(旧版)尿路結石症診療ガイドライン 2013年版

 
2 診断・治療
総論
1尿路結石外科的治療の変遷
30 数年前の内視鏡を用いた体内式結石破砕術(TUL とPNL)と,その数年後に導入された体外衝撃波結石破砕術(ESWL)の開発により,腎切石術,腎盂切石術,尿管切石術などの開放手術が激減し,コペルニクス的な転回を遂げたことは広く知られるところである。
当時のESWL の適応は「腎内のサクランボ大までの結石」までであったが,導入後間もなく尿管結石から腎内のより大きな結石まで早々に適応拡大された。このような治療法の変化は欧米でも同様であったが,特に日本においては,ESWL が1984 年に国内に導入された当時は自費治療であったものが,1984 年12 月に保険収載されてからESWL 用の破砕装置の導入が一気に加速し,尿路結石に対し多くの施設でESWL を中心とした破砕治療が実施され,尿路結石破砕治療の90%を占めるに至った1)。2009 年の時点で国内のESWL 用破砕装置の設置台数は1,000台を超え,人口当りでみるとアメリカの2 倍近い設置台数となっていた。同じ結石破砕術であっても,体外式には体内式のような手技自体の難しさはなく,また,第1 世代の結石破砕装置の治療成績は優れたものであった。その後,麻酔を必要としない外来治療も可能な新しい世代のESWL 用破砕装置が続々と導入され,このようなESWL 一辺倒の偏りを一層助長したとみられる。
現実にはCQ18に提示されるような,ESWL のみで治療完結できない尿路結石は少なからず存在するわけで,ESWL を繰り返すだけの治療が行われていた症例が多数存在していた可能性は否定出来ない。さらにいうならば,第1 世代の破砕装置に比べて後続の機器の治療成績はこれを凌駕するものではなかった。
しかし,近年における尿管鏡の改良とレーザー破砕機の開発・普及に起因するr-TUL(rigidTUL;硬性鏡によるTUL),f-TUL(flexible TUL;軟性鏡によるTUL)症例が増加する傾向にあり,治療成績と合併症においても大きな改善が認められ,ESWL 一辺倒の状況から変化してきた2)
f-TUL は25 年前から実施されてきた手技であるが,近年におけるこの手技の確立の効能は特に腎結石において顕著で,それまでは侵襲度において大きく異なるESWL かPNL の二者択一の選択肢しかなかったところに,f-TUL が加わったことはきわめて大きな意味を持つといえる。今回のガイドライン改訂においても,尿管結石の治療方針腎結石の治療方針でf-TUL が大きくクローズアップされている。
さらに,PNL においても20Fr 以下の細径の外筒を用いるmini-perc や軟性腎盂鏡導入,体位を工夫したPNL とf-TUL の同時施行等の進展がある。さらには,腹腔鏡手術技術の熟練化により,尿管切石術のみならず,腎盂切石術をも安全に施行したとする報告が相次ぎ,f-TULの確立が尿路結石の破砕治療に存在感を示したかと思う間もなく,このような腹腔鏡を用いた尿路結石治療が実用的な治療法として提案され,ESWL,TUL,PNL,腹腔鏡手術の四つ巴の,まさしく群雄割拠の時代がすぐそこまで迫っているのかもしれない。
2最近の知見
尿路結石の診断法や外科的治療に踏み切る際の判断も,以前に比べて少しずつ変化の兆しが見いだせる。最近における急性腹症ないしは尿路結石の診断には,CQ7にあるように単純CT が強く推奨されている。また,CQ8910に示すように,近年欧米からMET(medical expulsive therapy)すなわち,自然排石を期待出来る大きさの尿管結石(10 mm 以下の大きさ)に対しては,薬剤を用いて促進するという考え方が提唱されてきた。しかし,小さな尿管結石でも1 か月を超えて自然排石されない場合や,CQ8に示すような薬剤で疼痛管理が出来ない症例においては,何らかの外科的治療が必要とされる。
近年,軟性腎盂尿管鏡で腎杯乳頭部分に結晶の塊であるRandall’s plaqueを観察する機会が増えている。これらはCT や超音波等で捉えることは出来ても,ESWL で破砕し排石を期待することは困難であり,当面経過をみてよい無症候性の結石である。小さな下腎杯結石に対する判断も同様で,治療適応があるのか否かを十分に検討し,患者側と症候との関連性を確認した上で治療適応を判断すべきである。ESWL には長期的な合併症や腎機能への影響もある。無駄な治療を画策してしまう危うさを常にかえりみなければならない(CQ11)。
サンゴ状結石は本来治療されるべき結石であるが,患側の腎機能低下症例では腎臓摘出も考慮すべきであるし,高齢者に偶発的に発見された症例では,治療による不利益と結石を除去する事の利益を十分に天秤にかけた上で治療適応を考えるべきであろう(サンゴ状結石の治療方針CQ12)。CQ13に示すごとく,妊婦の尿路結石の診断手技と疼痛管理は習得しておかねばならない。妊娠中の生理的水腎症は右に多い(左尿管はS 状結腸の存在が子宮による圧迫を回避)こと,積極的治療法としてはTUL とPNL はグレードB で推奨されることを記してある。
小児症例においても,成人同様開放手術が第1 選択とはならないことと,ESWL は患側腎に瘢痕形成をきたすことはないことがCQ14で述べられている。
3各破砕治療法の総論
a)体外衝撃波結石破砕術(extracorporeal shock wave lithotripsy:ESWL)
ESWL と略されるが,この呼称は25 年前にESWL 用体外衝撃波結石破砕装置(Lithotriper)の第1 号機(第1 世代Lithotripter)を世に送り出した当時の西ドイツのドルニエ社が登録した名称であり,欧米ではSWL と表記することが多い。しかしこのガイドラインにおいては,従来通りESWL と表記することとする。
体外衝撃波結石破砕術(ESWL)は読んで字のごとく,体外で発生させた衝撃波により人体内の結石を破砕する方法で,尿路結石以外にも胆道結石,唾石,膵臓結石の破砕や整形外科領域にも応用される。一部麻酔を必要とする破砕機もあるが,多くは無麻酔,外来治療が可能で,最もpatient friendly な治療法である。
結石破砕のメカニズムについて,当初は衝撃波(shock wave:SW)が水と音響学的インピーダンス(acoustic impedance:AI)が非常に近い人体内を通過し,AI が水と大きく異なる結石との境界面に生ずる圧縮力と引っぱり力により結石が破砕されるとされていたが,現在ではこれ以外にも以下のような理論が提唱されている3)。①引っぱり力と剪せん断だん応力(tensile and shearstress),②気泡化(cavitation),③準静的圧潰(quasistatic squeezing),④動的疲労(dynamicfatigue)などである。このような複雑なメカニズムにより結石は破砕され,特にcavitation が血管壁に作用して副作用の原因となる可能性があり,CQ17に示されるような様々な合併症が起こるとされる。
ESWL は全ての部位の尿路結石が治療対象となるが(膀胱結石は治療可能であるが保険適用外),CQ9にあるようにESWL が困難と思われる結石環境もある。腎機能を考慮するならばCQ16に示すようなESWL の治療間隔や,SW の至適パルス数(1 Hz)にも留意すべきである。CQ13CQ20に示すごとく禁忌または慎重実施の症例もある。U3 結石での女性症例における妊孕性への影響についてはこれを否定するエビデンスはないため,利益と不利益のバランスを考慮した上で,現場での判断に委ねられる。尿管ステント留置を併用するESWL はけっして排石効率は高めないが,大きな結石では破砕片による尿管閉塞を回避するため意義はある(CQ13)。ESWL は小児症例における患側腎の瘢痕形成はなく,以後の腎の発育形成に影響は少ないとされる(CQ14)。
b)経尿道的結石破砕術(transurethral lithotripsy:TUL)
近年における6Fr までに細径化された半硬性尿管鏡と,優れた視野と屈曲角を持つ細径の軟性腎盂尿管鏡の開発とレーザー破砕装置の普及,レーザープローブの細径化,各種カテーテル類,Nitinol 素材のバスケットカテーテルなどの優れた周辺機器の開発により,尿路結石破砕治療のうちで長足の進歩を遂げたのがこの領域である。その昔,8Fr または10Fr の尿管鏡を尿管内に挿入することには,ある程度の技術と経験が要求されたが,6Fr 尿管鏡による操作はかなり容易になり,合併症も相当に減ってきたのが普及の大きな根拠になっている。
しかし,CQ21にあるように,f-TUL で用いるアクセスシースによる尿管への侵襲は軽視できず,長時間に及ぶ処置は慎重にならなければならない。r-TUL ではレーザー破砕装置の他,圧縮空気式破砕装置(pneumatic system),電気水圧破砕装置(electrohydraulic system:EHL)も使用出来るが,f-TUL では圧縮空気式破砕装置は使用出来ない(CQ24)。
TUL,f-TUL による尿管結石の破砕治療は,尿管結石の治療方針で引用したEAU がまとめたESWL との完全排石率(stone-free rate:SFR)の比較にあるように,ほとんどの結石部位と結石の大きさにおいてESWL を凌駕しているのが現実である。しかし,あくまでも熟練施設における治療結果でありどの施設でも出せる結果ではなく,また,r-TUL/f-TUL は入院と麻酔を要するが,ESWL は無麻酔,外来治療が可能である事実は翻せない。
従来のTUL(r-TUL)はほとんど尿管結石に限られた手技であったが,f-TUL が効果的に実施出来るようになった現在,20 mm までの腎結石や尿管の屈曲を伴う尿管結石症例の破砕治療において存在感を示している(腎結石の治療方針)。それ以上の大きさの腎結石においても,分割破砕することにより破砕治療は可能である(staged procedure)。
なお,TUL 術後のステント留置については,術後の尿管閉塞や尿管狭窄を予防するとされていたが,最近の報告では非留置群との有意差はない。そのため,ステント留置は必須ではなく,膀胱刺激症状や血尿の合併率も高いことから,そのメリットとデメリットを十分に患者側に説明する必要があるとされる(CQ22)。
c)経皮的結石破砕術(percutaneous nephro-uretero lithotripsy:PNL)
PNL は20 mm 以上の大きな結石,サンゴ状結石の破砕治療とUPJ 狭窄,尿管狭窄合併症例などで第1 選択とされるが,結石破砕治療の中で最も技量と経験が要求される手技であり,CQ252627に示されるように様々な合併症がある。CQ24に示すような多種多様な破砕装置が使用出来る。
PNL 成功の鍵は適切な腎瘻の作成である(サンゴ状結石の治療方針CQ23)。腎瘻は1 本のこともあれば数本に及ぶこともある。近年においては,20Fr 以下の外筒を用いるmini-perc,軟性腎盂鏡を用いたPNL,体位を工夫しf-TUL とPNL を同時に実施する症例の報告もなされている。
d)開放手術
ESWL,TUL,PNL を行っても治療が完遂できなかった症例や,治療困難が予測される症例においては開放手術の実施も止むなしとされていたが,次の項に示す腹腔鏡による処置が多数報告されてきた現状では,開放手術はこれに取ってかわられる可能性を秘めている。
e)腹腔鏡下切石術
腎の回転異常を合併する症例や馬蹄腎などの腎の奇形,異所性腎症例に対する腎盂切石術の報告例がある4〜6)。単純な腎盂結石とUPJ 狭窄を伴う症例では,一期的に形成術と切石術を併せて施行するのは理に適うとの意見もある7,8)。ESWL,TUL,PNL の全てを用いても効果が得られないような特別の症例での選択肢になるとする報告が多い9〜12)
Neto らが実施した10 mm 以上の近位尿管結石に対するESWL と,半硬性尿管鏡によるTULと腹腔鏡のRCT においても,SFR は腹腔鏡が有意差を持って優れているが,腹腔鏡は術後の疼痛,手術時間が長い,入院が長いなどの不利益もあるために最終救済的な治療法であり,開放手術を選択するよりは有利で,TUL やESWL はできないが,腹腔鏡に関してよく整った施設であれば良いオプションになると結んでいる13)
Basiri らは15 mm 以上の近位尿管結石症例においてTUL,PNL,腹腔鏡各50 例ずつのRCTを行い,SFR は有意差はないがTUL が最も低く腹腔鏡が最も優れていたとの結果であるが,TULは合併症が他の手技より低く,結局は担当する医師の最も専門的な手技により各治療法が選択されると結論づけている14)
Desai らは2 年間1 施設の440 例の経験で,腹腔鏡手術を行ったのはわずか5 例(1.1%)でしかなかったと報告しており,従来の治療法が確立された施設においては,腹腔鏡はほとんど必要としない治療法とも理解出来る15)
本法は現段階ではまだ保険適用申請中である。当ガイドラインから適応症例を積極的に示すことは出来ないが,EAU の2012 ガイドラインを参考に妥当と思われるものを示すとすると,①複雑な形態の腎結石,②ESWL や内視鏡手術による治療失敗症例,③解剖学的な異常を合併した症例(馬蹄腎,腎の回転異常,異所性腎など),④病的な肥満,⑤無機能腎に対する腎摘,などであろう。
いずれにしても,今後の症例集積により尿路結石に対する有力な治療手段になる可能性を秘めているであろう。
参考文献
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2) 荒川 孝.我が国の尿路結石治療の現状と展望.JJEE.2009;22(2):142-7.
3) M. Maier, T. Tischer, L. Gerdesmeyer:ESWT in Orthopedics-Therapeutic Energy Applications in Urology(Standard and Recent treatment), Ch. Chaussy, G. Haupt, D. Jocham et al, Georg Thieme Verlag KG, Stuttgart, Germany, 144-53, 2005.
4) Elbahnasy AM, Elbendary MA, Radwan MA, et al. Laparoscopic pyelolithotomy in selected patients with ectopic pelvic kidney:a feasible minimally invasive treatment option, J Endourol. 2011;25(6):985-9.
5) Kramer BA, Hammond L, Schwartz BF. Laparoscopic pyelolithotomy:indications and technique. J Endourol. 2007;21(8):860-1.
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8) 坂田綾子,槙山和秀,蓼沼知之,他.腎盂切石術を同時に施行した腹腔鏡下腎盂形成術の6 症例 の検討.Japanese Journal of Endourology. 2012;25(1):149-54.
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13) Lopes Neto AC, Korkes F, Silva JL 2nd, et al. Prospective randomized study of treatment of large proximal ureteral stones:extracorporeal shock wave lithotripsy versus ureterolithotripsy versus laparoscopy, J Urol. 2012;187(1):164-8.
14) Basiri A, Simforoosh N, Ziaee A, et al. Retrograde, antegrade, and laparoscopic approaches for the management of large, proximal ureteral stones:a randomized clinical trial, J Endourol. 2008;22 (12):2677-80.
15) Desai RA, Assimos DG. Role of laparoscopic stone surgery, Urology. 2008;71(4):578-80.

 


 
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