(旧版)胃癌治療ガイドライン(医師用)2004年4月改訂[第2版]

 
 
ガイドライン各論


II 胃癌の治療法の種類とその適応

化学療法

切除不能進行・再発胃癌に対する化学療法は最近の進歩により高い腫瘍縮小効果(奏効率)を実現できるようになった。しかし,化学療法による完全治癒は現時点では困難である。国内外の臨床試験成績からは生存期間の中央値(median survival time, MST)はおおよそ6〜9ヵ月である。癌の進行に伴う臨床症状発現時期の遅延および生存期間の延長が当面の治療目標である。
化学療法の臨床的意義は,PS 0-2の症例を対象とした,抗癌剤を用いない対症療法(best supportive care, BSC)群と化学療法群との無作為化比較試験において化学療法群に生存期間の延長が検証されたことからその有用性が認められている67,68,69,70)(レベル1)(表11)。また少数例ではあるが長期生存(5年以上)も得られている。したがって,切除不能進行・再発癌,非治癒切除症例に対して化学療法は第一に考慮されるべき治療法と考えられる。

適応の原則:
切除不能進行・再発症例,あるいは非治癒切除(根治度C)症例で,全身状態が比較的良好,主要臓器機能が保たれている症例。

具体的な適応条件:
PS 0-2で,sT4あるいは高度リンパ節転移症例(N3多数),P1,H1以上またはその他のM1を有する初回治療あるいは再発症例,非治癒切除症例。

胃癌に対する標準的化学療法として,フッ化ピリミジン(5-FU等)と cisplatin(CDDP)を含む化学療法が有望であるが,国内外の臨床試験成績からも現時点で特定のレジメンを推奨することはできない。

コメント
適応規準(レベル2):化学療法実施の際には,以下の条件を参考として適応を判断することが望ましい。
  1) 臨床診断,病理組織診断が確認されている。
  2) PS 0-2を対象とする。PS 3以上は全身状態を考慮して投与を判断する。
  3) 主要臓器機能が保たれている。
   
(1) 骨髄(白血球>4,000/μl,血小板>100,000/μl を原則とする)
(2) 肝機能(T. Bil<2.0mg/dl,AST/ALT<100IU/L を原則とする)
(3) 腎機能(S-Cr:施設正常値上限以下を原則とする)
  4) 適切なインフォームド・コンセントに基づき,患者本人から同意が得られている。
  5) 重篤な合併症を有さない。
2 治療実施に関連した注意点(レベル4)
  1) 治療開始に先立ち,治療前のPS,体重,発熱の有無,自覚症状(例えば食欲低下,下痢,嘔吐など),血液検査を確認する。異常(値)を認める際には延期を検討する。外来治療時にも,可能な限り当日の至急検査結果を確認して抗癌剤投与・継続の可否を判断する。
  2) 継続投与の場合には,前回投与時およびその後の経過において治療関連の有害事象の有無,腫瘍関連症状の有無等を詳細に検討し,継続可否の判断を行う。
  3) 治療コースを繰り返す場合には,蓄積性の有害事象(食欲不振,倦怠感,下痢,皮膚障害,味覚障害など)の変化に注意する。必要であれば治療を中断し,回復を待つ。
  4) 治療効果判定は,CT,内視鏡,上部消化管造影など適切な画像診断を用いて奏効度(日本胃癌学会胃癌取扱い規約,response evaluation criteria in solid tumors, RECISTなどによる)を判定する。明らかな増悪がない場合には,原則として同一治療を繰り返し継続する。なお,腫瘍マーカーの変動は参考に留める。
  5) 前治療コースで重篤な有害事象が発現した場合には,上記の適応規準に回復した後に評価を行い臨床的に有効性が期待できれば,投与量の減量,投与間隔の延長などを行い治療継続することは可能である。
3 最近,単剤,併用療法で全身投与として使用頻度の多いものは以下の薬剤である(レベル2)。5-FU,mitomycin C,CDDP,irinotecan(CPT-11),docetaxel,paclitaxel,tegafur/uracil,5'-doxifluridine,S-1などや,5-FU+CDDP,methotrexate(MTX)+5-FU+leucovorin,5-FU+l-leucovorin(l-LV),irinotecan+CDDPなどが臨床応用されている。最近では,30〜50%程度の高い奏効率を示す治療法も多く報告されているが,奏効率と延命効果,QOLは必ずしも相関せず,最終的には生存期間を指標とした第III相比較試験を実施することにより臨床的有用性を検証する必要がある。現時点では化学療法による生存期間の延長は確認されたが,国内外の第III相試験成績から単一の標準的治療レジメンを推奨することはできない(レベル1)。すなわち,現状における化学療法はすべて試験的段階であるという認識が必要である。これまでの主な第II相試験71,72,73,74,75,76,77,78,79,80,81,82,83,84,85)を表12に,第III相試験86,87,88,89,90,91,92,93,94,95,96)を表13に示した。
4 欧米では,無作為比較試験の結果 FAMTX(5-FU+ADM+MTX)が FAM(5-FU+ADM+MMC)よりも臨床上優れていた88)ことから,これを標準的治療とする考え方があったが,その後他の併用療法との比較試験により否定されている。西欧ではECF(epirubicin+CDDP+5-FU)93),米国ではDCF(docetaxel+CDDP+5-FU)96)を新しい標準治療として推す意見がある。しかし,これらの治療法の原法による治療は毒性が強く,治療関連死も報告されており,国内での導入には慎重な用量設定試験が必要である。薬剤の耐用量は人種差や個人差が認められ,また医療環境の違いもあるため,欧米におけるレジメンをそのままわが国に適応することには慎重でなければならない。
5 国内では,UFT+MMC,5-FU+CDDP(FP)について5-FU単独を対照とした第III相試験JCOG9205の成績95)が報告されている。奏効率はそれぞれ8.6%,34.3%,11.4%であったが,主評価項目であるMST は6.0ヵ月,7.3ヵ月,7.1ヵ月,1年生存率は15.7%,28.9%,27.9%と 5-FU単独との間に有意差を認めなかった(レベル1)。
6 現時点において,臨床上最も重要である生存期間の延長について5-FU 単独を対照とした第III相試験で再現性をもって有用性を検証した治療法はない。今後は併用第I/II相試験により新規併用療法を評価し,第III相試験による延命効果の検証が必須である。irinotecan+CDDPやS-1+CDDPなど新規併用療法が検討され現在第III相試験で検証されている。JCOG9912において5-FU単独/irinotecan+CDDP/S-1単独,市販後臨床試験として5-FU+l-LV/S-1 単独,S-1単独/S-1+CDDPの3種類の第III相試験が実施されており,これらから国内における標準治療が確立されることが期待される。各試験で採用されている投与法は表14の通りである(レベル2)。なお,低用量FPについては,今後比較試験の実施が必要である。
7 癌性腹膜炎に対する化学療法については,腹水貯留,消化管閉塞,経口摂取不良,低タンパク血症などの合併により全身状態が比較的不良であり注意を要する。MTX+5-FU併用療法で腹水減少などの臨床効果の報告があるが,血液毒性や重篤な下痢の発生があり,治療関連死亡も報告されているので慎重な症例選択と十分な有害事象管理を行わなければいけない。その他,taxane系薬剤や経口可能な症例ではS-1において奏効例が報告されている(レベル3)。
8 前治療として抗癌剤治療が実施された症例において,治療終了後短期間で再発あるいは治療中に増悪した症例では一般に前治療で使用されていない薬剤を選択して二次治療を行う。現状では,二次治療により生存が延長するという証拠はない。また,病状進行に伴い全身状態が低下していることが多いので,有害事象の発生や重篤度には十分な注意が必要である(レベル3)。
9 PS3-4,あるいは高度の臓器障害のある患者は一般に適切な対症療法の適応であるが,敢えて化学療法を行う場合はそのリスクについて充分な説明と同意(IC)を行う必要がある。化学療法により症状コントロールができない場合は他治療に切り替えるなど,適切な対応が必要であり,漫然と無効な治療を継続することは厳に慎むべきである(レベル4)。
10 最近,奏効率の高い薬剤,あるいは併用療法が報告されている。しかし,同時に強い有害事象を伴うので,適切な対応が必要である。化学療法歴を有する再発抵抗性症例に対して,これらの治療を行う場合は治療効果や有害事象が初回治療患者と異なることがあるので,慎重な配慮が必要である。
11 抗癌剤治療は安易に施行すべきではなく,十分に修練をつんだ専門家,あるいはその指導のもとに施行すべきである。

注)エビデンスレベルは基本的には AHCPR(Agency for Health Care Policy and Research)の基準に準拠した。おおよその目安は下記のとおりである。
     レベル1: 第III相試験(複数あるいは単一でも可)の成績があり同じ傾向が認められる。
  レベル2: 複数の第II相試験(統計学的に十分な症例数をもった試験)で同じ傾向が認められている。
  レベル3: 十分な臨床試験成績がない。症例報告が数件ある。
  レベル4: 臨床経験に基づく,あるいは専門家グループの意見や報告がある。

表11 切除不能症例における抗癌剤治療群とBSC(best supportive care)群の比較試験成績
報告者(報告年) レジメン 症例数 奏効率 生存期間(月) P value
Murad(1993) FAMTX
BSC
30
10
50%
-
10   
3   
P=0.001
Glimelius(1994) ELF
BSC
10
8
30%
-
10   
4   
P<0.02
Pyrhonen(1995) FEMTX
BSC
21
20
29%
-
 12.3
3.1
P=0.0006
中村(1995) BSC 28   3.6  
FAMTX:5-FU, ADM, methotrexate(MTX)
ELF:etoposide, 5-FU, leucovorin
FEMTX:5-FU, epirubicin, MTX


表12 切除不能進行胃癌に対する主なレジメンの臨床第II相試験成績
報告者(報告年) レジメン 症例数 奏効率(%) 生存期間(月)
MacDonald(1980) FAM 656 30 6-9+
Woolley(1981) FAP 234 34 6-13+
Klein(1986) FAMTX 364 41 3.5-10.5
Preusser(1989) EAP 173 53 6-9
Wilke(1990) ELF 51 53 11
Findlay(1994) ECF 139 71 8.2
村上(1987) MTX+5-FU 37 41 7.6
Koizumi(1993) 5’-DFUR+CDDP 43 50 8.9
Ohtsu(1994) 5-FU+CDDP 55 43 7
赤沢(1995) 5-FU/l-LV 70 30 9.2
Boku(1999) CPT-11+CDDP 44 48 9.7
Sakata(1998) S-1 51 49 8.9
Koizumi(2000) S-1 43 44 7.4
Roth(2000) docetaxel+CDDP 48 56 9
Koizumi(2003) S-1+CDDP 25 76 12.6
FAM:5-FU, adriamycin(ADM), mitomycin C(MMC);FAP:5-FU, ADM, CDDP;
FAMTX:5-FU, ADM, methotrexate(MTX);EAP:etoposide, ADM, cisplatin(CDDP);
ELF:etoposide, leucovorin, 5-FU;ECF:epirubicin, CDDP, 5-FU


表13 切除不能進行胃癌に対する第III相試験成績
報告者(報告年) レジメン 症例数 奏効率 生存期間(月) P value
Cullinan/NCCTG
(1985)
5-FU
5-FU+A
FAM
51
49
51
18  
27  
38  
7  
7  
7  
NS
Kurihara/JCOG8501
(1991)
FT+MMC
UFT+MMC
97
86
7.8
25.3
6  
6  
NS
Wils/EORTC
(1991)
FAM
FAMTX
103
105
9  
41  
7.2
10.5
P=0.004
Kelsen/MSKCC
(1992)
FAMTX
EAP
30
30
33  
20  
7  
6  
NS
Kim/Korea
(1993)
5-FU
FAM
5-FU+CDDP
94
98
103
26  
25  
51  
7.5
7  
9.2
NS
Cullinan/NCCTG
(1994)
5-FU
FAMe
FAMe+TZT
FAP
69
53
79
51
-   
-   
-   
-   
6.1
6.1
7.7
-  
NS
Cocconi/ITGCR
(1994)
FAM
PELF
52
85
15  
43  
5.6
8.1
NS
Webb/MRC
(1997)
ECF
FAMTX
126
130
46  
21  
8.7
6.1
P=0.0005
Vanhoefer/EORTC
(2000)
FAMTX
ELF
5-FU+CDDP
85
79
81
12  
9  
20  
6.7
7.2
7.2
NS
Ohtsu/JCOG9205
(2003)
5-FU
UFT+MMC
5-FU+CDDP
105
70
105
11  
9  
34  
7.1
6  
7.3
NS
Ajani/V325
(2003)
5-FU+CDDP(CF)
docetaxel+CF
112
111
23  
39  
8.5
10.2
P=0.0064
FAM:5-FU, adriamycin(ADM), mitomycin C(MMC);FAMTX:5-FU, ADM, methotrexate(MTX);
EAP:etoposide, ADM, cisplatin(CDDP);FAMe:5-FU, ADM, methyl lomustine(CCNU);
FAMe+TZT:5-FU, ADM, methyl CCNU, triazinate;FAP:5-FU, ADM, CDDP;
PELF:CDDP, epirubicin, leucovorin, 5-FU;ECF:epirubicin, CDDP, 5-FU


表14 第III相試験で試験中の治療法一覧
レジメン 投与量 投与方法 投与日 投与間隔
5-FU単独 800mg/m2/日 持続点滴 第1-5日持続 4週毎
CPT-11
+CDDP
70mg/m2/日
80mg/m2/日
90分点滴
120分点滴
第1日と第15日
第1日のみ
4週毎
S-1単独 80-120mg/日 経口内服 28日内服 6週毎
5-FU
+l-LV
600mg/m2/日
250mg/m2/日
1時間後静注
2時間点滴
第1,8,15,22,
29,36日
8週毎
S-1
+CDDP
80-120mg/日
60mg/m2/日
経口内服
120分点滴
第1-21日内服
第8日のみ
5週毎
 
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