有効性評価に基づく大腸がん検診ガイドライン

 
IV.結果


3.検診方法の不利益

内視鏡検査及び注腸X線に関する不利益に関する報告は表9のとおりである。さらに検診方法別の不利益を検討するため、偽陰性率、偽陽性率及び受診者の負担も加え、各検査方法の対比表を作成した(表10)。大腸がん検診の不利益には、偽陰性率、偽陽性率、偶発症、放射線被曝、感染、受診者の身体的・心理的負担などが該当する。不利益の評価は、比較表に基づき、委員会内で検討した。便潜血検査では、化学法は免疫法と比べると、食事・薬剤制限による受診者の負担が大であった。


表9 内視鏡検査・注腸X線検査における不利益
文献NO 著者・報告団体 発表年 検査方法(前処置) 検査件数 偶発症の種類と頻度 偶発症による死亡と頻度
15 厚生労働省(緊急安全情報) 2003 全大腸内視鏡(経口洗腸剤) 1,772万人 腸管穿孔5人、腸閉塞7人 腸管穿孔による死亡4人、腸閉塞による死亡1人
16 大洋薬品工業 2003 注腸X線検査(大腸検査処置用下剤) 5,362万人 腸閉塞4人 死亡1人
61 Thiis-Evensen, E et al. 1999 S状結腸鏡によりスクリーニング後、全大腸内視鏡検査による精密検査及びポリペクトミー施行。 400人 水中毒1人 なし
67 Atkin WS et al. 1998 軟性S状結腸内視鏡(FS) 1,749人 出血40人(3%)、うち14人はポリペクトミー後で、また生検後の出血で1人。心筋梗塞1人、迷走神経反射1人、下痢の持続1人及び腺腫に対する手術後の死亡1人発生。14%は中等度の痛みを、1.4%は強い痛みを報告。 なし
68 Verne JE et al. 1998 軟性S状結腸内視鏡(FS)と便潜血検査化学法(3日) FS 582人、FOBT 393人、FS+FOBT群376人 FS施行例で偶発症なし なし
69 Kewenter J, et al. 1996 軟性S状結腸内視鏡(FS)、全大腸内視鏡(TCS)、注腸、開腹術 FS 2,108人、TCS 190人、注腸1,987人、開腹104人 内視鏡検査による穿孔1人、polypectomyによる穿孔4人、開腹後の再開腹5人 なし
70 Anderson ML, et al. 2000 軟性S状結腸内視鏡(FS)、全大腸内視鏡(TCS)、(ポリペクトミー) FS 49,501人、TCS 10,486人 FS:穿孔は2人(0.004%)で、うち1人は盲腸が穿孔 TCS:穿孔は20人(0.19%)で、うち12人は診断目的、8人は治療目的 FS:死亡なし TCS:2人(0.019%)
71 野崎良一、他 2001 軟性S状結腸内視鏡(FS)と便潜血検査(FOBT)免疫2日法。 FS+FOBTの受診数41,765人、FOBTの受診数195,753人 なし なし
72 楠山剛紹、他 1997 注腸X線検査(BE)、S状結腸内視鏡(FS)、全大腸内視鏡(TCS) TCS 96,047人、SCS+BE 65,480人、BE 13,265人、生検6,541人 TCS(0.011%):穿孔9人、出血2人 SCS+BE(0.0061%):SCSによる穿孔1人、鎮痙剤にいるショック1人、BEによる粘膜下注入2人、BE(0.0075%):検査後心筋梗塞1人、生検(0.0076%):出血5人 なし
73 日本消化器内視鏡学会消毒委員会 1999 大腸内視鏡

372施設

感染なし なし
84 金子栄蔵、他 2004 大腸内視鏡 大腸内視鏡2,945,518人 2,038人(0.069%) 死亡26人(0.00088%) 死亡原因:穿孔22人、急性心不全3人、脳梗塞1人
91 Blakeborough A 1997 注腸X線検査 1,470人の全英の放射線科医のうちアンケートに回答した815人の報告による738,216人の検査 738,216人の検査で82人の偶発症(0.011%)があり、穿孔が20人、不整脈が22人、敗血症が16人、膣への誤挿入による種々の偶発症が2人である。 738,216人の検査で82人(0.0018%)の偶発症があり、うち、13人の死亡例が含まれている。
92 丸山隆司、他 1996 注腸X線検査   注腸X線検査による実効線量3.5〜4.7mSv  


表10 大腸がん検診における受診者の負担と不利益
偶発症・受診者の負担 直腸
指診
便潜血検査化学法 便潜血検査免疫法 S状結腸鏡検査 全大腸内視鏡検査 注腸X線検査
偽陰性率 報告
なし
20.0〜75.0% 7.1〜70.0% 3.5〜4.2%(観察範囲内) 2.5〜5.0% 0〜20.0%
偽陽性率 報告
なし
2.0〜20.1% 2.4〜30.0% 報告なし 報告なし 報告なし
事前の食事制限 なし あり(肉類など) なし なし〜あり あり(海草・繊維の多い野菜など) 検査食
事前の薬剤制限 なし あり(ビタミンCなど) なし 抗凝固剤 抗凝固剤 なし
薬剤制限による偶発症 - なし - 稀だが、出血・血栓症など 稀だが、出血・血栓症など なし
前処置 なし なし なし 浣腸や刺激性下剤 下剤(PEGなど) 塩類下剤(マグコロールなど)
前処置による偶発症 - - - 腹痛・吐き気など 腹痛・吐き気など。稀だが、穿孔や腸閉塞。 腹痛・吐き気など。稀だが、穿孔や腸閉塞。
前処置による偶発症(死亡) - - - 報告なし あり(4人/約1,772万人) あり(1人/約5,362万人)
前投薬 なし なし なし なし〜あり(鎮痙剤・鎮静剤など) 鎮静剤は66%の施設で使用。鎮痙剤も使用される。 高頻度に使用(鎮痙剤)
前投薬による偶発症 - - - ショック・血圧低下・呼吸抑制など ショック・血圧低下・呼吸抑制など ショック・血圧低下・呼吸抑制など
前投薬による偶発症(死亡) - - - 可能性あり(前投薬使用の場合) あり 可能性あり(前投薬使用の場合)
スクリーニング検査偶発症頻度 なし なし なし 0〜0.0015%(1/65,480) 0.069%(2,038/2,945,518) 0.0051%(4/78,745)
スクリーニング検査偶発症 - - - 出血・穿孔など 出血・穿孔など 便秘・穿孔など
スクリーニング検査偶発症(死亡) なし なし なし なし 0.00088%(26/2,945,518) 報告なし
精密検査の偶発症 あり あり あり あり あり あり
感染対策(消毒) - - - 報告はないが、消毒は必要 報告はないが、消毒は必要 -
放射線被曝 - - - - - あり(3.5〜4.7mSv)
注1) 偽陰性率・偽陽性率の算出方法は、同時法・追跡法などがあるが、その算出条件は研究間で異なる。このため、単純な比較は困難であるが、参考値として、上記表に示している。
(詳細は個別の検査方法の証拠のまとめ参照)
注2) 偶発症の頻度はわが国における報告に基づく
(詳細は個別の検査方法の不利益参照)

 

 
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