(旧版)高血圧治療ガイドライン2009

 
第3章 治療の基本方針


1.治療の目的

高血圧治療の目的は,高血圧の持続によってもたらされる心臓と血管の障害に基づく心血管病の発症と,それらによる機能の障害や死亡を抑制し,また,すでに心血管病を発症している場合にはその進展,再発を抑制して死亡を減少させることである。そして高血圧患者が健常者と変わらない充実した日常生活を送れるように支援することである。
高血圧治療によって得られる効果は,個々の高血圧患者の心血管病発症リスクが大きければ,それだけ得られる効果も大きい198)。降圧治療(生活習慣の修正と薬物療法)の効果の評価については,無作為化比較対照試験から得られた成績が科学的根拠として最良のものである。しかし,降圧薬治療の効果は無作為化比較対照試験では過小評価される場合があること,また,高血圧の治療は生涯にわたって行われるものであるが,無作為化対照比較試験の期間は数年にすぎないので,無作為化試験の成績にも限界があることを認識すべきである79)
数年間の臨床試験で高血圧の治療効果を判定するには,試験期間中のイベント発症数が多い症例を対象とするほうが判定しやすい。したがって,最近の臨床試験では高齢者や高リスク患者を対象としたものが多い。
過去に諸外国においてプラセボを対照に行われた大規模無作為化比較試験の結果から,降圧薬治療は高血圧患者にとって多くの有益な効果をもたらすことが明らかにされた。すなわち,降圧薬治療は心血管病の発症率と死亡率を明らかに低下させる199),200),201),202)
これまでに海外で行われた臨床試験をまとめて解析した成績によると,収縮期血圧10-20mmHg,拡張期血圧5-10mmHgの低下により相対リスクは脳卒中で30-40%,虚血性心疾患で15-20%それぞれ減少することが明らかにされている。これらの試験では,血圧レベルが高いほど,また高齢者ほど降圧薬治療による絶対リスクの減少が大きいことが示されている。また,収縮期高血圧を対象とした試験の解析でも,収縮期血圧の10mmHg程度の低下で脳卒中は30%,虚血性心疾患は20数%それぞれ減少することが示されている136)
本邦の脳卒中と虚血性心疾患の発症率は欧米と異なるので,上記の成績をそのまま本邦にあてはめることはできないが,血圧レベルの高い高血圧患者ほど,また高齢者ほど降圧薬治療の有用性が高いことは人種を問わないと思われる。
高齢者に比較して若年者や成・壮年の高血圧患者では,同年代の正常血圧者に比較して相対リスクは高いが絶対リスクは低く,治療による絶対リスクの減少も小さい。したがって,高齢者では比較的短期間の治療で効果が明らかになるのに対し,若年者や成・壮年者では長期間にわたる高血圧の治療が必要であることを認識すべきである。
本邦では欧米とは異なり,虚血性心疾患よりも脳卒中の発症頻度が数倍高いことから,降圧薬治療の有用性はより高いことが予想される。なお,降圧薬治療による心血管病抑制効果をメタ解析した成績では,治療によるリスクの減少は男女で差がないことが示されている203)

 

 
ページトップへ

ガイドライン解説

close-ico
カテゴリで探す
五十音で探す

診療ガイドライン検索

close-ico
カテゴリで探す
五十音で探す