(旧版)褥瘡予防・管理ガイドライン
第2章 褥瘡の予防と発生後のケア
褥瘡の予防と発生後のケア Clinical Questions
褥瘡の予防
5.栄養管理
CQ1 | 低栄養患者の褥瘡予防には、どのような栄養介入を行うとよいか |
推奨
推奨度 B | 蛋白質・エネルギー低栄養状態(protein-energy malnutrition:以下PEM)患者に対して高エネルギー、高蛋白質のサプリメントによる補給を行うことが勧められる。 |
【エビデンスレベル】
褥瘡予防には高エネルギー、高蛋白質のサプリメントの補給は効果があるとのシステマティック・レビュー1があり、エビデンスレベル I である。しかし、他の研究において、症例数のばらつき、研究デザインの不十分さから、結果の一貫性が得られていない。
【解説】
- PEM患者に対してはエネルギー、蛋白質、水分の必要量を計算して適切な栄養補給を行うことが褥瘡予防に有効とされる。通常の食事だけでは十分な栄養摂取が不可能なPEM患者に対して高エネルギー、高蛋白質のサプリメントを追加することは褥瘡予防に対して効果があるとされる1,2。
- コクランのシステマティック・レビューでは4文献が評価対象となっているが、1文献3以外は対象症例数が少なく、1日200kcalのサプリメントを15日間追加した群では、対照群に比較して褥瘡発生が少なかった(295例40.6%:377例47.2%)。ただし、他の3文献4,5,6では投与するサプリメントのエネルギー、蛋白質の量については文献により違いがある。他にも症例対照研究7,8,9がいくつかあるが、症例数の少ない文献が多く、研究デザインも不十分であり、結果の一貫性が得られていない。
【参考文献】
1. | Langer G, Schloemer G, Knerr A, Kuss O, Behrens J. Nutritional interventions for preventing and treating pressure ulcers. Cochrane Database Syst Rev. 2003;(4):CD003216. |
2. | Stratton RJ, Ek AC, Engfer M, Moore Z, Rigby P, Wolfe R, Elia M. Enteral nutritional support in prevention and treatment of pressure ulcers: a systematic review and meta-analysis. Ageing Res Rev. 2005;4(3):422-50. |
3. | Bourdel-Marchasson I, Barateau M, Rondeau V, Dequae-Merchadou L, Salles-Montaudon N, Emeriau JP, Manciet G, Dartigues JF. A multi-center trial of the effects of oral nutritional supplementation in critically ill older inpatients. GAGE Group. Groupe Aquitain Geriatrique d'Evaluation. Nutrition. 2000;16(1):1-5. |
4. | Delmi M, Rapin CH, Bengoa JM, Delmas PD, Vasey H, Bonjour JP. Dietary supplementation in elderly patients with fractured neck of the femur. Lancet. 1990;335(8696):1013-6. |
5. | Hartgrink HH, Wille J, König P, Hermans J, Breslau PJ. Pressure sores and tube feeding in patients with a fracture of the hip: a randomized clinical trial. Clin Nutr. 1998;17(6):287-92. |
6. | Houwing RH, Rozendaal M, Wouters-Wesseling W, Beulens JW, Buskens E, Haalboom JR. A randomised, double-blind assessment of the effect of nutritional supplementation on the prevention of pressure ulcers in hip-fracture patients. Clin Nutr. 2003;22(4):401-5. |
7. | Chernoff RS, et al. The eff ect of a very high protein liquid formula on decubitus ulcers healing in longterm tubefed institutionalised patients. J Am Diet Assoc. 1990;90:A-130. |
8. | Ek AC, Unosson M, Larsson J, Von Schenck H, Bjurulf P. The development and healing of pressure sores related to the nutritional state. Clin Nutr. 1991;10(5):245-50. |
9. | Bergstrom N, Braden B. A prospective study of pressure sore risk among institutionalized elderly. J Am Geriatr Soc. 1992;40(8):747-58. |
CQ2 | 経口摂取が不可能な褥瘡患者の栄養補給はどのようにすればよいか |
推奨
推奨度 C1 | 経腸栄養、経静脈栄養によるエネルギー、水分の補給を行ってもよい。 |
【エビデンスレベル】
経腸栄養に関してはランダム化比較試験が1編1あり、エビデンスレベルIIとなるが、褥瘡予防に関する有意差は得られていない。
【解説】
- 必要とされる栄養素量は個人によって異なるが、一般にエネルギー30〜35kcal/kg(現体重)/日、蛋白質1.0〜1.5g/kg(現体重)/日、水分1ml/kcal/日、あるいは30〜50ml/kg(現体重)/日とされている2。ただし、定期的な評価を行って患者の病態や個人差を考慮して栄養管理計画を変更していくことが求められる。
【参考文献】
1. | Hartgrink HH, Wille J, König P, Hermans J, Breslau PJ. Pressure sores and tube feeding in patients with a fracture of the hip: a randomized clinical trial. Clin Nutr. 1998;17(6):287-92. |
2. | ヨーロッパ褥瘡諮問委員会(European Pressure Ulcer Advisory Panel:EPUAP)編著:Nutritional Guidelines for Pressure Ulcer Prevention and Treatment(2003),真田弘美,他 監訳:褥瘡予防と治療のための栄養ガイドライン(非売品).株式会社大塚製薬工場,東京,2007. |
CQ3 | 褥瘡発生の危険因子となる低栄養状態を評価するために、何をアセスメントすればよいか |
推奨
推奨度 C1 | 血清アルブミン値を用いてもよい。 |
推奨度 C1 | 体重減少を用いてもよい。 |
推奨度 C1 | 喫食率(食事摂取量)を用いてもよい。 |
推奨度 C1 | SGA(Subjective global assessment:主観的包括的栄養評価)を用いてもよい。 |
【エビデンスレベル】
血清アルブミン値やSGAに関して10編1,2,3,4,5,6,7,8,9,10の分析疫学的研究があり、エビデンスレベルIVとなる。
体重減少に関しては6編7,9,10,11,12,13の分析疫学的研究があり、エビデンスレベルIVとなる。
喫食率については1編8の分析疫学的研究があり、エビデンスレベルIVとなる。
SGAについては、エキスパートオピニオン以外になく、エビデンスレベルVIとなる。
体重減少に関しては6編7,9,10,11,12,13の分析疫学的研究があり、エビデンスレベルIVとなる。
喫食率については1編8の分析疫学的研究があり、エビデンスレベルIVとなる。
SGAについては、エキスパートオピニオン以外になく、エビデンスレベルVIとなる。
【解説】
- 多くの分析疫学的研究で生化学検査として総蛋白、アルブミン、プレアルブミンなどが挙げられているが、血清アルブミン値が多く用いられており、アルブミンが低値であると褥瘡発生のリスクが高くなる1,2,4,5,6,7,8,9,11,13,14。血清アルブミン値3.5g/dL以下では褥瘡発生のリスクが高いとされている。ただし、血清アルブミン値は脱水などさまざまな要因で変化するため注意が必要である4,8,13。
- 褥瘡予防における栄養の役割についてのエビデンスは不足している15。その原因として褥瘡発生リスク患者は個々の病態による背景の違いがあること、同じカロリーを投与してもその吸収量は個々の症例によって異なること、栄養療法の効果が出現するには時間がかかることなどが挙げられている9。
- 褥瘡予防においても栄養評価を早期に行うことが大切とされている15,16。さまざまなアセスメント項目があるが、最も簡単に栄養状態を把握する項目として体重が挙げられており、体重減少は褥瘡発生のリスク状態と考えられ分析疫学的研究がなされている7,9,10,11,12,13。なかでも1〜6か月の間における意図しない体重減少率は、低栄養状態を示す指標として有用とされる13,16。
- 日本の褥瘡発症例では食事喫食率75%以下が48%に認められている8。また、ブレーデンスケールにおいては食事摂取量が褥瘡発生のリスクアセスメント項目の一つに挙げられており、特に50%以下では褥瘡発生リスクが高くなると考えられている13。その他に、口腔の状態、嚥下機能なども栄養状態に関係しており、総合的な栄養評価を行うことが大切である。
- EPUAPのガイドラインでは、栄養状態のアセスメントとして定期的な患者の体重測定、皮膚アセスメント、食物と水分の摂取の記録を最低限含むことを推奨している16。
- 面接調査によって、病歴、食物摂取に関する変化、消化器症状、疾患と栄養必要量、身体審査等の項目を評価することが多い。なお、NPUAPの推奨事項、WOCNガイドライン、EPUAPのガイドライン14,15,16においても、こうした項目が採用されている。
【参考文献】
1. | Reed RL, Hepburn K, Adelson R, Center B, McKnight P. Low serum albumin levels, confusion, and fecal incontinence: are these risk factors for pressure ulcers in mobility-impaired hospitalized adults? Gerontology. 2003;49(4):255-9. |
2. | Pinchcofsky-Devin GD, Kaminski MV Jr. Correlation of pressure sores and nutritional status. J Am Geriatr Soc. 1986;34(6):435-40. |
3. | 荒川千秋,福田春枝,石川 治,金子由美子.褥瘡予防における栄養補給の有効性の検討.日本褥瘡学会誌.2002;4(3):379-83. |
4. | Mino Y. et al. Risk factors for pressure ulcers in bedridden elderly subjects: Importance of turning over in bed and serum albumin lebel. Geriatric & Gerontology International. 2001;1(1-2):38-44. |
5. | 中條俊夫,大石正平.【高齢者と褥瘡 予防とケアの技法】 褥瘡の予防と管理 栄養管理 特に血清アルブミン及びヘモグロビンのカットオフ値について.Geriatric Medicine. 2002;40(8):1023-8. |
6. | 小長谷百絵,高崎絹子.褥瘡発生予測における栄養指標の開発.日本褥瘡学会誌.2000;2(3):257-63. |
7. | Maklebust J, Magnan MA. Risk factors associated with having a pressure ulcer: a secondary data analysis. Adv Wound Care. 1994;7(6):25, 27-8, 31-4 passim. |
8. | 杉山みち子,他.褥瘡治療・予防に関する栄養ケアの有効性に関する研究.厚生省長寿科学総合研究事業 褥瘡治療・看護・介護・介護機器の総合評価ならびに褥瘡予防に関する研究(主任研究者・大浦武彦)報告書.2000;37-45. |
9. | Langer G, Schloemer G, Knerr A, Kuss O, Behrens J. Nutritional interventions for preventing and treating pressure ulcers. Cochrane Database Syst Rev. 2003;(4):CD003216. |
10. | Guenter P, Malyszek R, Bliss DZ, Steffe T, O'Hara D, LaVan F, Monteiro D. Survey of nutritional status in newly hospitalized patients with stage III or stage IV pressure ulcers. Adv Skin Wound Care. 2000;13(4 Pt 1):164-8. |
11. | Allman RM, Goode PS, Patrick MM, Burst N, Bartolucci AA. Pressure ulcer risk factors among hospitalized patients with activity limitation. JAMA. 1995;273(11):865-70. |
12. | Haydock DA, Hill GL. Impaired wound healing in surgical patients with varying degrees of malnutrition. JPEN J Parenter Enteral Nutr. 1986;10(6):550-4. |
13. | 足立香代子.【褥瘡の予防とその対策】 褥瘡の予防と栄養管理.整形・災害外科.2003;46(7):813-22. |
14. | Rochon PA, Beaudet MP, McGlinchey-Berroth R, Morrow LA, Ahlquist MM, Young RR, Minaker KL. Risk assessment for pressure ulcers: an adaptation of the National Pressure Ulcer Advisory Panel risk factors to spinal cord injured patients. J Am Paraplegia Soc. 1993;16(3):169-77. |
15. | Wound Ostomy and Continence Nurses Society. Guideline for Prevention and Management of Pressure Ulcers, WOCN Society, Glenview, IL. 2003;52. |
16 | ヨーロッパ褥瘡諮問委員会(European Pressure Ulcer Advisory Panel:EPUAP)編著:Nutritional Guidelines for Pressure Ulcer Prevention and Treatment(2003),真田弘美,他 監訳:褥瘡予防と治療のための栄養ガイドライン(非売品).株式会社大塚製薬工場,東京,2007. |