(旧版)高血圧治療ガイドライン2009
第12章 二次性高血圧
POINT 12d |
【遺伝性高血圧】
- 本態性高血圧は,遺伝因子,環境因子が関与する多因子疾患であり,遺伝因子の関与は30-70%とされる。
- 個々の遺伝子多型の高血圧への寄与度は低いが,日本人の食塩感受性遺伝子多型の頻度は高い。
- 単一遺伝子異常に起因する先天性の血圧異常症は存在するがまれである。
6.遺伝性高血圧
高血圧の大部分を占める本態性高血圧は,複数の遺伝因子と環境因子が関与する多因子疾患であり,ともに高血圧を有する同胞対では一般集団における高血圧罹患率の約3.5倍の発症リスクがある808)とされるほか,遺伝因子の寄与度は30-70%程度809)と推定されている。一般集団において一定頻度以上認められるゲノム上の塩基配列の個人差を「遺伝子多型」と呼ぶが,RA系遺伝子多型を中心に遺伝子多型と高血圧罹患や合併症発症との関連が多数報告されている810)ほか,本邦において実施されたミレニアム・ゲノム・プロジェクトにおけるゲノム網羅的解析で,複数の一塩基多型(SNPs)811)と候補座位812)も明らかになっている。しかしながら,個々の遺伝子多型の寄与度は相対的に小さく,遺伝子多型情報のみによる本態性高血圧の診断は困難と考えられている。その一方で,複数の食塩感受性遺伝子多型頻度が日本人において高いことが報告813)されており,減塩をはじめとする生活習慣の修正方針814)や降圧薬の選択815)に遺伝子多型情報が役立つ可能性も指摘されている。
これに対して,頻度は非常に少ないが単一遺伝子変異に起因し,遺伝子解析により診断が可能となる先天性の血圧異常症が複数明らかになってきている。特に尿細管レベルにおける水・電解質の輸送を司るチャネルや共輸送体遺伝子の異常によるものが多く報告816)されており,小児発症例,電解質異常を伴うような血圧異常症の際には鑑別診断の対象となる。遺伝性血圧異常症の原因遺伝子と臨床的特徴を表12-7に示す。
なお,遺伝子解析を行う場合には,「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」817)に準拠して行うことが必須事項となる。
これに対して,頻度は非常に少ないが単一遺伝子変異に起因し,遺伝子解析により診断が可能となる先天性の血圧異常症が複数明らかになってきている。特に尿細管レベルにおける水・電解質の輸送を司るチャネルや共輸送体遺伝子の異常によるものが多く報告816)されており,小児発症例,電解質異常を伴うような血圧異常症の際には鑑別診断の対象となる。遺伝性血圧異常症の原因遺伝子と臨床的特徴を表12-7に示す。
なお,遺伝子解析を行う場合には,「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」817)に準拠して行うことが必須事項となる。
表12-7.遺伝性血圧異常症の原因遺伝子と臨床的特徴
常優:常染色体優性,常劣:常染色体劣性
遺伝性高血圧 | 原因遺伝子 | 臨床的特徴 |
妊娠時増悪早期発症高血圧 | ミネラルコルチコイド受容体(MR) (NR3C2),常優 | 20歳未満発症,子癇発症 プロゲステロンが変異MRに作用し昇圧 |
グルココルチコイド奏効性アルド ステロン症(GRA)(FH-I) | 11β-水酸化酵素(CYP11B1)とアルドステロン 合成酵素(CYP11B2)のキメラ,常優 | 低PRA,高PAC,低Kは少ない グルココルチコイド,スピロノラクトン反応性 |
11β-水酸化酵素欠損症 (11β-OHD) | 11β-水酸化酵素(CYP11B1) 常劣 | 先天性副腎過形成,低PRA,高DOC 高ACTH,低コルチゾール,男性化 |
17α-水酸化酵素欠損症 (17α-OHD) | 17α-水酸化酵素(CYP17) 常劣 | 先天性副腎過形成,低PRA,高DOC 高ACTH,低コルチゾール,女性化 |
リドル症候群 | 上皮型Naチャネルβ,γサブユニット (SCNN1B,SCNN1G),常優 | 低PRA,低PAC,代謝性アルカローシス Na貯留,低K,トリアムテレン反応性 |
ゴードン症候群 (PHA IIC,IIB) | セリン-スレオニンキナーゼ (IIC:WNK1,IIB:WNK4),常優 | 高K,低PRA,代謝性アシドーシス PAC正常,サイアザイド反応性 |
ミネラルコルチコイド過剰症候群 (AME)(New症候群) | 11β-水酸化ステロイド脱水素酵素 (HSD11B2),常劣 | 低PRA,低PAC,低K,発育遅延 代謝性アルカローシス,スピロノラクトン反応性 |
代謝異常クラスター(高血圧,高コレステロール血症,低Mg血症) | ミトコンドリアtRNA,イソロイシン (MTTI),母系遺伝 | 低Mg,低K,浸透率50% 50歳未満発症 |
遺伝性低血圧 | 原因遺伝子 | 臨床的特徴 |
バーター症候群1,2型 | 1型:Na-K-2Cl共輸送体(SLC12A1),常劣 2型:ATP感受性Kチャネル(KCNJ1),常劣 | 重症,低K,低Mg,代謝性アルカローシス 高プロスタグランジンE2血症の別名あり,高PRA,高PAC |
バーター症候群3,4型 | 3型:腎Clチャネル(CLCNKB),常劣 4型:Barttin(BSND),常劣 | 小児発症,多尿,テタニーは少ない,低K 高PRA,高PAC,高Ca尿症 |
ギテルマン症候群 | サイアザイド感受性Na-Cl共輸送体 (SLC12A3),常劣 | 思春期発症,バーターより軽症,低Ca尿症 高PRA,高PAC,低K,低Mg |
PHAI | ミネラルコルチコイド受容体(NR3C2),常優 上皮型Naチャネルα/β/γサブユニット (SCNN1A/B/G),常劣 | 新生児-乳幼児期発症,高PRA 低Na,高K,年齢とともに症状改善 |