(旧版)科学的根拠(Evidence Based Medicine;EBM)に基づいた腰痛診療のガイドラインの策定に関する研究
第1章 急性腰痛の診療
福島県立医科大学整形外科
菊地臣一 紺野慎一
菊地臣一 紺野慎一
研究1:欧米のガイドラインからみた急性腰痛の診療
はじめに
アメリカの医療政策研究局は、1992年までの急性腰痛に関する科学的根拠の包括的レビューを行い、1994年に成人の急性腰痛治療ガイドラインを報告した1)。 急性腰痛治療ガイドラインが必要とされる理論的根拠としては4つ挙げられている。 第一には、アメリカでの腰痛の罹患率が15〜20%と高く、45才以下の就業不能の最も高い原因が腰痛であることである。 第二に、腰痛はプライマリーケアにかかる患者が訴える2番目に多い理由であり、外科処置の3番目に多い理由であることから、経済的、社会心理的負担が高いという事実である。 第三には、活動制限を有する腰痛患者の大部分は適切な治療を受けていないという科学的根拠が増加しているという事実である。 第四には、腰痛の研究機関の増加により一般的に行われている腰痛治療の系統的評価が可能になったことが挙げられる。
イギリスでは1993年以降の急性腰痛に関する科学的根拠の包括的レビューを行い、1998年に急性腰痛の管理のための臨床ガイドラインを報告した2)。 イギリスのガイドラインは、わずかのコンセンサスまたは極めて限られた科学的根拠しかない場合には、アメリカのガイドラインを転載している。 イギリスの急性腰痛の管理のための臨床ガイドラインは、アメリカの成人の急性腰痛治療ガイドラインの改訂版といえる。 そこで、まず急性腰痛の診療に関する欧米両者のガイドラインを比較した。