(旧版)褥瘡予防・管理ガイドライン
第3章 褥瘡の治療
慢性期褥瘡の局所治療 Clinical Questions
深い褥瘡(D)の場合
5.Eをeにする 滲出液の制御
CQ1 | どのような外用薬を用いたらよいか |
推奨
推奨度 B | 滲出液吸収作用を有するカデキソマー・ヨウ素、ポビドンヨード・シュガーを推奨する。 |
推奨度 C1 | デキストラノマーを用いてもよい。 |
A.カデキソマー・ヨウ素
【エビデンスレベル】
デキストラノマー、フィブリノリジン・デオキシリボヌクレアーゼ配合剤、あるいは、主剤の一部であるデキストリンポリマー単独とのランダム化比較試験が3編1,2,3あり、前2編では滲出液の有意な減少を認めるがデキストリンポリマーとの有意差はない。また、エビデンスレベルIIとなるが、薬剤の色もしくは性状から判別できるので非盲検のランダム化比較試験である。
【解説】
【参考文献】
1. | 石橋康正,大河原章,久木田淳,他.各種皮膚潰瘍に対するNI-009の臨床評価 デブリサン(R)を対照薬とした群間比較試験.臨床医薬.1990;6(4):785-816. |
2. | 久木田淳,大浦武彦,青木虎吉,他.各種皮膚潰瘍に対するNI-009の臨床評価 エレース(R)-C軟膏を対照薬とした群間比較試験.臨床医薬.1990;6(4):817-48. |
3. | 安西 喬,他.各種皮膚潰瘍に対するNI-009の有用性の検討 基剤を対照とした群間比較.臨医薬.1989;5:2585-612. |
4. | Hellgen L, et al. Absorbtion eff ect in vitro of iodophor gel on debris fractions in leg ulcers. Perstort社社内資料―鳥居薬品株式会社カデックス軟膏文献集. |
5. | Lawrence JC, et al. Studies on the distribution of bacteria within two modern synthetic dressings using an artifi cial wound. Perstort社社内資料―鳥居薬品株式会社カデックス軟膏文献集. |
6. | 上滝博夫,太田豊久,村瀬 均,他.皮膚潰瘍治療薬NI-009の有効薬理 ラットを用いた皮膚欠損傷,褥瘡および熱傷モデルにおける検討.臨床医薬.1990;6(3):627-38. |
7. | 金子哲男,松本一騎,古屋洋子,佐竹美由紀,石倉文子.カデックス軟膏0.9%の物性及び配合変化に関する研究.薬理と治療.2001;29(9):603-10. |
8. | 黒崎美保,能登ゆかり,竹森真美子,吉野三智子,宮本鉄雄,野村純子,上滝博夫.カデックス軟膏0.9%の殺菌作用及びヨウ素放出性について.薬理と治療.2001;29(11):839-47. |
B.ポビドンヨード・シュガー
【エビデンスレベル】
塩化リゾチームとのランダム化比較試験1と塩化リゾチームの合剤とのランダム化比較試験2があり、滲出液の有意な減少1を認めているが、褥瘡を含むと考えられる皮膚潰瘍においては主剤の一部である白糖単独との有意差はない3。また、エビデンスレベルIIであるが、薬剤の色もしくは性状から判別できるので非盲検のランダム化比較試験である。
【解説】
【参考文献】
1. | 今村貞夫,内野治人,井村裕夫,他.白糖・ポビドンヨード配合軟膏(KT-136;KT)の褥瘡に対する有用性の検討 塩化リゾチーム軟膏(LO)を対照にした比較臨床試験.薬理と治療.1989;17(Suppl.1):255-80. |
2. | 斎藤義雄,古瀬善朗,石井敏直,他.褥瘡に対する白糖ポビドンヨード軟膏(UPK;ユーパスタコーワ)と塩化リゾチーム軟膏(RFK;リフラップ軟膏)配合白糖ポビドンヨード軟膏の無作為化比較試験による臨床研究.薬理と治療.1994;22(5):2403-13. |
3. | KT-136関西地区研究班.皮膚潰瘍に対するKT-136(KT;白糖・ポビドンヨード配合軟膏)の臨床効果 ポビドンヨード配合に関する検討.薬理と治療.1989;17(Suppl.1):237-54. |
4. | 中尾裕史,坪井良治,小川秀興.白糖・ポビドンヨード混合製剤の創傷治癒促進メカニズム 培養細胞及び動物モデルを用いた解析.Therapeutic Research. 2002;23(8):1625-9. |
5. | 金箱 真,稲木敏男.ユーパスタコーワの吸水作用.医学と薬学.1994;31(5):1159-62. |
6. | 武内英二,大塩学而,浜島義博,他.Sugarの切創治癒過程の病理組織学的検討.皮膚科紀要.1987;82(3):359-63. |
7. | 白石 正,高橋信明,仲川義人.MRSAおよび緑膿菌に対するユーパスタ(R)の殺菌効果.薬理と治療.1992;20(7):2455-8. |
8. | 朝田康夫,臼井 通,福井 巌,他.臨床分離株に対するKT-136の殺菌作用.薬理と治療.1991;19(10):3851-4. |
9. | 山崎 修,秋山尚範,大野貴司,岩月啓氏.黄色ブドウ球菌のバイオフィルムに対する白糖・ポビドンヨード配合軟膏(ユーパスタ)の効果.Therapeutic Research. 2002;23(8):1619-22. |
C.デキストラノマー
【エビデンスレベル】
滲出液の吸収に関しては、対照群なしの非ランダム化比較試験が1編1ある。また、その改善を認めており、エビデンスレベルIIIである。
【解説】
【参考文献】
1. | 堀尾 武,河合修三,森口隆彦,稲川喜一.褥瘡に対するSK-P-9701(デキストラノマーペースト)の臨床効果.日本褥瘡学会誌.2001;3(3):355-64. |
2. | Jacobsson S, et al. A new principle for the cleaning of infected wound. Scand J Plast Reconstr Surg. 1976;10:65-72. |
3. | 榎本 浩,他.Dextranomer(Debrisan)の創傷面からの浸出液吸収作用.医薬品研.1980;11:114-21. |
CQ2 | どのようなドレッシング材を用いたらよいか |
推奨
推奨度 B | ドレッシング材は滲出液を減少させる効果はない。そのため、過剰な滲出液を吸収保持し、創面の湿潤を保ち周囲皮膚の浸軟予防が可能なドレッシング材であるポリウレタンフォームを推奨する。 |
推奨度 C1 | 機能別分類B1、Cのキチン、ハイドロファイバー®(銀含有製材を含む)、アルギン酸塩を使用してもよい。 |
機能別分類(保険償還上の深さによる分類) | ||
ポリウレタンフィルム(包括化) | ||
皮膚欠損用 創傷被覆材 | 真皮に至る創傷用(A) | |
皮下組織に至る創傷用(B) | 標準型(B1) | |
異形型(B2) | ||
筋・骨に至る創傷用(C) |
A.ポリウレタンフォーム
【エビデンスレベル】
滲出液の吸収に関しては、ハイドロコロイドを対照としたランダム化比較試験が1編1あり、ハイドロコロイドとは吸収力に差を認めている。エビデンスレベルIIである。
【解説】
- 自重の約10倍、ハイドロコロイドの約4倍の吸水力がある。
- フォーム材の主体をなすスポンジ層は、微細な腔が互いに独立してあるため、いったん吸収された滲出液は、一時的な加圧によって排除されない。
- 上記により多量の滲出液を吸収保持することが可能となり、細菌の吸着排除を伴うことから、創面に過剰な滲出液を残さない。
【参考文献】
1. | Bale S, Squires D, Varnon T, Walker A, Benbow M, Harding KG. A comparison of two dressings in pressure sore management. J Wound Care. 1997;6(10):463-6. |
B.キチン
【エビデンスレベル】
【解説】
【参考文献】
1. | 和田秀敏,宮岡達也,山野竜文.スポンジタイプキチン膜による褥瘡の治療.西日本皮膚科.1990;52(4):761-5. |
2. | 上山武郎.綿状キチンによる褥瘡の治療.新薬と臨床.1994;43(2):291-9. |
3. | 前田睦浩,井上幸雄,柳原 泰,他.開放骨折,挫滅創による皮膚,軟部組織欠損治療へのキチン多孔体の応用.整形外科.1992;43(10):1441-6. |
C.ハイドロファイバー®(銀含有製材を含む)
【エビデンスレベル】
滲出液の改善を報告した症例研究が1編1あり、エビデンスレベルVである。
【解説】
- ハイドロファイバー®が繊維内へ滲出液を保持し、創傷周囲健常皮膚の浸軟を防止する。
- アルギン酸塩よりも吸収力は大きく、自重の約30倍の水分を吸収する。
- 水分を繊維の縦方向へ吸収し、横方向への広がりをおさえるため、創傷周囲皮膚の浸軟を予防する。
- 銀含有製材では銀イオンが放出され、滲出液に含まれた細菌を迅速かつ効果的に抗菌する。
- 銀含有製材では、緑膿菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)など、創傷部位に一般的に見られる細菌に対して抗菌効果を発揮する。
【参考文献】
1. | Russell L, Carr J. New hydrofibre and hydrocolloid dressings for chronic wounds. J Wound Care. 2000;9(4):169-72. |
D.アルギン酸塩
【エビデンスレベル】
エキスパートオピニオン以外に滲出液の減少について検討した論文はなく、エビデンスレベルVIである。
【解説】
- 自重の約20倍の吸収力があり、滲出液の吸収速度が速い。