(旧版)鼻アレルギー診療ガイドライン -通年性鼻炎と花粉症-
鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会(2005年刊改訂第5版)

 
  
第5章 治療
Treatment


II 治療法

3.薬物療法

7) アレルギー性鼻炎治療薬の副作用・薬剤相互作用

現在使われているアレルギー性鼻炎治療薬はすべて原因療法薬ではなく,症状を緩和する対症療法薬である。このため薬物療法中には有害な副作用や薬剤相互作用の発現に注意し,もし現れたら速やかに対処して患者のQOL改善に役立つ治療法に切り替えなければならない。患者の多くは医師にかかる前に薬局で手に入るOTCの服用歴があるので,これらをよく把握し,治療方針をよく説明して納得の上で治療を開始しないとコンプライアンスは向上しない。
アレルギー性鼻炎治療薬の中心を占める抗ヒスタミン薬は,副作用の少ない第2世代のものが推奨されているが,OTCには第1世代の抗ヒスタミン薬が多く含まれている。第1世代抗ヒスタミン薬は受容体選択性がそれほど高くはなく,また血液脳関門通過性も高いので,中枢抑制作用や消化器・循環器障害が現れやすい(表24)。ことに小児では,痙攣や不穏・不眠・振戦などが出やすいので注意が必要である。第2世代抗ヒスタミン薬はH1受容体選択性が高く,血液脳関門通過性も低いことから,第1世代の薬剤にみられたような副作用は常用量ではほとんどみられない。しかし過量服用では,同じような副作用が出ることが予想されるので,患者の経過観察が欠かせない。また稀ではあるが,肝障害や味覚異常,錐体外路症状などがみられることもある。その他のアレルギー性鼻炎治療薬も副作用の発現率は低く,安全性の高い薬剤であるが,稀にみられる膀胱炎や肝障害などには注意が必要である(表24)。
抗ヒスタミン薬や他のアレルギー性鼻炎治療薬には,動物実験で催奇形性が報告されているものもあるが,ヒトで証明されたものはない。しかしジフェンヒドラミン,塩酸プロメタジン,メキタジン,オキサトミド,トラニラスト,ペミロラストカリウム,ロラタジンなどは妊婦には原則禁忌とされており,また塩酸アゼラスチン,塩酸エピナスチン,クロモグリク酸ナトリウム,ベシル酸ベポタスチン,塩酸レボカバスチンなども妊娠2〜3カ月目の妊婦には投与しないことが望まれている。
鼻腔内の炎症を抑制する作用が最も強い副腎皮質ステロイド薬は,全身投与製剤では多くの副作用や適応禁忌疾患があるが,点鼻薬では鼻出血,眼圧亢進,無嗅覚などが稀にみられる程度で安全性は高い(表24)。しかし過量適用によって吸収されると全身性副作用の出現につながることもあるので,経過観察が欠かせないし,適応禁忌疾患にも気を配る必要がある。副腎皮質ステロイド薬は動物実験で催奇形性が報告されているが,ヒトでは疑問視されている。しかし,妊娠2〜3カ月目の妊婦への投与は慎重に行うことが求められている。
鼻アレルギーではその症状の多彩さに対応した対症療法を行うために,服用する薬の種類も多くなる。薬剤を2剤以上併用すると,体の中では何らかの薬剤相互作用が起きていると考えてよい。アレルギー性鼻炎治療薬と他の薬剤との間で報告されている有害な薬剤相互作用について,その対処を含めて表25〜27に示す。特に注意すべき相互作用としては,抗ヒスタミン薬と中枢抑制薬,飲酒の併用による中枢抑制作用の増悪である(表25)。ことに高齢者ではこの増強作用が出やすく,昏睡,転倒などにより思わぬけがをすることもあるので注意が必要である。現在使用されている第2世代抗ヒスタミン薬や他のアレルギー性鼻炎治療薬には,重大な相互作用は報告されていないが,市販のかぜ薬などに多用されている血管収縮薬は,MAO阻害薬との併用により過大高血圧や脳出血を起こした症例が報告されており,併用が禁止されているので患者教育が欠かせない(表26)。経口ステロイド薬には多くの薬剤との間で相互作用の発生することが報告されており,注意深い経過観察が必要である(表27)。ここにあげた薬剤以外にも,グレープフルーツや民間療法で用いられるハーブ(セントジョーンズワート,イチョウなど)の中には,肝薬物代謝酵素活性に影響を与える成分が含まれているものもあり,きめ細かい問診により患者の服用してきたすべての薬を把握しておくことが重要である。

表24 アレルギー性鼻炎治療薬の注意すべき副作用と適応禁忌疾患
治療薬 注意すべき副作用 適応禁忌疾患
第1世代抗ヒスタミン薬
 ジフェンヒドラミン
 d-マレイン酸クロルフェニラミン
 塩酸プロメタジンなど
鎮静,傾眠,倦怠感,脱力,運転能力低下→脳内H1受容体遮断
口渇,乏尿,頻脈,便秘,眼圧亢進→抗コリン作用
めまい,起立性低血圧→α受容体遮断
QT延長,心室性不整脈→Kチャネル阻害
過量→催眠,昏睡,記憶障害,ジスキネジア,幻覚,悪性症候群,小児痙攣・多動症・不眠,乳幼児無呼吸・突然死
緑内障
前立腺肥大
(妊婦)
第2世代抗ヒスタミン薬
 塩酸アゼラスチン
 フマル酸エメダスチン
 オキサトミドなど
肝障害,味覚異常,錐体外路症状,アナフィラキシー,皮膚粘膜眼症候群,中毒性表皮壊死症,血小板減少 (妊婦)
抗プロスタグランジンD2
トロンボキサンA2
 ラマトロバン
肝障害,黄疸,出血傾向  
抗ロイコトリエン薬
 プランルカスト水和物
肝障害,アナフィラキシー,白血球減少,血小板減少,肺炎,横紋筋融解症,Churg-Strauss症候群,下痢,腹痛  
ケミカルメディエター遊離抑制薬
 トラニラスト
 クロモグリク酸ナトリウム
膀胱炎,肝障害,黄疸,腎障害,白血球減少,血小板減少,アナフィラキシー (妊婦)
Th2サイトカイン阻害薬
 トシル酸スプラタスト
肝障害,黄疸,ネフローゼ  
鼻噴霧用ステロイド薬
 プロピオン酸ベクロメタゾン
 プロピオン酸フルチカゾン
鼻出血,無嗅覚,アナフィラキシー,眼圧亢進,緑内障 呼吸器感染症,結核,真菌症,高血圧,糖尿病
(妊婦)
経口ステロイド薬
 ヒドロコルチゾン
 プレドニゾロン
 トリアムシノロン
 デキサメタゾン
 ベタメタゾン
副腎萎縮,骨折,緑内障,白内障,感染症増悪,糖尿病,消化性潰瘍,精神障害,小児発育抑制 感染症,真菌症,消化性潰瘍,精神病,白内障,高血圧,電解質異常,血栓症,心筋梗塞
(妊婦)
点鼻用血管収縮薬
 硝酸ナファゾリン
 オキシメタゾリン
 塩酸トラマゾリン
 テトラヒドロゾリン
 塩酸フェニルプロパノールアミン
習慣性,耐性,リバウンド鼻閉悪化・難治性鼻炎
過量→昇圧,ショック,不規則呼吸,頻脈,反射性徐脈,狭心症
2歳未満乳幼児,緑内障

表25 抗ヒスタミン薬の薬剤相互作用
抗ヒスタミン薬 併用薬 現れる影響 対処
第1世代
抗ヒスタミン薬
アルコール
鎮静・催眠薬
向精神薬
中枢抑制増強
  ↓
催眠,めまい,脱力,倦怠感
併用注意
  ↓
影響でたら減量
三環系抗うつ薬
抗コリン薬
抗コリン作用増強
  ↓
緑内障悪化,腸閉塞,記憶障害
併用禁忌
MAO阻害薬
カテコールアミン
取り込み阻害による増強
  ↓
頭痛,不整脈,高血圧,脳出血
ステロイド薬 肝薬物代謝酵素誘導
  ↓
血中濃度低下,作用減弱
併用注意
  ↓
影響でたら増量
第2世代
抗ヒスタミン薬
アルコール
鎮静・催眠薬
向精神薬
かぜ薬
中枢抑制増強
  ↓
催眠,めまい,脱力,倦怠感
併用注意
  ↓
影響でたら減量
      フマル酸ケトチフェン トルブタミド 血小板減少
  ↓
出血傾向
併用注意
  ↓
影響でたら併用中止
オキサトミド 抗精神病薬
三環系抗うつ薬
消化管機能改善薬
抗不整脈薬
錐体外路障害
  ↓
振戦,歩行困難
併用注意
  ↓
影響でたら併用中止
三環系抗うつ薬
抗コリン薬
抗コリン作用増強
  ↓
口渇,緑内障悪化
β2刺激薬
テオフィリン
振戦悪化
エバスチン エリスロマイシン 肝薬物代謝酵素阻害
  ↓
血中カレバスチン濃度上昇
併用注意
  ↓
影響でたら減量
塩酸フェキソフェナジン 制酸薬 吸収率低下
  ↓
作用減弱
併用注意
  ↓
影響でたら併用中止
エリスロマイシン 吸収率上昇・クリアランス低下
  ↓
血中濃度上昇
併用注意
  ↓
影響でたら減量
ロラタジン エリスロマイシンシメチジン 肝薬物代謝酵素阻害
  ↓
血中濃度上昇
併用注意
  ↓
影響でたら減量

表26 アレルギー性鼻炎治療薬の薬剤相互作用
治療薬 併用薬 現れる影響 対処
ケミカルメディエター遊離抑制薬
 トラニラスト
ワルファリンカリウム 肝薬物代謝酵素阻害
  ↓
出血傾向
併用注意
  ↓
影響でたら併用中止
抗ロイコトリエン薬
 プランルカスト水和物
イトラコナゾール
エリスロマイシン
肝薬物代謝酵素阻害
  ↓
血中濃度上昇
併用注意
  ↓
影響でたら減量
抗プロスタグランジンD2
トロンボキサンA2
 ラマトロバン
抗血栓症薬 血小板凝集能抑制作用増強
  ↓
出血傾向
併用注意
  ↓
影響でたら併用中止
アスピリン 血漿蛋白結合率低下
  ↓
遊離型血中濃度上昇
テオフィリン 肝代謝酵素競合
  ↓
血中濃度上昇
血管収縮薬 MAO阻害薬 α作用増強
  ↓
高血圧,脳出血
併用禁忌

表27 副腎皮質ステロイド薬の薬剤相互作用
ステロイド薬 併用薬 現れる影響 対処
経口ステロイド薬
 コルチゾン
 ヒドロコルチゾン
 プレドニゾロン
 メチルプレドニゾロン
 トリアムシノロン
 デキサメタゾン
 ベタメタゾン
抗てんかん薬
リファンピシン
肝薬物代謝酵素誘導
  ↓
血中濃度低下
併用注意
  ↓
影響でたら増量
エリスロマイシン
ケトコナゾール
シクロスポリン
肝薬物代謝酵素阻害
  ↓
血中濃度上昇
腎機能検査
  ↓
影響でたら減量
利尿薬
カルベノキソロン
ジギタリス
低カリウム血症
  ↓
浮腫,心不全悪化
血清カリウム値モニター
  ↓
影響でたら併用中止
糖尿病治療薬 血糖上昇
  ↓
糖尿病悪化
血糖値モニター
  ↓
影響でたら併用中止
非ステロイド系抗炎症薬 胃腸障害悪化 併用注意
  ↓
影響でたら減量
テストステロン 浮腫 併用注意
  ↓
影響でたら利尿薬投与
降圧薬 降圧作用減弱 血圧モニター
  ↓
影響でたら併用中止
ワルファリンカリウム 抗凝血作用減弱 プロトロンビン時間モニター
  ↓
影響でたら併用中止
制酸薬 ステロイド吸収率低下 併用注意
  ↓
影響でたら併用中止
鼻噴霧用ステロイド薬
 プロピオン酸ベクロメタゾン
 プロピオン酸フルチカゾン
経口ステロイド薬 相加的協力作用 併用注意
投与量減量

参考文献
1) 上川雄一郎:薬物相互作用.アレルギー 46:475-482,1997.
2) 上川雄一郎:抗ヒスタミン薬の進歩と副作用―眠気と血液−脳関門通過性―.新薬と臨床 48:39-47,1999.
3) 上川雄一郎:抗ヒスタミン薬の進歩と副作用(2)―心毒性と薬物相互作用―.新薬と臨床 48:1235-1245,1999.
4) 上川雄一郎:抗ヒスタミン薬の進歩と副作用.Prog. Med. 20:158-169,2000.
5) 上川雄一郎:鼻アレルギー治療薬の薬剤相互作用―特に花粉シーズンの他疾患治療薬との関係―.Prog. Med. 23:3169-3173,2003.
6) Simons, F. E. R.:Advances in H1-antihistamines. N. Engl. J. Med. 351:2203-2217,2004.
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