(旧版)高血圧治療ガイドライン2009
第6章 臓器障害を合併する高血圧
POINT 6a |
【脳血管障害】
- 脳血管障害超急性期(発症3時間以内)から急性期(発症1-2週間以内)では,臨床病型により降圧対象,降圧目標が異なる。脳梗塞超急性期で血栓溶解療法施行患者では,治療中や治療後を含む24時間の血圧を180/105mmHg未満にコントロールする。血栓溶解療法の適応とならない脳梗塞では,収縮期血圧>220mmHg,または拡張期血圧>120mmHg,脳出血では,収縮期血圧>180mmHg,または平均血圧>130mmHgの場合に降圧対象となる。降圧の程度は,脳梗塞では前値の85-90%,脳出血では前値の80%を目安とする。
- 脳血管障害急性期で推奨される降圧薬は,ニカルジピン,ジルチアゼム,ニトログリセリンやニトロプルシドの微量点滴静注などである。ただし,頭蓋内圧を上昇させる危険性に注意する。ニフェジピンの舌下投与は急激な血圧低下をひき起こす危険があるので用いない。
- 脳血管障害慢性期(発症1か月以降)では,降圧最終目標(治療開始1-3か月)は140/90mmHg未満とする。緩徐な降圧がきわめて重要であり,臨床病型(脳出血,ラクナ梗塞など),脳主幹動脈狭窄・閉塞の有無,脳循環不全症状の有無に留意する。両側頸動脈高度狭窄,脳主幹動脈閉塞の場合は,特に下げすぎに注意する必要がある。ラクナ梗塞や脳出血では140/90mmHgよりさらに低い降圧目標とする。
- 脳血管障害慢性期に推奨される降圧薬は,Ca拮抗薬,ACE阻害薬,ARB,利尿薬などである。糖尿病や心房細動合併患者では,ACE阻害薬,ARBを用いる。
- 無症候性脳梗塞や無症候性脳出血を合併する高血圧患者の降圧療法における目標血圧値や有用な降圧薬は,脳血管障害慢性期のそれに準ずる。
1.脳血管障害(表6-1)
本邦では,高血圧性臓器障害に占める脳血管障害の頻度が高く,人口構造の高齢化の進行と相まって,脳血管障害患者,特に脳梗塞患者が増加しつつある。脳血管障害患者では急性期に高血圧を合併している割合が高く,急性期の血圧管理をどのように行うのかがまず問題となる。特に超急性期における脳梗塞の血栓溶解療法が本邦でも行われるようになり,超急性期における降圧療法のあり方も重要な臨床的課題となっている。さらに高血圧は脳血管障害患者の再発に関与する最も重要な危険因子であり,再発予防を目的とした高血圧管理が重要である。また高齢高血圧患者では無症候性脳血管障害を高率に合併することが知られており,無症候性脳血管障害を合併する高血圧患者の降圧療法のあり方もきわめて重要である。
表6-1.脳血管障害を合併する高血圧の治療
表6-1.脳血管障害を合併する高血圧の治療
降圧治療対象 | 降圧目標 | 降圧薬 | ||
超急性期 (発症3時間以内) |
血栓溶解療法予定患者 SBP>185mmHgまたは,DBP>110mmHg |
血栓溶解療法予定患者 ≦185/110mmHg 血栓溶解療法開始後 (少なくとも24時間) <180/105mmHg |
ニカルジピン,ジルチアゼム,ニトログリセリンやニトロプルシドの微量点滴静注 | |
急性期 (発症1-2週間以内) |
脳梗塞 | SBP>220mmHgまたは,DBP>120mmHg | 前値の85-90% | ニカルジピン,ジルチアゼム,ニトログリセリンやニトロプルシドの微量点滴静注*1,2 |
脳出血 | SBP>180mmHgまたはMBP>130mmHg | 前値の80% | ||
慢性期 (発症1か月以降)*3 |
<140/90mmHg (治療開始1-3か月)*4 |
Ca拮抗薬,ACE阻害薬,ARB,利尿薬など*5 |
- *1 頭蓋内圧を上昇させる危険性に注意。
- *2 ニフェジピンの舌下投与は急激な血圧低下をひき起こす危険があるので用いない。
- *3 急性期治療が終了する1-2週後から開始することもある。
- *4 両側頸動脈高度狭窄,脳主幹動脈閉塞の場合は特に下げすぎに注意。ラクナ梗塞や脳出血では,140/90mmHgよりさらに低い降圧目標とする。
- *5 糖尿病や心房細動合併患者ではARB,ACE阻害薬を用いる。
1)急性期
脳血管障害発症1-2週間以内の急性期には,脳出血,脳梗塞の病型にかかわらず血圧は高値を示す。この発症に伴う血圧上昇は,ストレス,尿閉,頭痛,脳組織の虚血,浮腫や血腫による頭蓋内圧亢進などの生体防御反応によると考えられる。多くの例では安静,導尿,痛みのコントロール,脳浮腫の治療によって,降圧薬の投与なしに数日以内に降圧する338),339)。
高血圧に伴い脳血流自動調節域は右方へシフトしているが340),脳血管障害急性期には自動調節自体が消失し,わずかな血圧の下降によっても脳血流は低下する。すなわち,降圧によって病巣部およびその周辺のペナンブラ領域(血流の回復により機能回復が期待できる可逆性障害の領域)の局所脳血流はさらに低下し,病巣(梗塞)の増大をきたす可能性がある341)。なお,虚血部は血管麻痺の状態にあるために,血管拡張作用を有する薬物は健常部の血管のみ拡張し,病巣部の血流は逆に減少する,いわゆる脳内スチール現象を生ずることがある。これらのことより,脳血管障害急性期には積極的な降圧治療は原則として行わない342)。
しかし,著しく血圧が高い場合は脳血管障害急性期であっても降圧治療を行うが,どの血圧レベルから降圧治療を開始するかについては十分な成績がない343)。発症直後の降圧治療は,高血圧性脳症が強く疑われる場合以外は,的確な病型診断を行ったうえで,神経症候を頻回に観察しつつ慎重に行う必要がある。血圧は,5分以上の間隔をおいて2回測定し,拡張期血圧140mmHg以上が持続する場合には,静注製剤によって緊急降圧を開始する344)。拡張期血圧140mmHg以下の場合は,一応の安静が得られた後に,20分以上の間隔をおいて少なくとも2回の測定を行い,脳梗塞では,収縮期血圧>220mmHgまたは拡張期血圧>120mmHgの場合に降圧治療を行う345)。
なお,組織プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)の静注は,収縮期血圧>185mmHgまたは拡張期血圧>110mmHgの場合は禁忌となる。発症後3時間以内の超急性期にt-PAによる血栓溶解療法の実施が予定されている患者では,治療中や治療後を含む24時間の厳格な血圧管理により収縮期血圧180mmHg未満かつ拡張期血圧105mmHg未満にコントロールする345)。
ACCESS346)では,脳梗塞患者で,運動麻痺を呈する入院後6-24時間で収縮期血圧200mmHg以上または拡張期血圧110mmHg以上の例,または24-36時間で収縮期血圧が180mmHg以上または拡張期血圧105mmHg以上の例を対象に,1週間にわたりARBのカンデサルタンによる治療を実施し,一次エンドポイントの脳卒中の予後には有意な差がなかったものの,二次エンドポイントである1年後の死亡率や心血管イベントの発症が有意に低下した。ARBの臓器保護作用が期待されるが,多数例での検証が必要である。
脳出血に関しては十分なエビデンスはないが,米国脳卒中協会のガイドライン347)に準じて,収縮期血圧>180mmHgまたは平均血圧>130mmHgのいずれかの状態が続いたら降圧治療を開始する。
また,発症6時間以内の超急性期の脳出血患者を対象にしたINTERACTのパイロット試験の結果が最近報告された348)。収縮期血圧目標140mmHg群と180mmHg群を比較した結果,血腫の拡大が140mmHg群で減少する傾向にあった。予後の差は明らかでないが,今後,脳出血患者の超急性期の厳格な降圧についての検討が必要である。
くも膜下出血の急性期には,再出血を予防することが重要であり,降圧,鎮静,鎮痛を十分に行うことが望ましい。降圧治療を開始する血圧レベル,降圧目標についてのエビデンスはない。
使用薬物は速効性で投与量の調節が容易であるものが望ましい。Ca拮抗薬であるニカルジピン,ジルチアゼム,あるいは従来から用いられているニトログリセリンやニトロプルシドの微量点滴静注を行う。ただし,頭蓋内圧を上昇させる危険性があることに注意する。本邦ではニカルジピン,ニルバジピンなどのCa拮抗薬は「頭蓋内出血で止血が完成していない患者,脳卒中急性期で頭蓋内圧亢進の患者」には使用禁忌とされている。また,ニフェジピンカプセルの舌下投与は急激な血圧降下をひき起こす危険があるので用いない。降圧目標は病型によって異なるが,脳梗塞では前値の85-90%を,脳出血では前値の80%を目安に降圧する。出血性梗塞の出現,急性心筋梗塞,心不全,大動脈解離の合併を認める場合は,より積極的な降圧が必要である。なお,注射による降圧治療は可能なかぎり短期間とし,経口治療に変える。
また,脳卒中患者の日常生活動作(ADL)の改善には早期からのリハビリテーションが必要であり,ベッドサイドでのリハビリテーションを行う場合にも,それに伴う血圧の変動に留意する。
高血圧に伴い脳血流自動調節域は右方へシフトしているが340),脳血管障害急性期には自動調節自体が消失し,わずかな血圧の下降によっても脳血流は低下する。すなわち,降圧によって病巣部およびその周辺のペナンブラ領域(血流の回復により機能回復が期待できる可逆性障害の領域)の局所脳血流はさらに低下し,病巣(梗塞)の増大をきたす可能性がある341)。なお,虚血部は血管麻痺の状態にあるために,血管拡張作用を有する薬物は健常部の血管のみ拡張し,病巣部の血流は逆に減少する,いわゆる脳内スチール現象を生ずることがある。これらのことより,脳血管障害急性期には積極的な降圧治療は原則として行わない342)。
しかし,著しく血圧が高い場合は脳血管障害急性期であっても降圧治療を行うが,どの血圧レベルから降圧治療を開始するかについては十分な成績がない343)。発症直後の降圧治療は,高血圧性脳症が強く疑われる場合以外は,的確な病型診断を行ったうえで,神経症候を頻回に観察しつつ慎重に行う必要がある。血圧は,5分以上の間隔をおいて2回測定し,拡張期血圧140mmHg以上が持続する場合には,静注製剤によって緊急降圧を開始する344)。拡張期血圧140mmHg以下の場合は,一応の安静が得られた後に,20分以上の間隔をおいて少なくとも2回の測定を行い,脳梗塞では,収縮期血圧>220mmHgまたは拡張期血圧>120mmHgの場合に降圧治療を行う345)。
なお,組織プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)の静注は,収縮期血圧>185mmHgまたは拡張期血圧>110mmHgの場合は禁忌となる。発症後3時間以内の超急性期にt-PAによる血栓溶解療法の実施が予定されている患者では,治療中や治療後を含む24時間の厳格な血圧管理により収縮期血圧180mmHg未満かつ拡張期血圧105mmHg未満にコントロールする345)。
ACCESS346)では,脳梗塞患者で,運動麻痺を呈する入院後6-24時間で収縮期血圧200mmHg以上または拡張期血圧110mmHg以上の例,または24-36時間で収縮期血圧が180mmHg以上または拡張期血圧105mmHg以上の例を対象に,1週間にわたりARBのカンデサルタンによる治療を実施し,一次エンドポイントの脳卒中の予後には有意な差がなかったものの,二次エンドポイントである1年後の死亡率や心血管イベントの発症が有意に低下した。ARBの臓器保護作用が期待されるが,多数例での検証が必要である。
脳出血に関しては十分なエビデンスはないが,米国脳卒中協会のガイドライン347)に準じて,収縮期血圧>180mmHgまたは平均血圧>130mmHgのいずれかの状態が続いたら降圧治療を開始する。
また,発症6時間以内の超急性期の脳出血患者を対象にしたINTERACTのパイロット試験の結果が最近報告された348)。収縮期血圧目標140mmHg群と180mmHg群を比較した結果,血腫の拡大が140mmHg群で減少する傾向にあった。予後の差は明らかでないが,今後,脳出血患者の超急性期の厳格な降圧についての検討が必要である。
くも膜下出血の急性期には,再出血を予防することが重要であり,降圧,鎮静,鎮痛を十分に行うことが望ましい。降圧治療を開始する血圧レベル,降圧目標についてのエビデンスはない。
使用薬物は速効性で投与量の調節が容易であるものが望ましい。Ca拮抗薬であるニカルジピン,ジルチアゼム,あるいは従来から用いられているニトログリセリンやニトロプルシドの微量点滴静注を行う。ただし,頭蓋内圧を上昇させる危険性があることに注意する。本邦ではニカルジピン,ニルバジピンなどのCa拮抗薬は「頭蓋内出血で止血が完成していない患者,脳卒中急性期で頭蓋内圧亢進の患者」には使用禁忌とされている。また,ニフェジピンカプセルの舌下投与は急激な血圧降下をひき起こす危険があるので用いない。降圧目標は病型によって異なるが,脳梗塞では前値の85-90%を,脳出血では前値の80%を目安に降圧する。出血性梗塞の出現,急性心筋梗塞,心不全,大動脈解離の合併を認める場合は,より積極的な降圧が必要である。なお,注射による降圧治療は可能なかぎり短期間とし,経口治療に変える。
また,脳卒中患者の日常生活動作(ADL)の改善には早期からのリハビリテーションが必要であり,ベッドサイドでのリハビリテーションを行う場合にも,それに伴う血圧の変動に留意する。
2)慢性期
脳血管障害の既往を有する患者は,高率に脳血管障害を発症することが知られており,脳血管障害の最大の危険因子である高血圧をいかにコントロールするかは,慢性期の脳血管障害患者の治療上,きわめて重要である。本邦での後ろ向き研究の結果では脳血管障害後の血圧と再発率との関係には,病型による違いが顕著であり,脳梗塞の再発と拡張期血圧の間には,脳出血例にはみられないJ型現象がみられることが報告され注目されていた349)。
1990年以後には比較的大規模な脳血管障害再発予防と血圧との関連を検討した試験が行われ155),350),351),352),353),354),系統的レビューもある355)。降圧薬治療は,あらゆるタイプの脳血管障害の再発,非致死性脳梗塞の再発,心筋梗塞および全血管イベントの発生を有意に抑制させる。
PROGRESS155)では,平均年齢64歳の患者群に対して,従来の治療に加えてペリンドプリル(4mg/日)や利尿薬であるインダパミド(2mg/日)を追加投与し,血圧を147/86mmHgから138/82mmHg程度に降下させ,脳血管障害再発が28%抑制された。さらにそのサブ解析208)では,血圧が低く(収縮期血圧が120mmHgくらいまで)コントロールされた患者ほど,脳出血,脳梗塞の発症率が低いことが示されている。
PRoFESS356)では,55歳以上の虚血性脳血管障害発症後早期(中央値15日)の患者20332例を対象として,ARBテルミサルタン(80mg/日)群とプラセボ群で,脳卒中再発を一次エンドポイントとして平均2.5年追跡し,比較した。平均血圧はテルミサルタン群で3.8/2.0mmHg低値であったが,脳卒中再発率には差を認めなかった。
1990年以後には比較的大規模な脳血管障害再発予防と血圧との関連を検討した試験が行われ155),350),351),352),353),354),系統的レビューもある355)。降圧薬治療は,あらゆるタイプの脳血管障害の再発,非致死性脳梗塞の再発,心筋梗塞および全血管イベントの発生を有意に抑制させる。
PROGRESS155)では,平均年齢64歳の患者群に対して,従来の治療に加えてペリンドプリル(4mg/日)や利尿薬であるインダパミド(2mg/日)を追加投与し,血圧を147/86mmHgから138/82mmHg程度に降下させ,脳血管障害再発が28%抑制された。さらにそのサブ解析208)では,血圧が低く(収縮期血圧が120mmHgくらいまで)コントロールされた患者ほど,脳出血,脳梗塞の発症率が低いことが示されている。
PRoFESS356)では,55歳以上の虚血性脳血管障害発症後早期(中央値15日)の患者20332例を対象として,ARBテルミサルタン(80mg/日)群とプラセボ群で,脳卒中再発を一次エンドポイントとして平均2.5年追跡し,比較した。平均血圧はテルミサルタン群で3.8/2.0mmHg低値であったが,脳卒中再発率には差を認めなかった。
(1)降圧目標値
AHA/ASAのガイドライン357)では,絶対的な目標血圧,降圧程度については不明確で個々の症例によるとしている。降圧による効果は,平均10/5mmHg程度であれば有用性が得られる。そしてJNC7では正常血圧は120/80mmHg未満と定義されていることを強調している。
一方,2007年に改定されたESH-ESCガイドライン85)では,PROGRESSの結果を反映し,脳血管障害慢性期患者の降圧目標として,130/80mmHg未満という数値を推奨している。しかし,主幹動脈閉塞,高度狭窄があるような場合には,この結果をすべてあてはめることはできず,個々の症例に応じた対応が必要である。Rothwellら358)は,症候性の両側の頸動脈が70%以上狭窄している患者(全体の2-3%)では,収縮期血圧が140mmHgまで低下した群で脳血管障害のリスクが有意に増加したが,一側性の70%以上の頸動脈狭窄では収縮期血圧が140mmHgまで低下しても,脳血管障害リスクは増加しなかったとしている。また,WASID359)で,症候性頭蓋内動脈(内頸動脈,中大脳動脈,椎骨動脈または脳底動脈)狭窄症例のうち,70%以上の高度狭窄例では,血圧レベルは虚血性脳血管障害リスクとは関連せず,70%未満の中等度狭窄例では収縮期血圧が160mmHg以上の場合に,虚血性脳血管障害リスクが高いとする結果であった。また,血管狭窄と閉塞例では血行動態が異なっていると考えられ,一側の内頸動脈閉塞や脳底動脈閉塞などの場合の,血圧レベルと虚血性脳血管障害リスクについては参考となるエビデンスがない。脳血管障害慢性期には,個々の患者において至適血圧の程度は,年齢,糖尿病などの合併症の有無,血管閉塞・狭窄の程度,血管病変部位,側副血行の程度,脳循環自動調節障害の程度など,さまざまな要因によって影響を受けるため異なっている可能性がある。
降圧薬治療は,通常発症1か月以降の慢性期から開始する。しかし,急性期治療が終了する1-2週間後から開始する場合もある。降圧目標は,年齢などを考慮しながら,治療開始後1-3か月かけて徐々に降圧することが重要で,最終目標は,個々の症例により異なるため一律には論じられないが,両側内頸動脈高度狭窄例や主幹動脈閉塞例を除き,140/90mmHg未満とするのが妥当と考えられる。なお,脳出血やラクナ梗塞では140/90mmHg未満よりさらに低い降圧目標が推奨される360)。治療中に,めまい,ふらつき,だるさ,頭重感,しびれ,脱力,気力低下,神経症候の増悪などを訴えた場合は,降圧による脳循環不全症状の可能性があり,降圧薬の減量や変更が必要である。特に脳主幹動脈閉塞例(特に椎骨脳底動脈系)では脳循環自動調節能の障害が3か月以上持続する例もあるため,注意すべきである361)。
一方,2007年に改定されたESH-ESCガイドライン85)では,PROGRESSの結果を反映し,脳血管障害慢性期患者の降圧目標として,130/80mmHg未満という数値を推奨している。しかし,主幹動脈閉塞,高度狭窄があるような場合には,この結果をすべてあてはめることはできず,個々の症例に応じた対応が必要である。Rothwellら358)は,症候性の両側の頸動脈が70%以上狭窄している患者(全体の2-3%)では,収縮期血圧が140mmHgまで低下した群で脳血管障害のリスクが有意に増加したが,一側性の70%以上の頸動脈狭窄では収縮期血圧が140mmHgまで低下しても,脳血管障害リスクは増加しなかったとしている。また,WASID359)で,症候性頭蓋内動脈(内頸動脈,中大脳動脈,椎骨動脈または脳底動脈)狭窄症例のうち,70%以上の高度狭窄例では,血圧レベルは虚血性脳血管障害リスクとは関連せず,70%未満の中等度狭窄例では収縮期血圧が160mmHg以上の場合に,虚血性脳血管障害リスクが高いとする結果であった。また,血管狭窄と閉塞例では血行動態が異なっていると考えられ,一側の内頸動脈閉塞や脳底動脈閉塞などの場合の,血圧レベルと虚血性脳血管障害リスクについては参考となるエビデンスがない。脳血管障害慢性期には,個々の患者において至適血圧の程度は,年齢,糖尿病などの合併症の有無,血管閉塞・狭窄の程度,血管病変部位,側副血行の程度,脳循環自動調節障害の程度など,さまざまな要因によって影響を受けるため異なっている可能性がある。
降圧薬治療は,通常発症1か月以降の慢性期から開始する。しかし,急性期治療が終了する1-2週間後から開始する場合もある。降圧目標は,年齢などを考慮しながら,治療開始後1-3か月かけて徐々に降圧することが重要で,最終目標は,個々の症例により異なるため一律には論じられないが,両側内頸動脈高度狭窄例や主幹動脈閉塞例を除き,140/90mmHg未満とするのが妥当と考えられる。なお,脳出血やラクナ梗塞では140/90mmHg未満よりさらに低い降圧目標が推奨される360)。治療中に,めまい,ふらつき,だるさ,頭重感,しびれ,脱力,気力低下,神経症候の増悪などを訴えた場合は,降圧による脳循環不全症状の可能性があり,降圧薬の減量や変更が必要である。特に脳主幹動脈閉塞例(特に椎骨脳底動脈系)では脳循環自動調節能の障害が3か月以上持続する例もあるため,注意すべきである361)。
(2)推奨される降圧薬の種類
Ca拮抗薬,ARB,ACE阻害薬,利尿薬などが推奨される。特に,糖尿病や心房細動合併患者では,糖尿病新規発症抑制作用,インスリン抵抗性改善作用,心房細動発症抑制作用も有しているARB,ACE阻害薬が推奨される。
PROGRESS155)では,ACE阻害薬と利尿薬の組み合わせにより,脳血管障害再発率の抑制および認知症の発症予防効果が示唆された。MOSES354)では,両群同程度の降圧にもかかわらず一次エンドポイント(全死亡,全心血管および脳血管イベント)および二次エンドポイントのうち脳血管イベントは,Ca拮抗薬(ニトレンジピン)群に比較して有意にARB(エプロサルタン)群で少なかった。
AHA/ASAのガイドライン357)では,利尿薬単独および利尿薬+ACE阻害薬を勧めている。また,背景因子(頭蓋外脳血管閉塞性疾患,腎障害,心疾患,糖尿病など)に基づいて個々の患者で決定すべきであるとし,糖尿病や心房細動患者ではARB,ACE阻害薬を推奨している。ESH-ESC 2007ガイドライン85)では,すべての種類の降圧薬が推奨されており,その理由として,得られるメリットの大部分は降圧自体に依存したものであることが指摘されている。厳格な降圧が達成されると使用した薬剤間の差が出にくいと考えられるが,MOSES354)で示されたように,同程度の降圧にも関わらず薬剤間の差を示す成績もある。
PROGRESS155)では,ACE阻害薬と利尿薬の組み合わせにより,脳血管障害再発率の抑制および認知症の発症予防効果が示唆された。MOSES354)では,両群同程度の降圧にもかかわらず一次エンドポイント(全死亡,全心血管および脳血管イベント)および二次エンドポイントのうち脳血管イベントは,Ca拮抗薬(ニトレンジピン)群に比較して有意にARB(エプロサルタン)群で少なかった。
AHA/ASAのガイドライン357)では,利尿薬単独および利尿薬+ACE阻害薬を勧めている。また,背景因子(頭蓋外脳血管閉塞性疾患,腎障害,心疾患,糖尿病など)に基づいて個々の患者で決定すべきであるとし,糖尿病や心房細動患者ではARB,ACE阻害薬を推奨している。ESH-ESC 2007ガイドライン85)では,すべての種類の降圧薬が推奨されており,その理由として,得られるメリットの大部分は降圧自体に依存したものであることが指摘されている。厳格な降圧が達成されると使用した薬剤間の差が出にくいと考えられるが,MOSES354)で示されたように,同程度の降圧にも関わらず薬剤間の差を示す成績もある。
3)無症候期
無症候性脳血管障害の診断には1997年に発表された診断基準362)が用いられる。高血圧との関連で重要な無症候性脳梗塞のほとんどはラクナ梗塞と同様の小梗塞であり,高血圧や加齢が最大の危険因子となる小血管病と考えられている。その存在や進展は脳血管障害発症や認知機能低下の独立した危険因子である168),170),362),363),364)。また,T2*強調MRIにより無症候性脳出血(微小出血)が高頻度に検出されるようになり注目されている363),365),366),367)。
原則的に,無症候性脳梗塞や脳出血を合併する高血圧患者の降圧療法における目標血圧値や有用な降圧薬は脳血管障害慢性期のそれに準ずるが,PROGRESSのCTサブスタディの結果368)からもより十分な降圧療法が望ましい。無症候性脳梗塞は大脳白質病変とともに臓器障害の指標となり,24 時間血圧でのnondipper,riserやモーニングサージが危険因子になっている105),120),369),370)。24時間を通した降圧,早朝の血圧管理が重要である。
一方,無症候性頸動脈狭窄や未破裂脳動脈瘤も高頻度に見出され,脳血管障害発症の高リスク群であることが判明している362),363)。無症候性頸動脈狭窄については,降圧に先立ち外科的治療の適応の有無を評価しておくことが重要である。くも膜下出血の家族歴を有するか未破裂脳動脈瘤が発見された場合には積極的な降圧療法が推奨される。
なお,無症候期では脳血管障害の病態や治療に対する患者の不安も大きく,十分なインフォームドコンセントがきわめて重要である362)。
原則的に,無症候性脳梗塞や脳出血を合併する高血圧患者の降圧療法における目標血圧値や有用な降圧薬は脳血管障害慢性期のそれに準ずるが,PROGRESSのCTサブスタディの結果368)からもより十分な降圧療法が望ましい。無症候性脳梗塞は大脳白質病変とともに臓器障害の指標となり,24 時間血圧でのnondipper,riserやモーニングサージが危険因子になっている105),120),369),370)。24時間を通した降圧,早朝の血圧管理が重要である。
一方,無症候性頸動脈狭窄や未破裂脳動脈瘤も高頻度に見出され,脳血管障害発症の高リスク群であることが判明している362),363)。無症候性頸動脈狭窄については,降圧に先立ち外科的治療の適応の有無を評価しておくことが重要である。くも膜下出血の家族歴を有するか未破裂脳動脈瘤が発見された場合には積極的な降圧療法が推奨される。
なお,無症候期では脳血管障害の病態や治療に対する患者の不安も大きく,十分なインフォームドコンセントがきわめて重要である362)。