(旧版)褥瘡予防・管理ガイドライン
第3章 褥瘡の治療
慢性期褥瘡の局所治療 Clinical Questions
深い褥瘡(D)の場合
1.Nをnにする 壊死組織の除去
CQ1 | 外科的デブリードマンはどのように行えばよいか |
推奨
推奨度 C1 | 壊死組織と周囲の健常組織との境界が明瞭となった時期に外科的デブリードマンを行ってもよいが、事前の全身状態をよく評価してから行うようにする。 |
【エビデンスレベル】
褥瘡の外科的デブリードマンの方法に関する報告はエキスパートオピニオンであり、エビデンスレベルVIである。なお、今回の検索対象ではないが、糖尿病性皮膚潰瘍において外科的デブリードマンを頻回に行った場合、創傷治癒が促進するというランダム化比較試験1を認めた。外科的デブリードマンのエビデンス論文としては唯一の報告と思われる。
【解説】
- 硬い壊死組織が固着した状況で全身的な発熱や局所の発赤、腫脹、疼痛、悪臭を認める場合、壊死組織の下に膿の貯留や膿瘍が形成されている可能性がある。このため壊死組織の一部を切開し、膿の有無を確認する2。
- 踵骨部では硬い壊死組織自体が創保護(natural protective cover)になっている可能性がある。このため踵骨部では硬い乾燥壊死組織は、炎症所見がないかぎりデブリードマンをしないほうがよいとされている2,3。しかし、硬い乾燥壊死組織が下床から剥がれるような状態になれば外科的デブリードマンを行うことを考慮する。外科的デブリードマンに際しては、感染の有無、壊死組織の量、痛みの程度などを把握しておく必要がある3。
- また、乾燥した壊死組織には、酵素的デブリードマンを行う前にメスで表面に網目状に浅い切開を入れておくとよい3。
- 外科的デブリードマンを行う際には、止血のための器具を用意し全身状態を考慮しながら少しずつ行うようにする。
- しばしばデブリードマンはベッドサイドで安易に行われるが、全身状態如何ではその外科的侵襲はまれに致死的な場合もあり、そうした事態を回避するための外科的侵襲度評価ツールが近年提唱されている4,5。
- 感染の鎮静化を図るため、再建手術の前にできるかぎり壊死組織の外科的デブリードマンを行うことが勧められる3,6,7,8,9,10,11,12。また、外科的デブリードマンを行うことにより再建手術までの期間を短縮することができる13。
【参考文献】
1. | Steed DL, Donohoe D, Webster MW, Lindsley L. Effect of extensive debridement and treatment on the healing of diabetic foot ulcers. Diabetic Ulcer Study Group. J Am Coll Surg. 1996;183(1):61-4. |
2. | Bergstrom N, et al. Treatment of Pressure Ulcers Clinical Practice Guidelines number 15, No95-0652, US Department of Health and Human Services. Public Health Service, Agency for Health Care Policy and research. AHCPR Publication, Rockville Maryland. 1994. |
3. | Wound Ostomy and Continence Nurses Society. Guideline for Prevention and Management of Pressure Ulcers, Glenview, IL. 2003. |
4. | Kurita M, Ichioka S, Oshima Y, Harii K. Orthopaedic POSSUM scoring system: an assessment of the risk of debridement in patients with pressure sores. Scand J Plast Reconstr Surg Hand Surg. 2006;40(4):214-8. |
5. | 栗田昌和,大島淑夫,市岡 滋,大和田愛,青井則之.褥瘡患者に対する観血的処置の全身状態に対する影響(POSSUMによる分析).日本褥瘡学会誌.2005;7(2):178-83. |
6. | 原田富夫,恩地圭典,山辺 登,他.筋皮弁による難治性褥瘡の再建.臨床整形外科.1989;24(10):1159-67. |
7. | 飯田浩次,石黒茂夫,伊藤晴夫.MRSA感染褥瘡の外科的治療の経験.整形・災害外科.1999;42(6):709-12. |
8. | 松永智美,清野良文,塚田章博.大臀筋皮弁による坐骨部褥瘡の再建.整形外科.2003;54(11):1385-90. |
9. | 松下 功,樋口雅章,青山和裕,谷川孝史,高野治雄,藤江秀樹.Flexible rhombic flapを用いた褥瘡治療の経験.Journal of Clinical Rehabilitation. 2001;10(12):1114-6. |
10. | 三川信之,堀 茂,向井秀樹.MRSA感染褥瘡の外科的治療 術前・術後の管理を中心として.形成外科.1995;38(2):155-9. |
11. | 岡 博昭,森口隆彦,稲川喜一,貝川恵子.手術症例における術前のDESIGN評価の推移について.日本褥瘡学会誌.2004;6(2):140-6. |
12. | 小住和徳,塚越 卓,山田孝一,他.筋皮弁を用いた褥創の治療について 骨盤周囲の褥創を中心に.聖マリア医学.1989;16(1):135-42. |
13. | 中村元信,伊藤正嗣.褥瘡に対するSlide-swing Plastyの適用 症例検討.日本褥瘡学会誌.2000;2(3):244-50. |
CQ2 | どのような外用薬を用いたらよいか |
推奨
推奨度 C1 | 壊死組織除去作用を有するカデキソマー・ヨウ素、デキストラノマー、フィブリノリジン・デオキシリボヌクレアーゼ配合剤、ブロメライン、スルファジアジン銀、硫酸フラジオマイシン・トリプシンを用いてもよい。 |
A.カデキソマー・ヨウ素
【エビデンスレベル】
壊死組織除去作用に関する論文には、デキストラノマー、フィブリノリジン・デオキシリボヌクレアーゼ配合剤、あるいは、主剤の一部であるデキストリンポリマー単独とのランダム化比較試験が3編1,2,3あり、エビデンスレベルIIとなるが、対照群と有意差を認めていない。また、薬剤の色もしくは性状から判別できるので非盲検のランダム化比較試験である。
【解説】
【参考文献】
1. | 石橋康正,大河原章,久木田淳,他.各種皮膚潰瘍に対するNI-009の臨床評価 デブリサン(R)を対照薬とした群間比較試験.臨床医薬.1990;6(4):785-816. |
2. | 久木田淳,大浦武彦,青木虎吉,他.各種皮膚潰瘍に対するNI-009の臨床評価 エレース(R)-C軟膏を対照薬とした群間比較試験.臨床医薬.1990;6(4):817-48. |
3. | 安西 喬,他.各種皮膚潰瘍に対するNI-009の有用性の検討 基剤を対照とした群間比較.臨医薬.1989;5:2585-612. |
4. | Hellgen L, et al. Absorbtion effect in vitro of iodophor gel on debris fractions in leg ulcers. Perstort社社内資料―鳥居薬品株式会社カデックス軟膏文献集. |
5. | Lawrence JC, et al. Studies on the distribution of bacteria within two modern synthetic dressings using an artificial wound. Perstort社社内資料―鳥居薬品株式会社カデックス軟膏文献集. |
6. | 上滝博夫,太田豊久,村瀬 均,他.皮膚潰瘍治療薬NI-009の有効薬理 ラットを用いた皮膚欠損傷,褥瘡および熱傷モデルにおける検討.臨床医薬.1990;6(3):627-38. |
7. | 金子哲男,松本一騎,古屋洋子,佐竹美由紀,石倉文子.カデックス軟膏0.9%の物性及び配合変化に関する研究.薬理と治療.2001;29(9):603-10. |
B.デキストラノマー
【エビデンスレベル】
【解説】
【参考文献】
1. | 堀尾 武,河合修三,森口隆彦,稲川喜一.褥瘡に対するSK-P-9701(デキストラノマーペースト)の臨床効果.日本褥瘡学会誌.2001;3(3):355-64. |
2. | SK-P-9701研究班.各種皮膚潰瘍に対するSK-P-9701(デキストラノマーペースト)の臨床試験成績.臨床医薬.2000;16(9):1419-37. |
3. | Jacobsson S, et al. A new principle for the cleaning of infected wound. Scand J Plast Reconstr Surg. 1976;10:65-72. |
4. | 榎本 浩,他.Dextranomer(Debrisan)の創傷面からの浸出液吸収作用.医薬品研.1980;11:114-21. |
C.フィブリノリジン・デオキシリボヌクレアーゼ配合剤
【エビデンスレベル】
壊死組織に関する論文には、対照群なしの非ランダム化比較試験が1編1ある。また、その中の観察項目で壊死組織の改善を認めており、エビデンスレベルIIIである。
【解説】
【参考文献】
1. | 石川 治,宮地良樹,秋元幸子.エレース末溶液を用いたWet to Dry Dressingによる皮膚潰瘍の治療.薬理と治療.1993;21(12):4783-8. |
2. | 藤井節郎,(村地 孝,他 編).プラスミン.蛋白分解酵素と生体制御,東京大学出版会,東京.1973;42-51. |
3. | SMITH JD, MARKHAM R. The enzymic breakdown of deoxyribosenucleic acids. Biochim Biophys Acta. 1952;8(3):350-1. |
4. | Laskowski M. Deoxyribonuclease I. In Boyer PD, ed. The Enzymes 3rd Edition, Academic Press, New York and London. 1971;289-311. |
D.ブロメライン
【エビデンスレベル】
【解説】
【参考文献】
1. | 小川 豊,黒岡定浩,片上佐和子,堀尾 修,竹本剛司,福田 智,秋岡二郎,森 雄大,楠本健司,土井秀明,中川浩一,村岡道徳,田嶋敏彦,富永良子,伊東信久,加茂理英,綾部 忍,兼森良和,大場教弘,小澤俊幸,林いづみ,上石 弘,小坂正明,澤田正樹,内藤素子,下間亜由子.ブロメライン軟膏の熱傷,褥瘡,その他種々の創に対する壊死組織除去効果.新薬と臨床.1999;48(10)1301-9. |
2. | 河合修三,堀尾 武.褥瘡に対するブロメライン軟膏の使用経験.新薬と臨床.2003;52(8):1210-6. |
3. | KLEIN GK. ENZYMATIC DEBRIDEMENT OF THIRD DEGREE BURNS IN ANIMALS WITH BROMELAINS. A PRELIMINARY REPORT. J Maine Med Assoc. 1964;55:169-71. |
4. | 藤村 一,他.ブロメラインの軟膏剤としての応用―第3度火傷の痂皮除去作用―.基礎と臨.1972;6:26-9. |
E.スルファジアジン銀
【エビデンスレベル】
ポビドンヨード、ポビドンヨード・シュガー、硫酸ゲンタマイシン、および、プラセボとのランダム化比較試験が4編あるなど感染抑制効果に関する論文は多いが、エキスパートオピニオン以外に壊死組織除去効果を検討した論文はなく、エビデンスレベルVIである。
【解説】
- 基剤には水分を60%含む乳剤性基剤が用いられている。また、基剤の浸透特性により壊死組織の軟化・融解が生じることで、創面の清浄化作用を発揮する1。
- 滲出液が多いときは、創面の浮腫を来たす恐れがあるので使用には注意する。
- ポビドンヨードと併用すると効力が低下する。
- 他剤と混合しない。特に外皮用酵素製剤との併用は避ける。
【参考文献】
1. | 立花隆夫,宮地良樹.【褥瘡の治療に関するupdate】 薬剤による保存的治療.形成外科.2003;46(5):459-70. |
F.硫酸フラジオマイシン・トリプシン
【エビデンスレベル】
エキスパートオピニオン以外に壊死組織除去作用に関する論文はなく、エビデンスレベルVIである。
【解説】
【参考文献】
1. | 伊藤文雄.酵素剤と抗酵素剤(吉田 博,他 編).生化学的薬理学.朝倉書店,東京.1971;443-56. |
2. | 野口義圀,他.酵素トリプシンの臨床的研究.皮膚科性病科雑誌.1954;64:497-506. |
3. | Davies J. Structure-activity relationships among the aminoglycoside antibiotics: comparison of the neomycins and hybrimycins. Biochim Biophys Acta. 1970;222(3):674-6. |
CQ3 | どのようなドレッシング材を用いたらよいか |
推奨
推奨度 C1 | 適切な時期を選んだ外科的切除、壊死組織除去作用を有する外用薬の使用を第一選択とするが、これらの選択が難しい場合には、自己融解作用により壊死組織除去環境を創に形成する機能別分類B2のハイドロジェルを使用してもよい。 |
機能別分類(保険償還上の深さによる分類) | ||
ポリウレタンフィルム(包括化) | ||
皮膚欠損用 創傷被覆材 | 真皮に至る創傷用(A) | |
皮下組織に至る創傷用(B) | 標準型(B1) | |
異形型(B2) | ||
筋・骨に至る創傷用(C) |
A.ハイドロジェル
【エビデンスレベル】
壊死組織除去作用に関する論文には、ハイドロジェルとデキストラノマーとのランダム化比較試験が1編1あり、エビデンスレベルIIであるが、壊死組織の除去率では有意差を認めていない。
【解説】
- 乾燥した壊死組織に水分付与し、壊死組織の自己融解環境を形成し壊死組織が除去される。
- シートタイプは創と創周囲皮膚を含めて密着させて被覆し、滲出液の漏れが認められる場合にはドレッシング材の交換を行う。
- 充填タイプは創の深さに応じて皮膚面まで充填して使用する。
- 壊死組織を創底全面に多量に認め創感染のリスクが高いと判断される場合には、創の状況に適する積極的な壊死組織除去を実施してから使用する。
- 滲出液を多量に認め創感染のリスクが高いと判断される場合には創の状態に適する創処置を行い、感染リスクが軽減してから使用する。
【参考文献】
1. | Colin D, Kurring PA, Yvon C. Managing sloughy pressure sores. J Wound Care. 1996;5(10):444-6. |
CQ4 | どのように洗浄を行えばよいか |
推奨
推奨度 C1 | 創傷の処置を行う際には洗浄を行う。洗浄液は、消毒薬などの細胞毒性のある製品の使用は避け、生理食塩水または蒸留水、水道水を使用してもよい。 |
推奨度 C1 | 創傷表面の壊死組織や残留物等を除去するために圧をかけて行ってもよい。 |
推奨度 C1 | 創傷表面から壊死組織や残留物等を除去するために十分な量を用いて行ってもよい。 |
[ポケットのある場合] | |
推奨度 C1 | ポケット内部の壊死組織や残留物等を除去するために十分な圧をかけて行ってもよい。 |
【エビデンスレベル】
洗浄液の種類に関する論文には1件のシステマティック・レビュー1があるが、洗浄液の種類と壊死組織除去に対する有用性には言及していない。また、エキスパートオピニオン以外に洗浄液の種類と壊死組織除去に対する有用性には言及した論文はなく、エビデンスレベルVIである。
エキスパートオピニオン以外に洗浄圧と壊死組織除去率に言及した論文はなく、エビデンスレベルVIである。
エキスパートオピニオン以外に洗浄液の量と壊死組織除去率に言及した論文はなく、エビデンスレベルVIである。
[ポケットのある場合]
エキスパートオピニオン以外にポケット内の洗浄圧と壊死組織除去率に言及した論文はなく、エビデンスレベルVIである。
エキスパートオピニオン以外に洗浄圧と壊死組織除去率に言及した論文はなく、エビデンスレベルVIである。
エキスパートオピニオン以外に洗浄液の量と壊死組織除去率に言及した論文はなく、エビデンスレベルVIである。
[ポケットのある場合]
エキスパートオピニオン以外にポケット内の洗浄圧と壊死組織除去率に言及した論文はなく、エビデンスレベルVIである。
【解説】
- 褥瘡の洗浄に水道水を使用する場合は、創傷全般にわたる院内での洗浄液使用基準に従って行う。
- 創傷面が汚染されている場合は洗浄の量を多くする。
- 創面を愛護的に取り扱いながら洗浄する。
【参考文献】
1. | Fernandez R, et al. Water for wound cleansing. The Cochrane Database of Systematic Reviews, retrived from The Cochrance Library 2004;2:no page (Systematic Review Paper) |
CQ5 | どのような物理療法があるか |
推奨
A.水治療法
【エビデンスレベル】
文献的に壊死組織の除去に関する有効性を検討した文献はなく、エキスパートオピニオンであり、エビデンスレベルVIである。
【解説】
- 外科的デブリードマンに比して、比較的穏やかなデブリードマン効果が期待できる。
B.電気刺激療法
【エビデンスレベル】
文献的に有効性を検討した文献はなく、エキスパートオピニオンであり、エビデンスレベルVIである。
【解説】
壊死組織のある創部に陰極を設置し直流を流すと、陰極の周囲がアルカリ性になり、壊死組織が融解することが基礎研究で明らかになっている。しかし、臨床的な研究はなされていない。