(旧版)科学的根拠(Evidence Based Medicine;EBM)に基づいた腰痛診療のガイドラインの策定に関する研究

 
第1章 急性腰痛の診療


研究1:欧米のガイドラインからみた急性腰痛の診療
急性腰痛の診断
欧米のガイドラインで報告されている急性腰痛の診断に関する科学的根拠の順位付けを4段階(アメリカのガイドライン)と3つ星システム(イギリスのガイドライン)の両者で各文末に表記する。 ガイドラインの中で記載のない項目は-とした。

1.初期評価法
1)患者の年令、症状の期間と内容、活動と仕事に対する症状の影響、過去の治療に対する反応は、腰痛の治療に重要である。(B/★★)
2)癌の既往、説明できない体重減少、免疫抑制剤や静注薬物の使用、尿路感染の既往、安静時の疼痛増強と発熱は、癌や感染の可能性を示唆する。 これらの問診による情報は、特に55歳を超える患者に対して重要である。(B/★★)
3)馬尾症候群の徴候である膀胱機能障害やサドル麻痺を伴う下肢筋力の低下は、重症な神経障害を示唆している。(C/★)
4)外傷の既往(若年成人の高所からの転落や交通事故、骨粗鬆症の可能性の患者または高齢者における転倒や重量物の挙上)は、骨折の可能性を念頭に置く必要がある。(C/★)
5)精神的、社会経済的問題などの非器質的因子は、腰痛の評価と治療を複雑にする可能性があるので、初期評価には、患者の精神的、社会経済的問題に注意する必要がある。(C/★★)
6)疼痛図表(pain drawing)や可視疼痛計測表(visual analog scale)は病歴聴取に使用できる。(D/-)
7)SLRは若年成人の坐骨神経痛の評価に有用である。脊柱管狭窄を有する高齢者では、SLRは正常となる可能性がある。(B/★★)
8)神経障害の有無の判定には、アキレス腱反射と膝蓋腱反射、母趾の背屈筋力テスト、知覚障害の範囲が有用である。(B/★★)
2.単純X線検査
1)単純X線検査は、臨床検査で危険信号がなければ、1ヶ月以内の急性腰痛患者の通常検査としては薦められない。(B/-)
2)腰椎の単純X線検査は、以下の危険信号がある場合には、骨折を除外するために薦められる:最近の重度の外傷(全年令)、最近の軽度の外傷(50歳以上)、長期のステロイド服用、骨粗鬆症、70才以上の患者。(C/-)
3)単純X線検査に末血と赤沈を組み合わせると、以下の危険信号が存在する場合には、急性腰痛の原因疾患としての腫瘍と感染症の鑑別に有用である:癌または最近の感染症の既往、37.8℃以上の発熱、静注薬の乱用、長期ステロイドの使用、安静臥床で悪化する腰痛、説明不能な体重減少。(C/-)
4)腫瘍と感染症の危険信号が存在する症例では、単純X線検査で異常所見がなくとも、骨スキャン、CT、およびMRIが必要な場合がある。(C/-)
5)腰椎の単純X線検査を通常に行うことは、放射線被爆の観点から成人には薦められない。(B/-)
3.各種画像検査(CT、MRI、ミエログラフィー、CT-ミエログラフィー)
1)馬尾症候群または進行性の筋力低下を有する症例では、緊急手術が必要となる可能性があるため、CT、MRI、ミエログラフィー、またはCT-ミエログラフィーを緊急に行うことが薦められる。 緊急検査の実施は、外科医と相談して決定するのがよい。(C/-)
2)脊椎腫瘍、感染、骨折、および占拠性病変が強く疑われる症例では、CT、MRI、ミエログラフィー、またはCT-ミエログラフィーを行うことが薦められる。(C/-)
3)CT、MRI、ミエログラフィー、またはCT-ミエログラフィーは、腫瘍や感染症などの重篤な疾患の危険信号がある場合を除き、腰痛発症後1ヶ月以内には行う必要はない。 発症1ヶ月後に重篤な疾患との鑑別や手術が必要な場合には行ってよい。(B/-)
4)腰椎手術の既往のある患者では、腰椎手術由来の瘢痕組織と椎間板ヘルニアとの鑑別にMRIを行う。(D/-)
5)ミエログラフィーとCT-ミエログラフィーは、侵襲的な検査であり副作用の危険性を増加させるので、術前検査としてのみ行われるのがよい。(D/-)
6)CTとMRIのスライス幅は、0.5cm以下で椎体終板に対し平行にする。 MRIの磁界強度は0.5テスラー以下で、最適な画像を得るのに適切な走査時間が許容される。 ミエログラフィーとCT-ミエログラフィーでは水溶性造影剤を使用する。 CT、MRI、ミエログラフィー、またはCT-ミエログラフィーの技術的な調書は放射線専門医の報告を基に作成させる。(B/-)
4.その他の検査
1)骨スキャンは、脊椎腫瘍、感染、骨折が疑われる急性腰痛を評価するのに有用である。 妊娠中は禁忌である。(C/-)
2)サーモグラフィーは、急性腰痛の患者評価には薦められない。(C/-)
3)椎間板造影は侵襲的であり、急性腰痛患者には薦められない。 他の非侵襲的検査(CT、MRI)を行うことにより椎間板造影による合併症を回避できる。(C/-)
4)CTディスコグラフィーは、椎間板ヘルニアによる神経根障害が疑われる患者の評価には他の画像検査(CT、MRI)以上には薦められない。(C/-)

 

 
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