高危険群に対する胸部X線検査と喀痰細胞診併用法 推奨(B) 推奨(I) 保留 - -
胸部単純X線 - 推奨(I) 保留 推奨(D)推奨しない 推奨(D)推奨しない
喀痰細胞診 - 推奨(I) 保留 推奨(D)推奨しない -
低線量CT 推奨(I) 推奨(I) 保留 推奨(I) 保留 推奨(I) 保留
USPSTF: US Preventive Service Task Force
ACCP: American College of Chest Physician
CTFPHC: Canadian Task Force on Preventive Health Care

 

 
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