(旧版)褥瘡予防・管理ガイドライン

 
第3章 褥瘡の治療


褥瘡局所治療の概要
I.外用薬について
1.外用薬選択の原則

まず創の深さに着目し、その創傷治癒過程に応じた外用薬を選択する。たとえば、浅い褥瘡の場合には、創面を外力から保護し、適度な湿潤環境を保つことで皮膚の再生を図ることが大切である。この目的にはドレッシング材のほうが適しているが、油脂性基剤や水分含有率の低い乳剤性基剤の外用薬を用いることでも可能である。
一方、深い褥瘡の場合には、壊死組織を除去した上で、肉芽形成を促進し、さらに創の縮小、閉鎖を目指す。それぞれの段階で、壊死組織の除去、滲出液の減少、あるいは、肉芽形成の促進、上皮形成あるいは創収縮の促進効果を有する外用薬を選択する。
また、全経過を通じて感染やポケット形成がみられた場合には、それに適した治療や処置を追加するとともに、外用薬もそれに合った主剤のみならず基剤を選ぶことが大切である。

2.軟膏基剤について
軟膏剤は薬効成分とその保持体となる軟膏基剤からなるが、そのうち軟膏基剤は軟膏剤容量の約99%を占める。そのために、創の状態、特に滲出液の量など湿潤環境に与える影響が大きい。軟膏基剤は疎水性基剤と親水性基剤とに大別され、疎水性基剤は鉱物油や動植物油を原料とした油脂性基剤、また、親水性基剤は、水分と油分を乳化した乳剤性基剤(クリーム基剤)、水溶性のマクロゴール基剤、ゲル基剤などに分類される(表1)。
軟膏基剤は種類によってそれぞれ特性が異なるので、創の状態を把握したうえで、薬効からだけでなく、どのような特性をもった基剤が適当かを考慮し軟膏剤を選択することも大切である。たとえば、油脂性基剤や水分含有率の低い乳剤性基剤の軟膏剤は、創を保護、保湿する目的で使用することが多い。
一方、創の滲出液を吸収させたい場合は水溶性基剤の軟膏剤を、あるいは水分を供給したい場合は水分含有率の高い乳剤性基剤やゲル基剤の軟膏剤を選択する。また、精製白糖を配合した製剤や吸水性ポリマービーズを配合した製剤などは高い吸水力を有しており、大量の滲出液を伴う場合などに用いることができる。
以上のように、軟膏剤は使用されている軟膏基剤から選択することも必要である。また、軟膏剤の単独使用で創の状態に適した基剤を選択できない場合はポリウレタンフィルムなどのドレッシング材を用い、適正な創の湿潤環境を保持する工夫をすることも必要である。

表1 外用薬の軟膏基剤による分類
分類 基剤の種類 外用薬(代表的な製品を示す)
疎水性基剤 油脂性基剤 鉱物性

動植物性
白色ワセリン、プラスチベース
(ワセリン、流動パラフィン)
単軟膏、亜鉛華軟膏
(植物性、豚油、ろう類)
亜鉛華軟膏
アズノール®軟膏 0.033%
プロスタンディン®軟膏 0.003%
親水性基剤 乳剤性基剤 水中油型(O/W) 親水軟膏、バニシングクリーム オルセノン®軟膏 0.25%
ゲーベン®クリーム
油中水型(W/O) 吸水軟膏、コールドクリーム
親水ワセリン、ラノリン
リフラップ®軟膏 5%
ソルコセリル®軟膏 5%
水溶性基剤 マクロゴール軟膏 アクトシン®軟膏 3%
アラントロックス®軟膏
カデックス®軟膏 0.9%
ブロメライン軟膏
ユーパスタ®コーワ軟膏
懸濁性基剤 ハイドロゲル基剤 ソフレット®ゲル 6%
FAPG基剤  


3.外用薬使用時のガーゼについて
一般に外用薬を使用する際の創傷被覆材はガーゼであるが、滲出液が少ない場合に単ガーゼや外用薬を薄く塗布したガーゼで創を覆うと、滲出液はガーゼに吸収され創の乾燥化が起こる。このような場合は、外用薬の塗布量を多くしたり、生理食塩水などを含ませたガーゼを用いたり、あるいは水分含有率の高い乳剤性基剤の外用薬に変更することを考える。
また、滲出液がかなり減少し、創口部分が肥厚して表皮の巻き込みが見られるような場合は、湿潤環境保持の方法として、たとえば外用薬の上から直接、あるいはガーゼの上からポリウレタンフィルムなどで被覆してもよい。
その他、ガーゼが表皮細胞や肉芽に固着して、ガーゼ交換時に再生した創を傷つけることで治癒が遷延することもある。ガーゼの固着を防ぐためには、油脂性基剤の外用薬を多めに使用したり、非固着性ガーゼを使用する。

4.今回検索した薬剤
褥瘡治療に保険適用のある外用薬の中から、本ガイドラインで対象としたのは、『褥瘡の予防・治療ガイドライン』(厚生省老人保健福祉局監修(宮地良樹編)、照林社、1998)に掲載されている薬剤から、発売中止のストレプトキナーゼ・ストレプトドルナーゼを除いてポビドンヨードを追加し、その後に発売されたトラフェルミンを加えた18製剤である(五十音順に示す)。また、「Iをiにする 感染・炎症の制御 CQ3」の項で言及する消毒薬として、創傷部位に使用できる消毒用医薬品13製剤も併せて検索した(五十音順に示す)。

【外用薬】
1.主に滲出液(E)、感染(I)、壊死組織(N)の制御を目的とする外用薬
  • 1) カデキソマー・ヨウ素:カデックス®軟膏0.9%、カデックス®外用散0.9%
  • 2) スルファジアジン銀:ゲーベン®クリーム
  • 3) デキストラノマー:デブリサン®、デブリサン®ペースト
  • 4) フィブリノリジン・デオキシリボヌクレアーゼ配合剤:エレース®
  • 5) ブロメライン:ブロメライン軟膏
  • 6) ポビドンヨード・シュガー:イソジン®シュガーパスタ軟膏、スクロード®パスタ、ソアナース®軟膏、ドルミジン®パスタ、ネグミン®シュガー軟膏、ポビドリン®パスタ、ユーパスタ®コーワ軟膏
  • 7) 硫酸フラジオマイシン・トリプシン:フランセチン®・T・パウダー

2.主に肉芽の形成(G)、創の縮小(S)を目的とする外用薬
  • 1) アルミニウムクロロヒドロキシアラントイネート:アラントロックス®軟膏、アルキサ®軟膏2%、イサロパン®外用散6%、ソフレット®ゲル6%
  • 2) 塩化リゾチーム:リフラップR軟膏5%、リフラップ®シート5%
  • 3) トラフェルミン:フィブラスト®スプレー
  • 4) トレチノイントコフェリル:オルセノン®軟膏0.25%
  • 5) ブクラデシンナトリウム:アクトシン®軟膏3%
  • 6) プロスタグランジン E1:プロスタンディン®軟膏0.003%
  • 7) 幼牛血液抽出物:ソルコセリル®軟膏5%

3.その他の外用薬
  • 1) アズレン:アズノール®軟膏0.033%、ハスレン®軟膏0.033%
  • 2) 酸化亜鉛:亜鉛華軟膏、亜鉛華(10%)単軟膏、ウイルソン軟膏、サトウザルベ軟膏20%、サトウザルベ軟膏10%、酸化亜鉛
  • 3) ポビドンヨード:イソジン®ゲル10%、ネオヨジン®ゲル10%、ネグミン®ゲル10%
  • 4) ヨードホルム:タマガワヨードホルムガーゼ、ハクゾウヨードホルムガーゼ、ヨードホルム
(2008年12月現在)

【消毒薬】
  • 1) アクリノール:アクリノール
  • 2) 塩化ベンザルコニウム:オスバン®、ザルコニン®、ヂアミトール®、ヤクゾール
  • 3) 塩化ベンゼトニウム:エンゼトニン®液、ベゼトン®、ハイアミン液
  • 4) 塩酸アルキルジアミノエチルグリシン:アルキッド液、アルキニン液、ウスノン®液、エルエイジ®液、テゴー51®
  • 5) オキシドール:オキシドール
  • 6) 過マンガン酸カリウム:過マンガン酸カリウム
  • 7) グルコン酸クロルヘキシジン:グルコジン水、ヒビテン®液、ヘキザック®水、マスキン®
  • 8) 塩化メチルロザニリン:クリスタルバイオレット、ゲンチアナバイオレット、ピオクタニン、ピオクタニンブルー
  • 9) ポビドンヨード:イソジン®液、ネオヨジン®液、ネグミン®
  • 10)マーキュロクロム:マーキュロクロム液
  • 11)ヨウ素:プレポダイン®ソリューション
  • 12)ヨードチンキ:ヨードチンキ、希ヨードチンキ
  • 13)ヨードホルム:タマガワヨードホルムガーゼ、ハクゾウヨードホルムガーゼ、ヨードホルム
(2008年12月現在)

5.エビデンスの収集について
臨床上の疑問(Clinical Questions:CQ)すなわちPICOはDESIGNの項目ごとに、たとえば“滲出液”を例に挙げると「○○薬剤は従来の薬剤またはプラセボと比べてEをeにするか?」とし、1980年から2007年12月までのALL EBM Reviews(Keyword:pressure ulcer;Limit to:systematic review)とMEDLINE(Keyword:pressure ulcer and therapy, pressure ulcer and treatment;Limit to:Abstracts, English, Human)、1982年から2007年12月までのCINAHL(Keyword:pressure ulcer and therapy;Limit to:Abstracts, English, Human)、および、1983年から2007年12月までの医学中央雑誌(Keyword:褥瘡性潰瘍、皮膚潰瘍、外用薬名)を検索した。また、各企業に依頼して外用薬の作用機序、効能効果、功罪、および、開発治験の重要論文を提出していただいた。さらに、1980年以前であっても重要論文は引用するとともに、AHCPR Treatment of Pressure Ulcers(1994)、EPUAP Pressure Ulcer Treatment Guidelines(1999)、WOCN Guideline for Prevention and Management of Pressure Ulcers(2003)を参考にした。

 

 
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